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第二十話 「人々の生き様」

「皆が寝ていた真夜中のこと、僕の部屋の一部が真っ黒に染まっていたんだ」

「ヴァリァスが……家にまで侵食していたってことですか」

「そう。僕は夜更かししてたから、家族に知らせようとしたんだけどね……出現した化け物が父親以外皆殺しにしたからさ……僕は何もできなかったんだ」

彼の声は消え入る蝋燭のように揺らいでいる。


「最期、父さんは化け物を捕まえて、自分諸共化け物を射抜くように言ってきた。すでに下半身が真っ黒に染まっている父さんを、僕は目を瞑って射抜いたんだ」

今川は顔を上げ、姜椰の方に目を向けた。

「父さんは全身がヴァリァスに侵食されたから、塵になっちゃったんだ。だから僕には何もお咎めが無かったの」


それからも姜椰と今川は他愛のない会話を続けていた。


 ◇


「んじゃ、今日は釣りに行こう!」

翌日、今川と墓庭が仲良く肩を組んではしゃぎ始めた。


(今川さん……少し無理してるのかな。昨日とはまったく別の人間みたいに明るいけど……)


熱海港で船に乗って沖合に出た。

「俺もまだ一匹も連れてない……」

「アジとかサバとか釣れるらしいけど、釣れる気配がないね……」


俺たちが話していると、後ろから時雨が来た。

「お腹……減りましたか?」

「減ったというか、朝からほぼ何も食えてないから……」


すると時雨は両手で俺の顔を持ち上げた。

「え⁉え⁉お腹が減ったからって俺まで食べるのはやめてくれ⁉」

「ごめんなさい……今から取ってきますので……」

「取ってくる⁉」


ドボンッ!!!


時雨は船から降りて直接魚を獲りに行った。

「これ、法律でアウトだったりしないよな?」

俺は申奏にそう聞くと、彼女はグーサインを出した。

「バレなきゃ……でしょ!」


(いや、そんな笑顔で言われても……)


「私と時雨ちゃんって歳が近いのに、ギャップがあって驚かされるんだよね」

「俺はあの人の年齢は知らないけど……中身だけ見ると年上のような感じがグエッ!!!」


何かが頭にぶつかり、びっくりした俺は後ろにぶっ倒れた。

「これ……サバだよ。時雨ちゃんが獲ってきたんじゃないかな?」


「よっしゃ、大漁だ!」

海から誰かが船に飛び乗った。

どうやら墓庭もを直獲りしてきたようで、船の中で魚たちがぴちぴちと跳ねていた。

「時雨は?」

まだ来ていないみたいだ。


「ここです」

「ん?」

みんなして振り返る。

彼女の足元には、ぴちぴち跳ねている魚がいた。

「全部時雨が獲ったのか?」

「あ……はい。今朝のお詫びです……!」

時雨はニコッと優しく笑った。


 ◇


夕食後、夜も遅くなってきた頃、一行は花火をやるために砂浜まで向かった。

「花火か。やるのは久しぶりじゃのう……」

前野さんは顎の髭を撫でる。


今川が線香花火を渡し、焚火に火を点けた。


「いくよ?せーの!」

一斉に花火を入れる。


誰が真っ先に消えるか、息を飲んで見ていると前野さんが脱落してしまった。

「わしが最初か……」

燃え尽きた花火をバケツに入れた。


すると今川と墓庭がほぼ同時に燃え尽きた。

「お前と同じか」

「僕だって嫌だよ」

二人は花火を入れると、そろってどこかに行ってしまった。


「あ、私の消えちゃった……!姜ちゃん、その花火くれ」

彼女は自分の火が消えたことで、俺の花火をもらおうとしてきた。

「無理無理!あ、危ないって!」

危うく火が消えるところだった。


すると時雨と宮坂の花火も消えた。

「昔が懐かしく思える……」

宮坂は燃え尽きた花火を見つめていた。どこか懐古しているようだ。


場にいる全員が、俺と申奏の成り行きを見守っていた。

「……綺麗だね」

「そうだな」

二人は花火が消えるまで無心で待っていた。


それから僅差で俺の花火が先に消えた。

「私の……勝ちかな?」

「俺の方があと一秒遅ければ……」


その後、各々雑談したり残った花火を楽しんでいると瞬く間に夜が更けた。


「姜椰、私先に部屋戻ってるから」

「あれ?鍵持ってる?」

「私持ってるよ」

そう言うと申奏は旅館内に戻っていった。


「冬野……さん?帰らないんですか?」

彼女は急に現れた俺に驚き、慌ててこちらを向いた。

「神村さんが申奏さんと話してたので……私だけ暇を持て余してて……」

「ああ……」

「あの、後から聞いた話なんですが……神村さんが初めて私たちと会った時、私だけ寝てて自己紹介もできてなかったなって……」

時雨は申し訳なさそうに俯いた。


「一応名前だけは聞いた」

「では改めて自己紹介を……Sランク六番隊隊長の『冬野時雨(ふゆのしぐれ)』です……」

「あ……Cランクの神村姜椰(かみむらきょうや)です……」

それから数秒の沈黙が流れた。


「お互い名前しか知りませんし、雑談でもどうですか……?」

「もちろん。いいですよ」

とりあえず二人は海の水面で歪み続ける月を見た。


「あの……神村君と呼んでもいいですか……?」

「神村でも姜椰でも……なんでもいいよ、お好きに呼んで」

 

 ◇


旅館の中でも、俺と時雨はまだ話していた。

「神村君、今日は……ありがとうございました。わざわざ話に乗ってくれて……」

「こちらこそありがとう。俺も時雨と一回話してみたかったから」

「それはよかったです。……ではこの辺で。おやすみなさい」

「ああ、おやすみなさい」


部屋に戻ってくると猛烈な疲労が襲ってきた。

多分今の俺なら、の〇太よりも早く眠れるだろうし羊を一匹数え切る前に気絶できる自信がある。


姜椰は布団に入ると同時に眠った。

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