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第三十七話 「真夏を凌駕する恋の熱さ」

「ここが学校か……」

校門をくぐると校舎の様子を見たセイエイがボソッと呟いた。

「あまり喋るなって言ってるだろ……」

「研究所みたいな感じかと思ったら意外と現代感ある建物じゃないか」

「はぁ……」


俺はいつも通りに教室の扉を開けた。

クラスの皆は一瞬だけ俺を見ると、すぐに自分たちの会話に戻った。


「おはよ」

自分の席に行くと、申奏が笑顔で挨拶してくれた。

「ああ、おはよう」


俺がスマホを見ていると、教室のドアが開いた。

「神村、ちょっといいか」


(担任……?俺に何の用だ?)


俺はおもむろに席を立ち、廊下に出た。

「どうかしましたか」

「どうもこうもあるか。さっき学校の方に連絡が来てたんだ、お前の件でな」

「……先に言いますが、全く心当たりはありません」

俺は小生意気な口調で先手を打った。


先生は怪訝そうな顔をし、黒い手帳を開いた。

一番最後のページを開くと「これなんだけど」と一枚の写真を俺の前に出した。

それは俺が如月さんと任務にあたり、俺が大怪我した時のものだった。


「これは……確かに俺ですが、何か問題でも?」

「これについて色々聞きたいことがあるんだ。今は時間が無いから放課後に生徒相談室まで来てくれないか」

「……わかりました」

俺が承諾すると担任はパタンと手帳を閉じ、駆け足で階段を降りていった。


その時、校内に朝のホームルームを始めるチャイムが鳴った。

「あぁ……一時間目なんだっけ」

俺は頭をかいて教室に戻った。


俺は普段なら授業が始まってすぐに眠りにつくのだが怪我の名残のせいで、座ったまま頭を寝かせると頭が痛くなるため、仕方なく起きていた。

「珍しいね、今日は寝ないの?」

先生が説明している中、申奏がこちらを見て言った。


俺は右手で頭を優しく押さえた。

「傷がまだ痛むんだ」

「十番隊は大変だね……姜椰もソロになればいいのに」

「一人で解決できるほどの実力がないからな……」

「やば、英訳のとこ見逃しちゃった」

申奏は慌てて板書を写していた。


「はい、それじゃ席くっつけて。で……隣の人と教科書の英文を丸読みしてください」

四十超えた女の先生が教室全体にそう指示を出した。

「教科書の六十七ページね」

「さんきゅ……」

俺と申奏は教科書を見ながら英文を読み合った。


「ふぅ……一時間目なのに疲れたね……」

「夏休みが短すぎる。もう少しあれば十分に休むこともできたのにな……」

ぼんやりと教科書を見ていると、左肩にぽとっと重さが加わった。


(ん……?)


「……ZZZ」

申奏が俺の肩で寝ていた。

(俺も借りさせてもらうよ……)

俺は彼女の頭を自分の肩と挟むように頭を乗せた。

目を瞑ると、彼女の束ねられた髪からほんのりと甘い香りが漂ってきた。おまけに密接しているせいで彼女の体臭(言うまでも無く香ばしい)が頭髪の香りと織り交ぜられていた。


自ずと鼻呼吸になってしまいそうなほどいい香りだ。

そんな彼女から発せられる雄の本能をくすぶるようなフェロモンが俺の睡眠を邪魔し続けていた。


数分後__。


「……ZZZ」

「……ZZZ」

二人とも爆睡していた。


「じゃあ、今日は8月15日なので引くと……7番の人かな……臣桜さん?」

「……ZZZ」

申奏に白羽の矢が立った。


当然俺たちは寝ているので誰かが起こしてくれるなんてことは無い。

いつまで経っても返事が無いので、先生は申奏の席を探した。

「先生、臣桜さんはあそこです」

一人の生徒が指さした先では、申奏と俺が仲良く寝ていた。


すると他の生徒たちも振り返り、その光景を見てニヤけていた。

「あの二人、仲良さそうだね」

「申奏ちゃんって寝顔もかわいいね……!」

席が近い女子たちは口々にそう言った。


「神村って寝るんだな」

「アイツも生き物ってことだよ」

男子たちも言いたい放題だった。


先生は何を思ったのか、申奏を起こさなかった。

「青春ねぇ……それじゃ違う人にしようかしら。8+15で……23番かな?佐宮……さん、お願いします」

その名を聞いた時、皆は静まり返った。


「佐宮は……死にました」

シャーペンを握りながら相田がそう言った。教室内には「ああ、ついに言っちゃったよ……」みたいな重々しい雰囲気が漂っていた。

「そ、そうなの……それじゃ、また違う人に……」

先生は気まずそうに指名する人を切り替えた。


そうしているうちに授業が終わった__。

「ん……へ⁉」

申奏が目覚めた時、姜椰の頭が自分の頭に乗っかっていることに気づいた。

とっくに授業は終わり、皆が次の授業の準備をしながら談笑していた。

「ちょっ……起きてぇ!」

頭を外すと、姜椰の頭が太ももの上に乗っかってしまった。

「なんでそうなるの……⁉」


「……あ?」

姜椰は太ももに乗っかった衝撃で目覚めたようだ。

彼がゆっくりと頭を上げると、机の角に頭をぶつけた。

「いてっ……は⁉」

姜椰も自分が今どこにいるのか理解したようだ。


「早くどいてっ……!」

申奏は顔を真っ赤にして姜椰に言った。

「俺……ええ……⁉」

姜椰は寝ぼけながらも起き上がった。


「……すまなかった。そしてありがとう……!」

状況を理解したのか、姜椰は深々と頭を下げた。

「あなたじゃなかったら発砲してたとこだからね……!」

申奏はそっぽ向いてしまった。彼女がロッカーに荷物を取りに行く時に見えた横顔は少し笑っていた。


そのとき、教室の後ろの扉のところに一連の様子を見ていた女がいた。

「やっぱり気に入らないわ……なんの努力もしていない人なんて……!」

彼女は教室の外から、授業の準備もしない姜椰をじっと見つめていた。


そして放課後、先生に呼び出され、事を終えるた。

(電車の時間いつだったか……)


「ちょっと」

スマホを見ながら誰もいない廊下を歩いていると、誰かが俺を呼び止めた。

顔を上げると、青い髪の少女が立っていた。

「危ないから歩きスマホはやめてくれる?」

お嬢様みたいな口調で彼女は俺を強く指さした。

突き付けられたその指は先端恐怖症の人間を気絶させられるほどビシッと俺に向けられていた。


(どこかで見たような……ってか初対面の人間にお前呼びかよ……)


「誰だこの女」

セイエイがまあまあ大きな声で喋りやがった。

(この鳥、後で絶対殺す……!)


「何か言った?文句があるならハッキリ言ってくれるかしら」

彼女はさらに顔をしかめて言った。

「いや、俺が悪かった。許してくれ」

俺は素直にスマホをポケットにしまった。完全に向こうが正しいから。

「フンッ、次は無いわよ」

彼女は指を下ろし、腕を組んだ。


姜椰はその場に立ってスマホを触り始めた。

「何してるの、早く行きなさいよ」

「歩きスマホはダメなんだろ。立ち止まってやってるのにお咎めがあるのか?」

俺が壁に寄りかかってスマホを触り始めると、彼女は悔しそうに唇を嚙み締めた。

握っている拳がプルプルと震えている。


(感じ悪い女だな……コイツに時間取られたせいで丁度いい時間になったし、駅に向かうか)


俺は彼女の横を通り、昇降口の方に向かった。


「なんなのアイツ!あたしを見ても無反応だなんて……ッ!」

彼女はさらに機嫌を悪くしてその場を去った。

しかし姜椰は知らなかった。


彼女がSランク三番隊隊長__月海津波であることを。

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