第十九話 「真電弓・災絶」
前回のあらすじーーーー
戦闘に覚醒した化け物が姜椰に攻撃を仕掛けた。
ドゴーンッ__バーンッ__。
誰もいない浜辺に空気を震わせる衝撃が響く。
化け物は己の聴覚を頼りに姜椰の位置を割り出し、おおよその検討をつけて拳を振り下ろす。
その一方で姜椰は海水で濡らされたために、電撃剣を使うことができずにいた。
(はやく水が乾いてくれれば……!)
「ガァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
化け物の右ストレートが俺の足をかすめた。かすめたはずなのに、足が引きちぎれるような痛みに襲われ
のたうち回った。
化け物はそれを見逃さず、とどめを刺しにきた。
「『加速』発動……!これで少しは時間が……!」
少しだけ時間が経つと痛みもわずかに落ち着いてきた。
「……!」
「気づいたようだな。俺はここだ!」
化け物はすぐさま飛び上がり、足で潰しにきた。
「遅いッ!」
電撃剣を素の状態で使った。
しかしヤツの固い皮膚を切り裂けるほどの威力はなく、攻略不可に近い状態だった。
かれこれ三十分は戦っている。あれだけの轟音が鳴っているのに、仲間が誰一人として助けに来ない。
申奏たちが休暇中だから来ないのはギリ納得がいくが、そうでない部隊の連中はなぜ来ないのだろうか。
(もう諦めて応援を呼ぶか……?)
そんなことをすれば、化け物が好き勝手に暴れるだけでなくヴァリァスの侵食がさらに進行するだけだと自分が一番わかっている。
「応援を呼びたいと嘆く自我」と「仲間がいなくても最善を尽くしたい自我」が戦っていた。
前者が悪魔、後者が天使である。
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(悪)この状況で勝てる見込みはない。水が乾くのを待っていたら、侵食が余計に進んでしまう。
仲間を呼んだ方が早く攻略できるに決まってる。
(天)特殊部隊の一員として、その身を投げ打ってでも化け物を倒さないといけない。
そもそも電撃剣が使えない状況を作ったのは自分自身だ。その責任は自分の身を以て償うのが当然だ。
(悪)このまま誰も来なければ化け物を倒せないまま、指を咥えて侵食されていく街を見ることしかできない。
そうすれば被害が出ただけで何も成果が上がらない、百害あって一利なしになるだろう。
(天)さっき首に深手を与えられたのだから、ヤツの攻撃を見切って攻撃を叩き込むのは不可能じゃない。
まして、高い可能性があるにも関わらず諦めて化け物を見逃すなんてことは俺の特殊部隊としての誇りが許さない。
(悪)無理だ。俺はリスクを冒さない。安全に化け物を倒すことを勧める!
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天使と悪魔はさっきからこの調子。
逃げたいー逃げるわけにはいかない
勝てないー勝てる可能性はある
増援を呼ばないと勝てないーさっき斬撃を与えることはできた
どうするどうする、さあどうする。俺の天使と悪魔!
別にこの問題に関しては天使とか悪魔とかは無く、あくまでも自分の心の問題だ。
俺は早くお前らの意見が聞きたい。こうしてる間にもヴァリァスは、半紙に染み込んだ墨汁のように着実に地面や物体を黒く染め上げていってるんだぞ!
答えろよ!
そう自分の心に問いかけた。
「ウガアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そんなことお構いなしの化け物は雄たけびを上げて両手を組んで振り下ろした。
頼む……!
またまた自分の心に返答を求めた。
俺の心はエンジントラブルを起こした機体のようにふらふらと大海原を進んでいた。そして天使と悪魔がいる管制塔に呼びかけた。
究極の二択という不安定要素を抱えた機体は墜落するまでの短い時間の中で、決断をできずにいた。
発せられたメーデーも彼らには届かない。
信号消失__信号消失__。
さっきまで自分の言い分をぶつけ合っていた天使と悪魔はもう消えていた。
管制塔が消えた機体の運命は今、そのハンドルを握る機長の手の中にある。
さあ、答えろ。俺はこの場からのこのこと逃げ果せるのか?
「……違う」
俺はあのメンバーの期待に応えたい。逃げるのは俺のプライドが許してくれない。
俺は逃げるのは勝てないからじゃない。ただ、失敗を恐れているだけだ。
俺が逃げるのは増援を呼ぶためじゃない。死にたくないから、それだけ。
俺はどうしたいのか。
__答えはすでに出てる__
俺は化け物の攻撃を躱し、海を背に立つと化け物は誘導されていると知らずにこちらに向かって突っ込んだ。俺はヤツの股をくぐりぬけ、化け物が海に飛び込むように仕向けた。
「ウガァァァァァァァァァ…………!」
転んだせいで再び濡れた化け物は目が真っ赤に腫れ、もはや痛みも感じないのか、のような目でこちらを睨んだ。
次の瞬間、化け物の両目が潰された。
「ウギアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」
痛がるように両目を押さえて、そのまま後ろにぶっ倒れてゆく。
(なんだ?いきなり何かが刺さった……?)
痛みに苦しむ化け物を前に我に返った。
俺は電撃剣をヤツの眉間に投げた。剣が刺されば感電するようにしておいた故、俺が濡れていても問題無い。
深く刺さった電撃剣は化け物の体を痙攣させ、海の面に化け物の顔を出させることは無かった。
「よし……50点!」
逃げなくてよかった。
自分の選択は結果的に正しかったのだ。
横を見ると再化結晶が出ていた。
(壊すか……)
腰に手を当てたが、剣は化け物に刺さっていたことを思い出した。
剣を回収するために海水に足を突っ込む。
「痛ッ……!!!!」
ビリビリペンの数倍の電気ショックだろ、これ。
俺は再化結晶を壊す手段が無い。そもそも武器が無い。
「どうしたものか……」
一人しかいない浜辺に、ため息交じりの戯言が吐かれた。
ただ眺めていると、結晶が破壊された。
「ッ__⁉」
(まさか俺の圧力で……そんなわけないか)
ヴァリァスは消えた。さっきまであったはずの海の家は一夜にして消え去ってしまった。
ヴァリァスが発現したであろう海の家の入口付近に近づくと、矢が一本あった。
「矢……一体誰が……」
その時、視界の端の方で何かが何度も反射した。
光の方を見る。すると、俺たちが貸し切っているはずの旅館の窓からそれは発されていた。
「今川さん……か?」
彼はこちらに手を振っていた。片手には弓を持っている。
俺はそれに応え、手を大きく振り返した。すると今川は窓を閉めた。
(この距離で化け物の両目と再化結晶を射抜いたのか……!)
つくづくSランクに常識は通じないことがわかった。
◇(なんとか電撃剣を回収……)
俺が旅館に帰ってくると、今川が出迎えてくれた。
「おはよう……ございまクシュン!!」
「なんか浜のほうが騒がしいと思って見てみたら、君が巨人と戦っていたとはね。
まあ、見たところ濡れてるから、着替えてきなよ。風邪ひかれると嫌だからね」
「わかりまクシュン!!」
やばい。すでに風邪ひいたかもしれん。
部屋に行こうとすると、今川に呼び止められた。
「神村さ、着替え終えたらここに来てくれるか?どうせ眠れないだろう?」
「了解です……ハクシュン!!」
寒かったので足早に着替えて戻ってきた。夏だというのに、濡れた衣服で移動すると水が蒸発するせいでとんでもなく冷たく感じた。
「ああ、来た来た。」
今川はさっき使ったであろう弓を持っていた。
「君には初めて見せるのかな?僕の愛弓、『真電弓・災絶』だ」
「……」
俺は今川の顔を見た。
「ん……?いや、別にこの歳まで中二病をこじらせてるわけじゃないよ⁉昔から命名されてるんだ!」
(こじらせてるやつの言い訳じゃねぇか)
「まあ立って話すのも疲れるから座ろうか」
俺たちはフロントの椅子に腰かけた。
「これは僕が入隊した時に、父さんが作ってくれた弓なんだ」
今川は弓で天井の照明を隠すように掲げた。
「そして、これを作ってくれた父さんはもういない。僕が殺してしまったから……」
「殺し……今川さんが……?」
「そう身構える必要はないよ。あの時はどうしようもなかったから」
すると、今川は自分の父親殺しの経緯を説明し始めた。
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