第五十二話 「日没と月出」
九月下旬__
姜椰と如月はいつも通り任務で出動していた。
如月率いるSランク十番隊一行はとある山を眺めた。
「今までとは違って頭数が多いですね。そんなに危険な敵なんですか?」
「そうじゃなくて、あまりにも広範囲だから効率的に潰すためだよ」
聞いた話では山を囲うように部隊を投下するつもりらしい。
今回の超広範囲ヴァリァス__等級:不明。
二時間前に山頂付近でヴァリァスが出現し、すでに標高の半分まで侵食が進んでいる。
自分たちがやるべきことは早急に化け物を見つけて叩き、自身がヴァリァスに侵されないように帰還することだ。
「俺達はどういうルートで行くんですか?」
「とりあえず山頂まで行って、その頃には他の部隊が戦闘になってると思うからそこまで急行する形かな。今回はSランク部隊もいくつか配属されてるから心配はいらなそうだけど」
「……そろそろ行きますか」
「今回は赤月も同行するから、適当にこき使ってもらって構わないよ」
振り返ると一か月ぶりに見る赤月の姿があった。
「頼りにしてるぞ、赤月」
「まッ、任せて……ください!」
彼は元気よく返事をした。
間もなくして俺達は入山した。
足を滑らせないように気を配りながら山道を駆け上がっていく。
最初は後ろに複数の隊が続いていたが、途中で各々別の道に入っていった。
「全員止まって」
「ん……どうかしましたか?」
「多分今私達がいるのは山の中腹より少し下ら辺なの。入山前に見えたヴァリァスの侵食の度合いを逆算すればここより先には化け物がいる可能性が大いにある」
「ここからは慎重に進んだ方がいいですね……」
「この境界線を跨いだら、誰かがバランスを崩したりしてもお互いを助けないようにしてほしいの。私達が要であるこの状況で味方が共倒れするのは一番避けたいから」
「……」
俺が後ろにいる皆の反応を伺うと、全員覚悟の決まった目をしていた。
「君も大丈夫?時には残酷さも必要だよ」
「……わかってます」
「うん。それじゃ、行くよ……」
◇
二時間かけて俺達は山頂に辿り着いた。
午後三時の空に漂う灰色の雲からは穏やかな空気は感じられなかった。
少し隊服の内側に熱気が溜まっていたので、山頂を吹き抜けていく九月下旬の冷たい風を浴びた。
「風邪ひくよ?」
「如月さん……ロボットとナントカは風邪をひかないんですよ」
「そういえばそうだったね……」
さっきから如月さんのは落ち着かない様子だった。
椅子に座り、いきなり立ったと思えば辺りをキョロキョロと見渡していた。
「何をそんなにそわそわしてるんですか」
「他の隊と連絡がつかないの」
「……なんか嫌な予感がしますね」
「私も胸騒ぎが止まらない……」
わずかに日が暮れてきた。山頂に到着した頃に比べると風が強く、冷たく吹きつけていた。
「もし俺達と他の部隊のところに敵が現れた場合はどうしますか?」
「その時は……私一人で応援に向かうから。君はここで私の代わりに隊を率いてほしい」
「俺が……ですか?」
「私がいなくなった時に、十番隊で一番頼れるのは君しかいないの。統率は慣れていないだろうけど、適当にうまくやって」
彼女が言葉が尽きた時だった。
ドゴォーン……!!!
「っ……⁉」
大地震を想起させる揺れと同時に俺はベンチから吹っ飛ばされた。
慌てて態勢を立て直し、電撃剣を引き抜いた。
「敵襲か⁉」
「ちょい、あれを見て!」
俺は如月さんの方に駆け寄り、彼女が指さす方を見た。
「燃えてる……!もしかして敵の仕業ですか?」
「神村、後ろッ!」
ガキーン___!!!
咄嗟に振り返って剣で防御した。
「ボケっと突っ立っているだけと思っていたが、なかなか素早い反応だ……」
「お前が遅いだけだろうが」
不意に現れた赤髪の男はフンと鼻で笑った。
「それじゃここは任せたよ」
「了解です!」
如月さんは足早に他の隊の応援に行った。
「……わし相手にこの人数か。甘く見過ぎだな」
男は固いグローブを纏った拳を振り払って剣を弾いた。
「とはいえ、お前相手に俺ら全員で相手するわけにはいかないからな」
「豪語しおって。わしの……朱雀玲の拳で全員地面にひれ伏せさせてやろう!!」
「相田財団の回し者か」
「どうだろうな。わしに勝ったら教えてやらんことも無いが」
「神村さん、僕も手伝います」
後ろで赤月や他の隊員も戦闘態勢に入った。
「全員に告ぐ!一刻も早くコイツを倒し、如月さんの加勢に行くぞッ!!!!!」
「了解ッ!!!!」
姜椰たちの士気が上がると玲も首をポキッと鳴らした。
「気合だけならわしも負けないぞ……!」
先手を打ったのは玲の方だった。
「これが武人の真髄だッ!!!!」
姜椰に玲の怒涛のラッシュ攻撃が炸裂する。プロのボクサーでも回避しきれないほどのスピードを誇る連撃が空気を押し込んでいく。
(加速状態で見ると案の定遅いな。少しだけ痛めつけるか……)
俺は玲の両腕に素早く斬撃を繰り出して間合いを取った。
与えた傷が浅かったのか、地面には血が数滴しか落ちなかった。
「お主……わしの腕に傷をつけるとは相当な実力を持つと見えるな」
「実力があるだとか、お前の評価なんて興味が無い。死にたくないならさっさと去れ。これは忠告だ」
「侮辱してるのか……?」
玲は両腕に力を込めると緑色の血管が浮かび上がった。
「フンッ!!!!」
その瞬間、上半身の服がはじけ飛んだ。
まるでアニメに出てくる筋肉キャラのように。
「もう容赦はせんッ!全力で貴様を血祭りに上げてくれるッ!」
玲はさっきとは別格の速度で攻撃を放つ。
その一撃一撃は俺の加速を以てしても避けるには苦労するほどだった。
「食らえ!!!!」
「ッ!」
俺は拳の動きに身体を慣れさせつつ、ダメージを負わないように攻撃をパリィしていく。
隊員たちは戦闘の様子を伺い、玲の隙を突こうと準備していた。
姜椰が玲と相まみえている間に赤月は腕につけている機械をテキパキと操作していた。
「あの男に隙ができたらこれをお見舞いしてやる……!」
「邪魔だ」
「⁉」
気づけば玲は姜椰から赤月の方に向かっていた。
姜椰と距離を置き、その間に赤月を始末しようと動いていたのだ。
玲は機械を弄っている赤月を見て憤慨していた。
「お前の装置は武の道から大それた卑怯な手段。そんなものでわしを傷つけようとするような輩には制裁が必要だッ!!!!」
「させるかよ!!!!」
辛うじて戻って来た姜椰が玲の拳を防いだ。
「神村さん、そこどいて!」
赤月が腕の機械を玲の脇腹に密着させた。
「なんだこれはッ⁉」
戸惑っている玲をよそに赤月は装置を発動させた。
「アカツキ=Ⅱ、最大出力!」
赤月の装置から真っ赤な炎が放射された。
「ぎゃああああああああああ!!!!!!!!」
全身に着火した玲は火を揉み消そうと地面に転がり回った。
「とどめだッ!」
赤月は姜椰の背を押して距離を置くとグレネードを発射した。
「全員伏せてッ!!!!!」
直後、山頂で赤黒い噴煙が巻き起こり爆風が山肌を撫でた。
山頂地点ではものすごい爆風が吹き荒れ、隊服をパタパタと震わせた。
◇
「ぐッ……この化け物風情が……!!!!!」
玲は体の大半が焼け、爆撃で左腕を失ったが偶然にも吹き飛ばされたところに川があり一命を取り留めた。
さっきから川の水に浸かっているが焼け跡は全く消える気配が無い。
彼は思いっきり唇を噛んだ。ジワリと血が出てきて、それが顎の方に向かって流れた。
彼は名も無い小僧に体を燃やされたことが腹立たしく思っていた。
ましてや、(本人曰く)武の道から外れた「機械」を使って攻撃されたことが何より癪に障ったのだ。
「まだ時間はある……必ずヤツらを全滅してくれるッ!」
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