第五十話 「まるで鉄のように」
「神村……君の本気を見せてくれる?」
「……いつでもどうぞ」
俺は木刀を手に取り刀身を彼女の体の中心と重なるように置いた。
すると俺が一呼吸置く間もなく、彼女から攻撃を仕掛けた。
「ッ!」
一瞬だけ視界から消えたと思った槍が真正面から現れた。
(速いッ……!)
剣で槍を流そうとするも、威力が異常だった。
押し負けた俺は後方に下がり態勢を整える。
そして顔を上げると至近距離まで如月さんが迫っていた。
彼女は容赦なく俺の真横へ向かって槍を振る。
「どうしたの?君の能力が暇を持て余しているようだけど」
「まだ……自分の目で見切れます」
「もしかして私……ナメられてる?」
「そういうわけではありません。ただ、今の段階では使わなくてもいいと思っただけです」
そう言うと彼女は槍をくるくる回しながらこちらに歩み始めた。
「使わなくていい、それは私に対して能力を使う必要が無いということでしょう?」
「如月さんを甘く見てるわけではありません。ただ「加速」は長時間発動していると体への負担が大きいので無闇に連発することはできないんです」
すると彼女は大きくため息をついた。
「体への負担をかけるのが訓練でしょ。それに今は模擬戦闘。死なない程度にお互い全力でかからないと意味が無いの」
「……そこまで言うなら俺殺す気でかかります」
「最初からそうしてって言ってるじゃない」
(加速ッ!)
「ちょっ……まだ準備できてないのに……」
俺は一瞬で距離を詰め、超高速で剣を振った。
「!」
それなのに如月さんは間一髪のところで剣を防いだ。
「まだまだ遅いよ。そんなんじゃこの前と同じ結果になるだけ」
「ぐっ……セイッ!!!」
俺は体の負担を顧みずに連撃を叩き込んだ。
姜椰と如月の戦闘は熾烈さを増した。
残像がいくつも舞う。虚空が切り裂かれる度に火花が散っていく。
世界から光が消えても彼らの火花で全てを照らせるほどだ。
(攻撃と回避の瞬間だけ加速すれば格上相手でも効率よく戦える。より長く、より速く敵と戦えるようになるために……!)
「ぐッ!」
如月さんの槍が腹を直撃した。
「ゲホッゲホッ……!」
「どうする?もう終わりにする?」
俺は剣を杖代わりにして立ち上がった。
「ぁぁっ……俺は……まだ舞えます」
「……わかったよ。かかって来て」
俺は彼女に決死の連撃を叩き込む。
(加速に耐えられるまであとわずか……!それまでにこの人を仕留めるッ!)
しかし戦闘が長引くにつれて俺は次第に不利になっていった。
最初の頃に比べて如月さんのパワー、スピード、テクニックがメキメキと上がっているように感じた。
(この人、この短時間でここまで成長したのか……⁉)
如月蒼花__本人さえ知ることのない適性の正体は「練度」である。
鉄のように熱くなりやすく冷めやすい、彼女の戦闘技術も然りだった。
彼女は姜椰との戦闘を通して、戦闘スキルが飛躍的に上昇している。その成長スピードは一瞬にして姜椰を超えてしまい、戦局が傾いたのである。
カコーン___。
「あ……」
「……私の勝ちね。相手してくれてありがと」
「あ、こちらこそ……」
会釈して俺はその場に座り込んだ。
冷えた地面に座るだけで体が安堵の声を上げていた。
しばらくして如月さんは紙コップを二つ持って来た。
「はい、お疲れ様」
「ありがとうございます……ゴクゴク」
俺はコップ内のスポドリを一気に飲み干した。
「まだ熱中症には気をつけないといけない季節だからね」
「あの…俺の剣術はどうでした?なんか改善点とかは……」
「君は隙が多すぎ。わざわざ剣を振り上げなくても、突きで十分攻撃は通るでしょ」
「如月さん……全部流しましたよね……?」
「さあ……?」
彼女はすっとぼけて目を泳がせた。
「俺も……Sランク隊長の皆みたいに強くなれますか?」
「……なれるよ。果てしないくらいの時間がかかると思うけど」
「それ……望み薄いんじゃ……?」
「さあね」
如月さんは首を傾げて誤魔化した。
◇
例の研究所では篠宮博士が次の戦いのために兵器を開発していた。
「また変なものを作ってるのか?いいかげんに役立つのを作ってくれよ」
後ろで腕を組んで待っている格我は、さっきから文句タラタラだった。
ついに文句に耐えかねたのか、篠宮博士は椅子でくるりと回ると格我に言った。
「元はと言えばお前が神村とかいう子供相手にムキになったからだろう。生きる目的も無く、黄陽に押されて惰性的に再化結晶を取り込んだんじゃなかったのか」
「結果論だがアイツ(黄陽)と出会ったのは正解だったな。とりあえず今の目的は一に黄陽を守ること、二に神村を始末することだ」
「初めて会っただけで目の敵にされるとは気の毒なやつだ」
「そんなの知るか」
真っ暗闇の部屋はカプセル内から発せられる緑色の光で満たされていた。
篠宮博士が向き合うカプセルにはいくつもの管で繋がれた肉の塊が浮かんでいる。
「あともう少し……!」
極限まで集中しているのか、篠宮博士の荒い息遣いだけが聞こえる。
「はぁ……たかが化け物一匹作るだけでこんな苦労するか?」
格我は誰にも聞こえないほどの声で呟いた。
「うぐおッ⁉」
篠宮博士の悲鳴の直後、カプセルから閃光が放たれた。
「なんだ⁉」
格我が目を開けるとカプセルの中にあった肉の塊が脈打つ球体に変わっていた。
「おい、なんだ今の閃光は!」
「ついに……ついに完成したッ!」
篠宮博士は手先をぷるぷると震わせていた。
感動のあまり言葉も発せなくなった博士は数歩下がると膝から崩れ落ちてしまった。
格我がいくら彼に話しかけてもまるで伝わっていなかった。
「なんなんだこのジジイ……つくづく至高の読めないヤツだ」
格我は頭を掻くと、その部屋を去った。
篠宮博士は数時間後に目が覚めた。
実はあの時に膝から崩れ落ちてそのまま気絶してしまっていたのだ。
彼が顔を上げると謎の肉の球体は依然としてその場に存在していた。
それに完全に見惚れていた博士はようやく言葉を発した。
「我が……最高傑作……ッ!」
本作品は2025年 7/1(火)まで休載致します。
物語のストックや展開を考えるための期間となります。何卒お許しください。




