第六十四話 「私の血を弔い酒として捧げよう」
用語説明:「ヴァリァス適性」(通称:適性)
ヴァリァスの侵食耐性、及び適性による能力の上昇幅に用いられる。
生まれつき個人差があるが、親からの遺伝が非常に大きい。しかし何かをきっかけに適性が大幅に上がると能力も非常に発達する。
適性は先天的なものなので出生時点で発現してなければ、その後に発現することは絶対に無い。
実は生まれつき適性を持つ生物は人類だけだが、その理由は謎である。
「黄陽……化け物はアンタでしょ……!」
蒼花は涙を堪えて槍を強く握った。
「人間にしては化け物じみた胆力ね……という誉め言葉よ。今のは流石のワタシでもびっくりしたけど」
黄陽は一通り体を再生させるとまた剣を四本握った。
「ほらァッ!お前もこの場で死ぬのよッ!!」
黄陽は我を見失って蒼花に斬りかかった。
「ん……?」
黄陽は蒼花と打ち合っていると彼女の目の色が変わっていることに気づいた。
何か異変を感じた彼女は攻撃をするのを中断して距離を取った。
見てみると蒼花の左目が上から赤色に染まっていた。
ちょうど目の半分の高さで赤色から紫色、そして青色の順になっていた。
「どうかした……?降参なんてさせないけど」
「ッ……このッ!」
一瞬戸惑ったが、黄陽は構わず仕掛ける。
しかしいくら攻撃しても蒼花に全て防がれる。
加えて、反撃の隙を突かれて形勢が不利になっていく。
「さっきまでこんな強くなかったはずなのに……ッ!」
「動きがさっきに比べて遅くなってるけど……大丈夫そう?怒り狂ってる私の相手をするには……かなり弱すぎるんじゃない?」
蒼花の左目が鋭く光った。
彼女が槍を少しだけ動かすと黄陽の腕が地面に落ちた。
「ひっ……!何をしてッ……」
黄陽は情けなく腕を振って蒼花を威嚇した。
「判断も動きも……遅すぎる……!」
蒼花は槍をしっかりと握り、全身の力を込めて黄陽に向けた。
「!」
「油断したわね!」
黄陽は剣で蒼花の槍を防いで、残りの剣で槍に添えられた彼女の左腕を刺した。
「ッ……」
「アナタも赤月と同じように地獄まで送ってあげるッ!」
黄陽はそう言い放つと一気に腕に力を込めて槍を押し返し始めた。
蒼花の腕に刺さった剣はより深く刺さっていく。
(このままだと腕を切り落とされる……ッ!)
しかし蒼花は槍を引こうとはしなかった。
逆に全身全霊で槍を押し込み、とどめの一撃を与えんと足を踏み込んだ。
その時、誰かが後ろから槍に手を添えた。
「私も手伝うよ」
「僕もやってあげるよ」
蒼花からは顔が見えないが、声だけで誰かすぐにわかった。
宿敵を倒すために集まった魂が共鳴する。
火花を散らす槍先は三人の意思を乗せて、わずかに前に進んでいく。
黄陽の剣に亀裂が入り始めた。
「なんて力なの……ッ!このワタシがパワーで押されるなんて……!」
入った亀裂がさらに大きくなり、破片が飛び散り始めた。
「さようなら……!」
剣が壊れた刹那、槍から放たれた衝撃波が彼女の体を消し飛ばした。
「ぐっ……」
全身の力を使い果たした蒼花は膝から崩れ落ち、空を見上げた。
左腕の感覚は無くなっていた。
彼女は傷口からとめどなく流れる血を見つめ、自分の近くに切り落とされた左腕と乱雑に切り裂かれたローブが落ちているのを見つけた。
腕の重さで押さえつけられて自由に動けないローブは夜風に煽られながら必死に踊り狂っていた。
「……」
彼女は自分の置かれた状況を飲み込むことで精一杯だった。
出血多量で思考が霞む中で失った家族のことを思い出していた。
「蒼花……この前より遥かに強くなったわね……」
「……」
「早くとどめを刺したら……?」
「そうね……」
彼女はふらふらしながら立ち上がり、首だけの黄陽に近づいた。
重い槍を片手で持ち上げ、突き刺そうとした時、黄陽は口を開いた。
「今……どんな気持ち……?」
「気持ちって……何のこと?」
「自分を愛してくれた父親も、憎み呪った母親も、大切な妹も、唯一生き残った弟も、人ですらなくなったワタシも……全て失ってどう思った……?」
「はあ……」
蒼花は黙って槍を突き刺した。
黄陽の頭を貫いたまま、地面にまで深く差し込んだ。
「また……退屈な日々が続くのか……かな」
蒼花は意識を失って倒れた。
◇
「なんだ今の轟音は……」
俺は格我を撒いて歩道を走っていた。
すれ違う歩行人の数も減り、ところどころ割れているガラスを踏まないように避けながら如月さんに連絡を取ろうと試みていた。
「どうだ?繋がったか?」
「さっきの轟音の直前に如月さんが赤月の名前を呼んでいるのが聞こえたが……それから通話が繋がらない」
「もしかして如月が……」
「やめろ、縁起でもない」
俺はしばらく走って戦闘が起きていたであろう場所に辿り着いた。
「如月さん……⁉」
俺は急いで駆け寄ると、彼女は腕から大量に出血して顔色が悪くなっていた。
しかも右目に深い斬撃の痕があった。
「止血をしないと……」
急いで彼女の腕をきつく縛って血が止まるようにした。
「にしても……何があったんだ……」
セイエイが呆然とした声で言う。
「おそらく黄陽と戦ったんだろう……」
俺は現場の近くを歩き、姿が見えない赤月を探した。
「如月さんと一緒にいたはずだがな……」
如月さんは救急部隊に運ばれ、俺と応援に駆け付けた隊員たちが周囲をうろついていた。
その内の何人かが俺に事情聴取をし、他に犠牲者がいないか確認し始めた。
「それで倒れている如月隊員を見つけたと……」
「俺が来た時には全て終わっていたので詳しいことは彼女が起きた後に聞いてください」
「そうか……あの如月隊員が重傷とはな……」
「……」
隊員が立ち去ろうとした時、彼の足元が一瞬だけ光った。
「!」
俺がそれの存在に気づいた時は後の祭りだった。
「しまった……ッ!」
地面から出てきた結晶は隊員を貫き、中から誰かが出てきた。
「まさか黄陽が始末されてるとは思わなかったが……まあ所詮は捨て駒未満。俺にとっては痛くも痒くもない……!」
「だ、誰だお前はッ!!!」
一人の隊員が格我に向かって言い放った。
「部外者は死ね」
彼は振り向きもせずにその隊員も殺してしまった。
「少し計画が狂ったが……別に俺一人でも問題は無いな」
格我は懐に手を伸ばし、持って来たカプセルを取り出した。
「なんだそれは……」
「これか?今に見せてやる……!」
カプセルを通して見えた彼の目は不気味なほど笑っていた。
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