第五話 「ヴァリァス・オーバーブレイク」
翌朝、部隊でEランクヴァリァスの攻略に臨んだ。
ヴァリァスは弱いものになればなるほど発生件数が多くなる。
それ故、場所がわからなくても発生する確率が高くなりがちなため、事前に準備しておくのだ。
今回は道路に出現したヴァリァスに挑むとのこと。
「初めまして、Eランク隊員の神村と申します。今後ともよろしくお願いいたします」
仲間たちはにこやかに答えてくれた。
そしてヴァリァスに踏み込んだ。
特殊部隊の靴などの素材はヴァリァスの侵食を無効化できる特別な素材なのだ。
だが、いくらEランクとは言っても人体にとって脅威なのは変わりない。
全員が気を引き締めた。出てきた化け物を囲むように陣形を組む。
ワニみたいな化け物は隊長によって瞬殺された。
化け物はぐったりしてその場で寝た。この時点で異変に気づき始めていた。
本来ならボスと倒した後には再化結晶が出てくるはず。それなのに……
「オーバーブレイクだ!全員離れろ!」
たちまち周囲のヴァリァスが倒れた化け物に吸い込まれていく。すると化け物は巨大化し、再び敵対した。
(オーバーブレイクって確か、ボスを倒した後にそのボスが近くにあるヴァリァスに侵食された物体からヴァリァスだけを吸収して狂暴化する現象だったっけか。)
狂暴化した化け物は俺たちに目から光線を放った。俺以外の隊員は体が真っ二つになり、一瞬にして部隊が壊滅状態に陥った。
「死んだ……?た、隊長!」
困惑した俺が呼びかけても、返事なんてあるわけなかった。
地面に転がる仲間たちの死体を目の前にして彼らが死んでいるという
ことは理解しているが、もしかしたら生きているかもって思って声をかけただけ。
状況はすでに飲み込めてる。もちろん状況を飲み込めたところでC、Dランクである皆を瞬殺したような相手に俺が渡り合えるはずがなかった。
「グルガァァァァァァァ!!!!」
化け物は残る敵が俺だけであることを確信すると、咆哮を上げながら襲い掛かった。猛スピードで襲ってくる爪が当たったら俺も侵食されてしまうのだろうか。
そう考えている間にもヤツは攻撃の手を止めない。インカムで助けを呼ぼうにもそれすらしている時間が無い。
(この連撃から離れないと……)
その時、俺の能力が発動した。化け物の動きが遅くなり、攻撃を見切れるようになった。持っていた剣で頭を斬ろうとするが固すぎるせいで手がジーンと痺れた。
攻撃を食らって驚いたのか化け物は俺から距離を置くとさっきと同じように光線を放った。さっきまで目で追うことすら出来なかった光線だが、余裕で避けることができる。しかし、このままでは決着が着かず俺が疲弊したところを仕留められるだけ。
俺がもらった剣はあのムカデを倒した時と同じ「電撃剣」だ。ただ、バッテリーを充電し忘れたせいで連発は厳しい。剣の持ち手にあるスイッチを押し、帯電状態にした。
化け物はそこに光線を数本放ってきた。さっきまでと違い、速さが段違いに上がっていた。
俺は軌道を計算し、あらかじめ攻撃が当たらないところに移動し頭めがけて剣を構える。
ドジュ__。
俺の左腕に光線が当たっていた。振り返ると、一瞬だけ光線がこちらに方向転換しているのが見えた。
まさか光線の方向を意図的に変えられるとは思ってもなかった。後ろに過ぎていった光線が俺に当たるのはそれが理由としか考えられない。
傷が深かったのかどうしようもない激痛が左腕に襲い掛かった。剣を持っている右手で押さえることもできないため左腕を体に押さえつけて止血した。おそるおそる見てみたが、傷口に侵食の様子は見られなかった。
安心しているところを突かれて不覚にも左足も食らってしまった。
「いっ……!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!
泣きっ面に蜂で泣きそうだった。なんで初出勤で大怪我しないといけないんだ、と一人で愚痴を言った。痛みを紛らわせるために全力で剣を握り、その切っ先を化け物に向けた。
「お前で死んだ仲間の無念を晴らしてやる……!」
身体から痛みが消え、全身に力が湧き起こった。会って十数分しか経ってないが、それでも仲間を目の前で殺されたのだ。許しはしない。
「グルァァァァァ!!!!!!」
能力が発動しているにも関わらず、光線が高速で飛んできた。至近距離で投げられたボールを避けるのと感覚が似ている。能力のおかげで思考は追い付くのに体がほとんど動かせず、もう手遅れだと思った。まさかこの状態で避けられないなんて……
俺は倒せると、少し期待していたが現実を再認識し、自分の無力さを恨んだ。
光線がかすろうとした時、視界がさらに遅くなった。グワァ~ンという耳鳴りがしたが、光線はもはや静止しているように見えた。
「加速」
自分の能力にそう名付けた。誰とも共有できない俺だけの時間。これが発動する度に今まで一人で過ごしてきたのと同じようと思ってしまう。
「皮肉な話だ。かつて自分が嫌っていた『一人になる能力』に救われるとは」
傷ついた体を労わりながら止まっている化け物の手前に近づいた。剣のバッテリーを全て使って帯電させた剣を頭に突き刺した。剣から電気独特の焦げ付いた匂いが鼻を刺激した。
「加速」が解除されると化け物はのたうち回りながら必死に剣を抜こうと藻掻いた。
化け物は自分の頭に刺さった剣と一分ほど格闘した後、完全に消滅した。
(きっとアイツが再化結晶のような存在だったのだろう、にしても強敵だった。)
周りを見渡すと地面は抉れ、ところどころ血が飛び散っていた。生存者がいないか探すために周囲をうろついたが、鉄の匂いがするばかりで生きてる人はいなかった。無事に仇を取れて、自分の勝利を認識した時、俺は膝から崩れ落ちた。
疲れじゃない……体に…力が入らない……。
目の前が真っ暗になり、俺は眠りについた。右手に剣を握りしめて。
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