第十七話 「殺し合う織姫と彦星」
今日は七月七日。世間は七夕というイベントを楽しんでいる。
しかし人々は、織姫と彦星の再会を喜ぶわけではなく、気休めあるいは形だけのものとして図々しくも短冊に己の願いを綴るのだ。
そして竹にそれらをぶら下げる。
天の川銀河が世界を見下ろす中、俺は……神村姜椰はヴァリァスと戦っていた。
あと何故かSランクでない俺が単独で行動させられているのだ。
「俺を何だと思っているのか……」
今回、俺が任されたのはCランクのヴァリァスだった。なんでも、交差点の真ん中で恐竜が暴れ回るせいで大規模な渋滞が発生してしまっているらしい。
「化け物がティラノサウルスみたいな奴だと聞いたんだが……あれか?」
潰走状態になった一般人が襲われていた。悲鳴や断末魔を上げながら化け物に殺されていた。
「母さぁ~ん!!!」
二足歩行の化け物は獲物を捕食するような勢いで子供を壁に追い詰めていた。
我が子の命が危うくなって母親らしき女性は、子供を助けたいが化け物相手に戦うことができず怯むような姿勢を取っていた。
母親は足元が見えていないのか、ヴァリァスの境界線ギリギリまで近づいていた。
化け物に目をやると街灯が照らす足元には踏みつぶされた人間が血をまき散らして死んでいた。
まだ殺されてから時間が経ってないからなのか、地面に赤い花が鮮やかに咲き乱れていた。
(せめてあの子供だけでも助けないとな)
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ティラノもどきの咆哮が空気を震わせる。目の前で大太鼓を演奏しているかのように心臓を揺さぶられた。急いで近寄る俺に気づいたのか、ティラノが何かを吐き出した。
カランコロン……
少し暗くて見にくかったが、何かが地面に転がった。それは骨が転がる音と似ていた。
前言修正。音が似ているんじゃなく、人骨そのものだった。
(グロ……本当に恐竜だな)
その骨は次の瞬間、跡形もなく黒く染まってしまった。
どうやら、ランクは低いが侵食係数が高いようだ。
◇侵食係数__
ヴァリァスが物体を侵食していく早さを表す。1~10で表され、高ければ高いほど危険度が増す。
基本的にはランクと侵食係数は比例し、適性が高い者でも係数の大きさによっては体を一瞬でやられてしまうこともある。
完全適性の物体は侵食係数に関係無く侵食を無効化できる。
___________
『加速』発動。
素早い身のこなしで子供を救出した。
(とりあえず母親のもとに……)
「キァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
剣を引き抜き、暗闇から襲ってくる鋭い爪を防御した。
「アイツ(さっきのティラノ)だけじゃないのか……!」
まずい。完全に包囲されてしまった。
(二、四、六……軽く十体はいるな……)
しょうがないので、俺は泣きじゃくる子供に話しかけた。
「君さ、俺の体にしがみついててくれるか?そうすれば、ママのところまで連れて行ってあげるから。」
その子はしゃっくり混じりに頷いた。念のために左手で子供を支えた。
「ピャアッ!」
群れて次々と襲ってくる小竜相手に俺は容赦なく斬りかかった。
動きがすばしっこいものの、幸いなことに刃が通りやすく苦戦を強いられることはなかった。
「ピキュアッ……!!」
最後の一匹の腹を真っ向から切り裂くと、跡形もなく崩れ去ってしまった。
(これで残るは一体だけか……!)
後ろのいる子供に怪我は無い。今のうちに母親に渡してしまおう。
「あ……ありがとうございます……!」
母親は泣きながら我が子を抱きしめて言った。
「お兄さんありがとう!」
子供は純粋な笑顔でお礼をした。
俺は自然とその子と当時の自分を比べてしまっていた。俺も母親から愛情を注がれていたら今とは別の未来になっていただろうな……。
(この子だけでも幸せに生きてほしいものだ……)
俺は少しだけ手を振って彼らを見送った。
「グガァ……!!!」
彼らがいなくなった後、ティラノはすでに俺の背後まで迫って来ていた。
「遅い!」
瞬時に懐まで潜り込み、腹部に剣を突き立てた。
「なっ……!」
かなり電圧を強めにしておいたのに、刃が全然入らなかった。
「グルアアアアアアア!!!!!!」
「ぐっ!」
俺はティラノの足が直撃して盛大に吹っ飛ばされ、道路に転がった。
「面倒な化け物だな……」
ティラノもどきは皮膚が固いから剣が通用しない。
電圧を上げれば、少しは変わるだろうか……。
(とりあえずやってみるか)
『加速』!
この化け物は頭から角が生えていた。
(物は試しでッ!)
ゆっくりと経過する時間の中で対象の弱点めがけて斬りつけた。
角はいとも簡単に切り落とせた。
しかしゲームに出てくるモンスターのように斬り落としたからと言って死ぬわけではなかった。
こうなれば電圧を最大にして弱そうなところを狙うしかない。
「ギャオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!」
ティラノはその巨体でビルと同じぐらいの高さまで飛び上がった。
ドゴーン!!!!!!
地面に大きく亀裂が入り、土埃と血が飛び散る。俺は後退し打開策を考えていた。
(ティラノサウルスの弱点がコイツと同じとは限らないが……)
ティラノサウルスの弱点は尻尾だと聞いたことがある。
獲物などを獲る際に、そこを噛みちぎられるバランスを取るのが難しくなるそうだ。
「そこだ!!!」
「グルアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
尻尾を最大電圧で斬り落とすと、案の定ティラノは倒れた。
するとティラノは消え、再化結晶が現れた。
「任務完了」
結晶を砕くと、ヴァリァスは完全に消滅した。
暗いせいで元から黒く見えていた地面はヴァリァスが無くなった後も同じ光景を見せていた。
「俺たちが天の川の下で出会ったということは……俺が彦星でお前が織姫と言ったところか……」
消え去った織姫、もといティラノに置き去りにして家に戻った。
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