第五十七話 「死神・タナトス」
「おい、来るぞッ!」
化け物は走りながら大剣を大きく振り回した。
たちまち陣形は崩れ、逃げ遅れた隊員がその犠牲になってしまった。
「弥生、俺がヤツの隙をつくるから後は頼んだ!」
「は?ちょっといくらなんでも危険過ぎるって!」
俺は弥生の声を無視して化け物に突撃した。
「俺じゃないとコイツの動きに追えないだろうからなッ!」
「ウゥ!!!!」
化け物は大剣を水平にして切った。
「遅い遅い。お前も俺みたいに片手剣にすればいいんじゃないか?」
一歩退き、大剣を振り切った後に胴体に斬撃を繰り出す。
電撃剣から織り成す青い剣閃が綺麗な孤を描く。
刃が入る。俺が思ったよりも体は柔らかく、電撃剣の切れ味を持て余すほどだった。
傷口は少し焼け焦げ、上に煙を、下に黒い血を零した。
「姜ちゃん、ナイス!」
後ろで弥生がグーサインを出してぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ウァァァ……!」
化け物は大剣を地面に突き立てて呼吸を荒くした。
その呆気なさに一抹の警戒心を抱いていた俺は迂闊にとどめを刺せずに立ち尽くしていた。
「姜ちゃん、そこどいて」
弥生は俺を後ろにどかし、化け物に向かって銃口を向けた。
ダァーン__
銃声が木霊して数秒後、硝煙の臭いが鼻を刺激した。
「……そ、そんなバカな!」
「どうかしたのか?」
俺は様子がおかしい弥生の横に立ち、跪いている化け物を見た。
「何も不審なところは見当たらないような……?」
「ち、違う!コイツ、私が撃った弾をこの至近距離で弾いたんだ!あまりにも早すぎて火花が散らなければ気づけなかった……!」
すると化け物はゆっくりとその巨体で立ち上がった。
「二人とも伏せてッ!」
一人の隊員が機関銃をぶっ放した。とんでもない量の煙が立ち込め、鼓膜を突き破りそうな銃声音が山地に染み込んだ。
「姜ちゃん、あれ!」
「……!」
化け物はどう言い換えても化け物。この一言に尽きる。
機関銃で集中砲火されようものなら、人が完全武装してところで無事では済まない。
ただ、コイツは化け物なのだ。
物理法則は無視できないだろうが、それ以外はなんでもありな災害の化身。
(そうでなければ、あれだけの弾幕をその剣一つで防ぎきれるはずがない……!)
「ば……ばけ……っ」
全て撃ち尽くした隊員は絶望したような信じられないような表情をした。
自分の足元に転がった空の薬莢を見下ろし、何事も無く佇む化け物に視線を向けた。
銃声という爆音に慣れてしまった俺の耳には無の静寂が広がった。
それはまるでパチンコ屋から出たら車の走行音さえ聞こえないような静けさだった。
「ウシャァッ……!」
化け物はなんの躊躇いも無く自分が手にする大剣を放り投げた。
「がっ……!」
気を抜いた隊員は機関銃もろとも体を両断されて死亡した。
ずり落ちた上半身は薬莢の山に埋もれた。
一回転した大剣は化け物の足元に深く刺さった。
化け物は片手で容易く引き抜くと俺と弥生に目を向けた。
「下がれ。接近戦は俺がやる」
左手で彼女を後ろへ動かした。
「ウガァッ!!!!!!!!」
「ぐっ!」
化け物が繰り出す一撃は両腕が砕けそうになるほど重かった。
筋肉が押し潰されそうになるような感覚だ。
「セイエイ、結晶でヤツの足元を攻撃しろ!」
「了解~」
俺は結晶に巻き込まれないように数歩下がった。
「ウガッ……⁉」
無数の結晶は剣山のように地面から突起を作り出し、化け物の足を串刺しにした。
完全に足を取られて地面に平行の姿勢になった化け物は大剣を地面に突き刺し、その反動で起き上がろうとした。
「させるかよ!」
俺は電撃剣をまっすぐ振り下ろす。
対して化け物も異常な速さで大剣で攻撃を受け止めた。
電撃剣は大剣を融かしながら少しづつ斬り進む。
逆に俺の体は化け物の大剣によって後ろに押し戻されていく。
「うぐっ……うあああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は右足に全体重とその命を預け、腹の底から生命の鼓舞を。
パキン__
大剣が折れたその瞬間、破片が宙で止まった。
「見えた……勝機ッ!!!!!」
飛び散った破片が地面に落下し始めるより先に、俺はその刃を振るった。
化け物が隊員を殺したのと同じ斬り方で。
胴体を深く大きく斬られた化け物は大剣を落とし、ボロボロと体が崩れていった。それを眺めていると、突然視界が歪んだ。
「姜ちゃん……⁉大丈夫か……?」
弥生が急いで駆けつける。
(あの化け物に斬られないように加速倍率を最大にしていたからか……。俺はもう戦えそうにないが……倒すべき相手は倒したんだ。今はただ……睡魔に全て任せよう……)
俺は重い瞼を閉じた。
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