第百二十六話 「所詮は紙っきれに過ぎない」
時は遡ること一時間前、臣桜申奏の家にて___。
「もう二時か……そろそろ父さんの部屋の掃除しないと……」
彼女は昼食を食べ終えて何もしないまま時を過ごしていた。
(かれこれ半年は扉すら開けてないからホコリがすごいだろうなあ……どうしようかな、来週にしようかな……。いや!流石に今やらないと、次は一年後とかになっちゃうから……)
彼女はおそるおそる扉を開ける。
「あれ……そこまで汚くないな……」
特に何も変わらない部屋を見渡していると、机の上に真っ黒な冊子が置かれていることに気がついた。
A4の紙数枚をホッチキスで留めたような簡易的な冊子だ。プレゼンとかする時に配られそう。
「ヴァリァスを使えば死者を蘇らせられる……なんなのこれ……⁉」
申奏は下に書かれている文章に目を通した。内容は全然頭に入って来ないが、明らかにヤバそうなものであることは女の勘でわかる。
ガチャッ____。
「⁉」
玄関の扉が開く音が聞こえた。その後を追うように扉が閉じる振動も伝わってきた。
(誰……⁉空き巣⁉泥棒⁉強盗⁉と、とりあえず隠れないと……!)
足音は遠ざかることなくこちらへ向かってくる。来るな来るなと願っていたが、足音は部屋の中にまで来てしまった。おそらく足音の主は、このクローゼットの扉のすぐ向こう側にいる。
(もしかして、この部屋に金目のものでもあるんじゃ……⁉それならまずい……こんなところに隠れるんじゃなかった……!しかもなんで私、このヤバそうな冊子まで持ってきちゃったの……⁉)
もしかしたらこれが目当ての可能性もある。なんせ机の上に置かれていたやつだし、ホコリも被ってなかったから割と新しいもののはずだし……。
(でも父さんが仕事してるとは思えないし、そもそもこんな怪しいのを仕事と言われてもなあ……)
それから数分後、足音は部屋の外に出て行き、玄関が再び開けられる音がした。
申奏は視界に誰もいないことを祈ってクローゼットから出た。
「どうしよう……誰かに相談したほうがいいよね……」
彼女の頭の中には一人だけ名前が浮かんでいた。
「そうだ、姜椰に言えば……!」
申奏は護身用に拳銃を一丁だけ持って慎重に玄関の扉を開けた。
「早く行かないと……!」
◇
「駅まで来たが……申奏はどこにいるんだ?」
あれほどの息切れだ。何か危急の事態に巻き込まれたか、あるいはただ急いでいただけか。
前者でないことを祈ることしか、今の俺にはできない。
すると横から彼女が小走りでやってきた。右手には何かを持ってる。
「あ、いたいた……ごめんね。急に呼び出しちゃって」
「暇だったから大丈夫だ。ところで用件とは何だ?かなり急いでたようだが」
「ちょっとここから離れよう?まだ……安心はできない」
彼女は誰かに追われていたのか、周囲を確認すると俺が来た道へと歩き始めた。
(一瞬だけ見えたあのファイル……中にグラフらしきものが見えたな。まさか申奏、怪しいものでも見つけたのか?)
すると彼女は後ろから歩いてくる俺に向かって衝撃の言葉を放った。
「あなたの家、行ってもいい?」
「……」
は________???????????




