第三十九話 「久方ぶりの再会」
如月さんは定期的に俺のとこに来た。
怪我の程度が程度だったため俺は任務に復帰することはなく、夏休みが潰れるまでずっと病院のベッドの上で過ごした。
意外と悪くない。
俺は次第に彼女との会話を楽しみにするようになったし、彼女も以前より笑顔が増えた気がする。
爆笑とまではいかないけど、軽く微笑むぐらいなら既に何度も見た。
(セイエイは無事だろうか……)
「ところで、君は学校の課題とか終わってるの?」
ポテチを頬張りながら彼女が言った。
「いえ全く」
「成績とか大丈夫なの?」
「さあ……あまり成績とか心配していないので」
それからあっという間に二週間が経ち、夏休みが終わった。
学校が始まっても三日ほど入院していた俺は退院する前、医者に診てもらった。
「君は……他の人よりも傷の治りが早いんだねぇ。もうほとんど治ってるし、明日からはいつも通りに過ごしてもらって構わないよ」
「そうですか、それはよかった……」
「ただしッ!」
医者は人差し指を立て、分厚い眼鏡のレンズをくいっと上げた。
俺はその圧に驚き、一瞬だけ肩を上げた。
「ぜぇっ………………対に任務には出ないことぉっ!」
その狂声は診察室の壁を貫通し、廊下にまで響き渡った。
「いいな……⁉ぜっ……対に任務には出るなよ……⁉毎度毎度こう念を押しているのに、出撃の命令がかかったからと理由をつけて現場に出向き、私の手を煩わせるバカタレがいるんでねぇ……!!!」
医者のマシンガントークは破竹の勢いだった。
愚痴が出る、愚痴が出る。医者って大変な職業なんだと思った日だった。
「……姜椰!」
医者のマシンガントークを背に、俺が診察室を出ると見慣れた少女が立っていた。
「申奏⁉」
「聞いたよ……任務で如月さんを庇ったって……頭大丈夫?」
「頭大丈夫って……それだと、あの人を庇った俺の頭はおかしいみたいな言い方になるじゃないか」
「ああそっか……頭部大丈夫?」
「医者が言うには、当分(とうぶん)安静にだってさ」
クーラーの効いた院内に追い打ちをかけるような寒風が走った。
「やっぱり頭を打ったから……」
「これでも平常運転だ。というか申奏は何で病院に来てるんだ?」
「わ、私……⁉ほら」
申奏は自身の右腕にある切り傷の痕を見せた。
綺麗に手入れされた白い腕に、治りかけの傷が残っていた。
「この前の任務で掠っちゃってさ……」
「そんなの建前で、ホントは姜椰に会いに来ただけなんだけど……」
彼女は本音を呟いた。
「……どうかしたか?」
「何でもないよ。それじゃ、明日学校で会おう」
「ああ、じゃあな」
彼女は病院の奥の方へと歩いて行った。
「はぁ……!はぁ……!」
身体の芯が火照る。
成人向け漫画でよく見るようなアブないクスリを盛られた女ってこんな感じなんだろうか。
あの時、俺はあえて聞こえないフリをしたが、彼女が呟いた一言を聞き逃すはずがなかった。
(建前でホントは俺に会いに来ただと……⁉)
まずい、マジで脳が破壊されそうだ。
ヴァリァスがあったら侵食されてしまいたい、そんな気持ちだった。
(もう少し俺の耳が悪ければ……!)
俺は嬉しさと驚きで発狂したかったが、理性と羞恥心が俺の本能を押さえつけた。
俺が家に帰ってくると、小包が届いていた。
「は……⁉」
持ち上げてみると、段ボールの底が破けていた。
「あいぼーーーーー!!!!!!!」
「え?」
セイエイが俺の頭めがけて猛突進した。
「急になんだよ……」
「会いたかったんだぞ!危うくここまで戻れなくなるところだったけどな!」
セイエイは有り余ったエネルギーを使って家中を飛び回った。
「落ち着け、まずは何があったのか教えてくれ」
「一言にまとめるなら、お前の衣服をここまで移送する際に、何かの手違いで赤の他人の隊服が届きそうだったからこっちでワチャワチャやったんだよ」
「よくわからんが、とりあえず無事に帰って来れたってことで」
疲れていた俺は面倒そうな話を切り上げた。
俺は段ボール(底が大破済み)の中から自分の隊服を取り出した。
「そういえば、怪我の方は大丈夫なのか?」
「全然。当分は任務に行くことすらできないって言われた」
◇
翌日__。
セイエイが不思議そうに訊ねる。
「おい、こんな朝早くにどこに行くんだ」
「学校……ってセイエイは知らないんだったな」
「別に学校なら知ってるぞ。相棒って高校生だったんだな」
「セイエイはどうする?一言も喋らないことが条件で、一緒に来てもいいぞ?」
「相棒なんだから行くに決まってんだろっ⁉」
セイエイは俺の制服の胸ポケットに潜り込んだ。
「お前……そこはバレるだろ」
「大丈夫……こうすれば問題無し」
セイエイは胸ポケットに入ると、もぞもぞと動いて制服に適応した。
(何も胸ポケットから入らなくてもいいだろ……)
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