第四十七話 「私の敵に然るべき報いを」
姜椰は素早くスマホを手に取る。
「如月さんですか。何かありました?」
「ごめん。翡翠が殺された」
彼女は業務連絡のように淡々と言い放った。
「え……⁉なんでですか、如月さんがついていながら……!」
「違うの。学校帰りに何者かに襲われたみたいで……ちょっとごめん。もう切る」
如月は姜椰に詳細を言えなかった。
きっと涙を堪えられないから、姜椰に泣き顔をさらす前に電話を切ったんだろう。
「如月さん……」
◇
紅雀祭当日、姜椰は屋上で爆睡していた。
「……そろそろ起きるか」
横のまま思いっきり体を伸ばした。
全身の血流が良くなっていくのがわかった。しかしそのせいで足がつりそうになった。
「十二時か……なんか食べないとな」
スマホをしまい、屋内に入ると同時にスマホが鳴った。
ピピピピピピ___!!!
「出動命令……⁉今日って平日じゃ……」
スマホの画面を見た。そうだ、今日は土曜日だった。
「まずいな……!」
「とりあえず如月とかいう女と合流しろよ。武器は僕が作るから」
「そうだな、赤月と翡翠の分まで俺がどうにかしないとな」
俺は学校を飛び出して現場まで急行した。
「遅かったね……」
如月さんは開口一番にそう言った。
「高校の文化祭でしたから、まさか呼び出されるとは思っていませんでした」
「紅雀祭ね……懐かしい」
彼女は槍の先端を見つめる。よく見ると、彼女の槍の刃の根元に緑の宝石が埋め込まれていた。
まだ翡翠のことを忘れられていないような気がした。
「それで……化け物はどこですか?」
「君が来る寸前で逃げられた」
「逃げられた……?ヴァリァスの化け物は発生源から遠くまで移動できないはずですが……」
「私、今回のターゲットが化け物とは一言も言ってないよ」
「……どういう意味ですか?」
「とりあえず敵の追おう。詳しい話はそれから」
如月さんは一瞬で俺の視界から消えた。
「何が起きてるんだ……?」
彼女の背を一定の間隔が開いたまま追っていく。
徐々に狭い道に入っていき、やがて彼女は立ち止まった。
「……やられた」
「何がですか?」
「敵に誘われてたってこと。もう囲まれてる」
「え……?」
彼女は槍を構え、俺の背中に張り付いた。
「敵の姿が見えませんが……」
その時、一つの空き家の屋根の上に人が現れた。
それを皮切りに他の刺客も姿を現した。
ここには人が住んでいる気配が無いようなボロボロの空き家やアパートが連なっている。
刺客を潜ませるにはあまりにも適した場所だったというわけだ。
セイエイはすぐさま剣を作り出し、俺はそれを手に取った。
そして最初に姿を現した刺客が口を開いた。
「さっきから追ってきていると思えば、弱そうなのが一人増えてなぁい?アナタァ、わざわざ足手纏いを連れて来たのぉ?」
その女は挑発するような口調で如月さんを指さした。
すると如月さんはその女の方に向き直り、槍先を向けた。
「黄陽……私に何の用?」
彼女は鋭く問い詰めた。
(黄陽って……たしか如月さんの姉の名前!)
「別にアナタに個人的なぁ……用があるわけじゃないんだけどぉ……」
黄陽は自分の爪を気にするように指をカチャカチャしていた。
「まぁ……出来損ないの家族を処分しに来たって感じかなぁ?」
黄陽はさっと地面に下りた。
右手には鋭い矛が握られている。
「処分しに来たって……まさか!」
如月さんは何かを察したように目を見開き、体が一瞬だけ硬直した。
「……せぇかぁい。アナタのかわいいかわいい翡翠ちゃんを始末したのは……ワ・タ・シ」
「……殺す」
如月さんは感情のままに黄陽に襲い掛かった。
彼女の刺突攻撃を黄陽は矛で流した。
「じゃぁまッ!」
「ッ!」
黄陽の反撃を受け止めた如月さんは辛うじて態勢を保った。
「神村ッ!君は周りの敵を片付けてッ!」
「了解!」
◇
「あの子に構ってるほどぉ……余裕あるわけぇッ⁉」
超高速で動く黄陽は如月の動きを翻弄しつつ、隙を見つけては斬撃を繰り出した。互いの刃がぶつかる度に火花が散り、その戦いは熾烈なものになっていった。
(このままだと私が先に倒れる……そうなればコイツは神村の方に加勢しに行ってしまう。それだけは避けないと……)
「遅いッ!!!」
「うっ……!」
後ろに動くも、左手の甲から血が滲み出た。
避けたつもりだったが薄皮一枚切られてしまったらしい。
「綺麗な赤色ねぇ……ワタシのぉネイルの色にしてもいいかしらぁ……」
「自分のでやってくれる?」
如月は再度槍を構えた。
(次は外さない……刺し違えてでも脳天を貫くッ!)
「ふぅ~ん……?なんかがキマったような目ね……」
黄陽は矛を振り上げた。
「でもぉ……絶対的な力の前ではぜぇんぶ無意味ッ!!!!!」
巨大な矛先が如月に迫る。
それを前にしても尚、如月の頭には翡翠の顔がずっと浮かんでいた。
戦っている最中なのにあの子との思い出がありありと蘇ってくる。
「私は……これ以上大切な人を失うわけにはいかないッ……!」
如月は槍を構え直す。そして矛を振り下ろす黄陽に言った。
「私の世界へようこそ……あなたの目で追えるか、保証はしないけど」
「⁉」
時間から解き放たれた槍が空間を歪ませて進んでいく。槍が動いたことは黄陽も宇宙も、そして如月自身も認識できなかった。
ドスッ___!!!!!
槍は黄陽の左目を潰し、頭の後ろまで貫通した。
如月は素早く槍を引き抜いて矛を防ぐと黄陽と距離を取った。
「はぁはぁはぁはぁ……」
如月が息を整えている間、黄陽は痛そうに左目を押さえた。
「いったぁい……!治すのにだってぇ……けっこぉ体力使うんだからさぁ……」
彼女が手を放すと出血は止まり左目も完璧に再生していた。
「ふふっ、驚いたぁ?」
ニヤリと笑い如月を見る。
如月は強く槍を握りしめる。
「お姉ちゃん……人ですらない存在になってしまったんだ……残念だよ」
「フフッ」
「あまり私を甘く見ないことね!!!」
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