第百十三話 「己の置かれた立場を知れ」
「うっ……」
小春の横で姜椰も座り込んだ。
(こんな気分が悪くなったのは久しぶりだ……まるでコロナのワクチンの二回目を接種した時のような倦怠感と頭痛が……!)
「ふう……ふう……」
息を切らしながら、姜椰は遠ざかる現場を眺めた。
「大丈夫?さっきから目が虚ろだよ……?」
横に立っている世薙が姜椰の顔を覗き込む。
しかし姜椰は何も言うことなく、ただ道路を眺めていた。
トポン__トプン__。
姜椰は一瞬驚いた表情をし、何かを確信したようにゆっくりと体勢を変え始めた。
「動かない方がいいよ……僕が相手するから」
「……」
(世薙も追手の存在に気づいてたようだな。さっきから周囲の車の走行音に混じって聞こえてくる液体の音……おそらく小春が仕留めた敵の能力が発動したんだろう……)
姜椰は車の床を叩き、世薙を振り向かせた。
「……何?」
「これ……」
世薙に自分の電撃剣を差し出した。
「素手はやめた……方がいい。俺も……戦えない。敵の気体を……吸わないように……ゴホッ!」
「それ以上喋らないで大丈夫だよ。必ず僕が倒すから」
姜椰は咳が止まらなくなって血を吐いてしまった。
手についた血を見ながら、「はぁ……」と息を吐き、パタッと倒れた。
「姜ちゃん⁉」
ルームミラーに目を向けた弥生が荷台で倒れている二人を見てびっくりしている。
世薙が後ろを見る。
「姜椰が見つけた追手は……あれか」
トポン__トポンッ___トプン__
明らかに意思を持った液体がこちらへ向かってきている。
「この車の速さは……時速50km程度……それに一定の距離を保ったまま追ってきてる……。相対速度から……あれの速さも時速50kmかそれ以上……僕より遅ければいいけど……」
「世薙⁉何が起こってるの⁉」
「追手がいるだけ……これから戦うところ」
「追手……⁉後ろにいるの⁉」
「そう。僕一人で相手するから」
(姜椰からもらった剣は至近距離専用……敵から発生する気体を吸わないように近づかないといけないのに……他にも車が走ってる道路じゃ、戦闘に集中できないな……)
◇
「すでに二人仕留めましたか……」
鹿張が薄笑いを浮かべながら、弥生たちの乗る車が走り行くのを見ていた。
「ポケットヴァリァスを割って化け物を呼び出しておいて自分で特殊部隊の方へ通報する……自作自演もいいところですね」
「!」
突然、鹿張は歩道から道路に飛び出した。
そして適当にそこら辺を走っていた車のフロントガラスを捻じ割り、軽い身のこなしで車内へ侵入した。
車内には四人の若い女性が乗っていた。
「少し失礼しますね」
鹿張は助手席に座っていた女性の頭を掴み、そのまま「グシャッ」と捻り潰してしまった。
そして扉を吹き飛ばして女性の死体を外に放り出した。
「すみません、気にせず真っ直ぐ運転してください」
鹿張がハンドルを強く掴む。
「きゃあああああああああ!!!!!!!」
三人の声が鹿張の鼓膜を激しく震わせる。
「あまり騒がないでくれませんか。このまま走ってくれれば悪いようにはしませんので」
「だッ、誰か助けてえッ!!」
後部座席にいる女性の一人がパニックを起こしながら警察へ電話しようと携帯を手に取る。
その瞬間、携帯が雑巾のように捻じれて粉々になってしまった。
「余計な事は慎んでください。殺しますよ?」
「ひぃっ……」
鹿張が突然動いた理由、それは弥生たちの乗っている車の荷台に見えた人物にあった。
「確認はしておいた方がいいですからね……」
その時、後ろに座っていた二人が鹿張を外に押し出した。
「……」
鹿張には反撃の余裕があったが、あえて外に投げ出された。
「ねえ!早く車を停めて!」
二人が運転席にいる女性に訴えかける。それでもハンドルを握ったまま走行を続けていた。
「早く停めてッ⁉警察電話してッ!」
「む……無理ッ……!」
運転手は冷汗を出してがくがく震えている。
「なんでよッ⁉早く停めろって言ってんだろォ!!!!」
「サ……サイドミラー見て……ッ!!!」
「はぁ……⁉……きゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
後部座席に座ってた彼女らは助手席の後ろの方へ身を寄せた。
「はぁ……大人しくしてれば何もしないと言ったではありませんか……」
鹿張は車外へ放り出された後、すぐに車の上へ移動し、そこからサイドミラーを覗いて中の様子を見ていた。運転手はそれに気づいて車を停められなかったのだ。
「淑女を傷つけたりはしませんが、話が通じない肉塊に容赦はしません」
鹿張が後部座席に入って片方の女性の頭を掴んだ。
グシャッ____。
シートの生地に血が染み込む。鹿張は潰した女性の体をトランクへ放り投げた。
「さ、次は貴方の番ですよ」
「や……やめて!なんでもしますから!」
「ハハッ、本当になんでもしてくれるんですか?」
女性が泣きながら頷く。呼吸はありえないほど荒くなり、今にも意識が吹き飛びそうだ。
「正直な話……運転手さえ生きていれば車は動くんです。僕は余計な事をしなければ悪いようにはしないと言いましたが、お二人はそれを破った……生かしておく理由はありませんね」
「ああっ……!」
「さようなら」
グシャ___。
残されたのは運転手だけになった。
涙のせいで視界が確保されているのか怪しいくらいだ。
「もう少しスピードを上げてください。向こうに見える黒い車の近くまで行ってください」
「はぁっ、はいっ……!」
◇
「向こうで何かあったな……弥生、もっとスピード上げて。そろそろ追い付かれる」
「もう少しで病院着くから頑張って耐えて!」
(そろそろ降りた方が良さそうだね。病院まで連れて行っていい相手じゃない)
世薙は車を飛び降り、化け物が来るのを待ち構えた。
液体は猛スピードで迫ってきたが世薙の存在に気づいて止まった。
「マタオ前カ……ソコヲドケ……!」
「無理だね、お前をこの場で始末するから」
液体はぷるぷる震えると、さっきの中年化け物の姿に戻った。
「小春では……やられ足りなかったのかな?」
世薙が電撃剣を抜く。刀身が青くなり、バチバチと電気を放ち始めた。
「さあ、かかってきなよ。一滴残らず蒸発させてあげるから」
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