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第四十一話 「夏の終わり、災の始まり」

俺は他人に初めて『加速』のことを話した。


「……それで今までの死線を掻い潜ってきたわけね」

「少しデメリットとかもあるんですが……結構強い能力だと思います」

「このことは……臣桜や今川とかには教えてないの?」

「そうですね」

「二人だけの秘密になるわけか……悪くないね」

彼女はまたコーヒーを飲み干しすと、ポケットからストップウォッチを出して俺の前に置いた。

「何をするんですか?」

「ぴったり十秒で止めるゲーム……うそ、君がどれぐらい加速しているのか調べるの」

「このストップウォッチの一秒と俺の体感時間を比にすれば倍率がわかるということですか……」

「そういうこと。それじゃ勝手に始めていいよ」

「では……」


(加速……!)


「一、二、三……」

俺は彼女の目の前で能力を発動し、ストップウォッチを見つめた。

(解除!)


「どうだった?」

「五倍程度ですね」

「それって速い方なの?」

「さあ……?」

「考えてみれば、周りはおろか世界中を探し回ってもそんな適性を持つ人なんて存在しないだろうからね……」

「少し気になったんですけど……如月さんはどんな適性なんですか?」

「私?あぁ……ほぼ無いよ」

「え?」

「私には適性なんてほとんど無い。今まで適当に任務をこなしてたらいつの間にか昇格してた」

「Sランク十番隊隊長にまで……ですか」

「私、人生が退屈の代わりに運だけは良い方なの」

彼女は部屋を漠然と見つめた。

虚空に焦点が合っているような虚ろな目だった。

「もっとも、私は運なんかより充実してる人生が欲しいわけなんだけど現実はそう甘くないかな」


ウォーン__!!!


「化け物……ですかね」

近くで地面を震わせるような重低音が響き渡った。

「あぁ……多分ね。でも君は行かなくていいよ。どうせ他の隊が担当するだろうし……」

「それじゃ、練習の続きをしようか。私も戦闘力を上げたいしさ」

「はい!」


 ◇


「はぁはぁ……」

俺は体に力が入らず、うっかり剣を落としてしまった。

体から力が抜けていき、そのまま四つん這いになる形で倒れた。


もう体に力を入れられない。


手にかいた汗が地面に滲んだ。額からは、葉にかかった朝露のようにポタッと大粒の汗が落ちた。

ちょっとやそっとでは収まりはしない鼓動と呼吸の荒さ。

明らかに限界を迎えてプルプル震えている両手と肘。


動きすぎて体が冷たい、少し休まないと普通に死ぬ。


俺が四つん這いの状態で休んでいると如月さんが俺の肩に手を置いた。

「そろそろ終わりにする?」

「……ぁぃ」

俺は四つん這いから仰向けに寝っ転がった。まだ夏の夜の地面は意外と冷たかった。


「三時間もよく頑張ったね。少し休憩したら一緒にコーヒーでも……」

「……ZZZ」

疲労から俺はすでに眠りについていた。


「お~い……もう寝ちゃったか……」

「……ZZZ」

如月は俺を持ち上げると、てくてくとその場を後にした。


二時間後__。


「よい子はそろそろ帰る時間だよ。ほら、起きて」

「……ここは……?」

「訓練場の休憩所。君があの後寝ちゃったから運んできたってわけ」

「お手数かけてすみませんでした。今日はこれで……」

俺はペコリと彼女に礼をし、出口に向かって歩いた。


(まだ頭がふらふらする……)


寝起きで平衡感覚が少しイカれてるのに加えて、訓練の疲労が大波のように押し寄せた。

俺はほの暗くなっている空を眺めながら歩いていた。

「おい、止まれ!」

「ん……?」

俺が目線を下ろすと部隊の人間数人が立ち塞がっていた。


「誰……」

「あたしのこと、もう忘れたのかしら?」

「その声……月海か?」

暗闇に向かってそう言うと、ずいぶんと上から目線な返事が返ってきた。

「フン……あたしを呼び捨て…ね……。まあこの前の戦いの功績に免じて不問とするわ」

「そうか、それはよかった。ではさようなら……」

俺が彼女らの横を通り過ぎようとすると、月海の後ろにいた男の一人が腕を出して行く手を塞いだ。


「俺も疲れてるんだ……。面倒ごとは後にしてくれ……ッ!」

「ぐぉっ⁉」

俺が加速状態で行く手を阻む男を殴ると、変な声を上げて地面に倒れた。

「全員、その男を捕らえろ!」


月海の合図と同時に他の連中が俺に襲い掛かった。

「残念ね。私の隊は個々のスピード、パワー、連携の良さ、どれをとっても隊の中で三本指に入るほどの精鋭の集まりよ?アンタが手を出していい相手じゃないわ」

「手を出すも何も、そっちから嗾けてきたんだろうが……」


「おらぁッ!!」

隊の一人が威勢良く殴りかかった。

「セイエイ、ちょっと頼む」

「あ~い……」

セイエイは手慣れた感じで地面から結晶を生成した。

結晶は隊員たちの足を捕らえ、俺が走り去る時間を稼いでくれた。


「待ちなさいッ!!!」


後ろから彼女の声が聞こえてきた。

「相棒も大変だな」

「俺、かなりアイツ(月海)のことが嫌いかもしれない」


少し離れたところで立ち止まり、ふと上を見るとすでに夜になっていた。

月海の味方かもしれない向かい風が顔に直撃し、表面の汗を乾かした。


もうじき夏も終わる。

その代わりに月海との面倒な関係が始まろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます!

作品が気に入った方はブックマークや★★★★★をつけてくれると嬉しいです!

毎週月、水、金の午後6時頃に更新しているので、チェックの方よろしくお願いします!

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