第百三十一話 「要警戒」
翌日、学校に行くと申奏はいつも通り教室にいた。
多分家を早めに出て俺より一本早い電車に乗ったんだろう。
「昨夜は大丈夫だったか?」
「寝る時が怖かったけど、きちんと戸締りしたから大丈夫だったよ」
「そうか……」
(杞憂で済んでよかった。家に帰したなんてくだらない理由で彼女を失うことにならなくて本当によかった。考えてみれば、少数精鋭を掲げるソロSランクの筆頭である申奏が死ぬことなんてありえないことか……)
「養成高校ってクラス替えあるのかなって思ったけど、学年しか変わらないんだね」
「席さえ変わらないのはずいぶんと変わった学校だと思う」
去年は四十人いたクラスメイトも佐宮、相田想決、グラウンドで出現した化け物の犠牲となってしまった者たちを覗くと席はガラガラだ。
「今年になってから昇降口にところに特殊部隊がいるよな」
「あれはアタシが配置したのよ。自分たちの安全のためにね」
いつの間にか月海が背後に立っていた。毎度毎度彼女の気配は全く読み取れない。
学校で顔を見かけることは何度かあったが、話すのは久しぶりな気がするな。
「なんで急に人を置いたりしたんだ?普通に警備員でいい気がするが」
「いなくなった彼が襲ってきたら一般人には止められないわ。それよか、Bランク隊員でも足止めにすらなれずに倒れるだけよ」
彼女はその目で見たかのように自信満々に語った。
(彼……ああ、相田想決のことか。海外のある『名前を口にしてはいけないあのお方』みたいに言ってるとは……恐れていますって言ってるようなものだぞ)
「そこにいる隊員たちのランクは?」
「フン、どちらもSランクよ。アタシの優秀な部下の中から直々に選んだんだから、実力は間違いないわ。彼が来ても必ず戦えるはずよ」
「Sランクか……あの黄月さんと互角に戦った想決を無名のSランクで対処できるのか?」
バン!!!!!!!!!!!
月海は俺の机に台パンをかまし、鋭く姜椰を睨みつけた。
「バカにしないで!!アタシの目が選んだ超超超優秀な部下よ!!いつもお高く留まってるアンタだって戦ったら一瞬でボコボコにされるわ!!!Aランクの分際で何を偉そうに!」
「……今の俺なら、少なくともそこにいる二人には勝てる。きっとお前にも勝てる。実戦で体が麻痺って仲間に迷惑かけた奴なんかに負ける気はしない」
姜椰がかなり強気に出ると、月海は台パンした手を引っ込めた。
「どこからそんな自信が来るのよ……!アタシに面と向かって物申した人間なんてアンタだけだわ!」
「そうか。誉め言葉として受け取っておく」
月海は拳をプルプルさせていたが、「ふぅ……」と一呼吸置くと教室を出て行った。
「あんまり彼女を怒らせない方がいいよ……?部下思いで人望もあるいい人なんだし」
「確かに言い過ぎたのは反省する……だが、月海は想決を甘く見過ぎだ。少し前に黄月さんが、彼は伸びしろもあって成長に貪欲だから、敵になったら間違いなく脅威になると言っていたんだ」
「ちょっと。心配させるようなこと言わないでよ……」
彼女が恐怖に怯えるような声調で言う。
姜椰は窓を開けて春風を少し取り込んだ。
「元同級生と殺し合いか……あまりやりたくないな」
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