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第百十話 「不到達駅への片道切符」

(スマホ充電するの忘れてたのか。あと40%……不安だから消しておくか)

俺はスマホをポケットの中にしまい、暇つぶしで外の景色を眺めることにした。


次の駅が近づいてきた。

「次はおおちピー……つギィッ……!」

ホラー映画に出てきそうな不気味なアナウンスが流れる。

「な、なんだあれは……⁉化け物だ!誰か!たす___」

運転手の意外な一面が見えた瞬間だった。


ドコォーーン!!!!!!!!!!!


衝撃音とともに体が右に引っ張られる。しかし電車も同じように傾いていった。

俺は列車が傾いた瞬間に『加速』を発動した。少しでも遅れていたら壁に頭を思いっきりぶつけていた。

(何が起こってるんだ⁉列車が脱線したのか⁉)

乗客たちは無様な姿勢で椅子から振り落とされている。

ゆっくりだが、俺も向こう側へと引っ張られていく。俺は咄嗟に左手で背後にある手すりを掴んだ。


(もう少し腕が長ければ……!申奏のところまで手が届かないッ!)


今俺がいる方の扉を思いっきり殴れば扉を外して脱出できたかもしれない。

しかし、俺の体は脊髄反射のように申奏の方へと動いていた。


 ◇


およそ三十分前__とある一隊の任務に遡る。

この部隊の隊長は玖維(くい)、つい先日Sランクに昇格したエリート隊員だ。

その隣にいるのは相方のアリィだ。


「玖維隊長、今日がSランクになってから初めての任務ですね!」

「まだ俺にはSランクなんて実力は無いが、前野隊長が今後の活躍を期待してということで本部の方へ推薦状を送ってくださったんだ。自分で言うのもあれだが、かれこれ五年近く働いてきたからかな」

「あの前野七番隊隊長が⁉あの人に認められるなんてすごいじゃないですか!」

彼女は任務の最中であることを忘れたかのように、はちゃわちゃとはしゃいでいた。


「気を引き締めろ。そろそろ言われてた任務地に到着するぞ」

「線路の真ん中に出たんですっけ?」

「線路がやられる前に片付けるか、あるいはオーバーブレイクさせるか……どっちにしても面倒だな」

玖維らはフェンスを飛び越え、線路沿いに走っていると目的のヴァリァスを見つけた。

「アリィ、あれだ」

「うわぁ……なんか沢山いるじゃないですか」

「さっさと片付けるぞ」


二人が敵を一瞬で倒すと、待ってましたと言わんばかりにフィールドボスが出現した。

「よし、コイツを倒せば……」

腕が六本あるカマキリのような化け物だ。


「キィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!」


化け物がすぐに二人に襲い掛かる。二人は距離を取り、武器を構え直した。

「狂暴ですね……」

「化け物なんてみんなそうだ」


二人とカマキリが不安定な足場で矛を交える。

じゃりじゃり石同士が擦れる音が鳴り響く。


「あっ……!」

アリィがレールの上に乗った時、足が滑ってバランスを崩してしまった。

「アリィ!!」

玖維が足を助太刀に向かう。しかしそれよりも速くカマキリの鋭い鎌がアリィに襲い掛かっていた。


グシャッ……メリメリ……グシャ____


化け物は中心へ捻じれるように潰れ、跡形も無く消滅した。

「え……?あっ……」

少なくとも特殊部隊ではない格好をした男が目の前に現れた。

キョロキョロと周囲を見渡すと男はアリィにぐいっと顔を近づけた。

「間一髪でしたね、お嬢さん」

「あ……は、はい……ありがとうございます……」


「何者だ。その風貌、特殊部隊じゃないだろう」

すると男はアリィから離れ、玖維の方に振り返った。

「ええ。確かに僕は特殊部隊ではありません。それが何か問題でも?」

「それなら尚更だ。今どうやって化け物を倒した」

「ふむ……、その質問には答えたくありません。このお嬢さんを助けた礼ってことでさっき見たことは無しにしていただきたい」

玖維は心にモヤモヤがかかっていたし、今目の前にいるこの青年をかなり怪しんでいたが、なぜか知らない方がいい気がしてきたので何も言わなかった。


「では失礼します。じゃあね、お嬢さん」

男はアリィに手を振り、その場から去ってしまった。


「再化結晶はこれでよし……」

「さっきの人、強かったですね。あんな一瞬で倒しちゃうなんて……」

「そうか?」

少し不貞腐れたように玖維は言った。

「ん!さては嫉妬ですか⁉」

「してるわけないだろ」

アリィは玖維に振り返り、にこやかに笑った。そして目を開けた時、視界の奥の方に奇妙な物体があるのが見えた。


「隊長、ちょっと待っててください」

アリィは線路の枕木の上に寝かされたビンをしゃがんで覗き込んだ。

「何これ?」


緑色の液体の中に黒い何かが浮かんでいる。

「あなたも興味があるんですね……」

「え⁉あれ……?気のせい……?」

その時、ビンにヒビが入った。

「アリィ!早く戻れッ!」

「は、はいッ!」


するとビンが完全に割れ、中から巨大なワームが現れた。

「アリィ、お前何をしたッ⁉」

「わ、私は何も……!」

「お前はとりあえず応援を呼ぶんだ!急げ!」


 ◇


額に妙な感触がする。

「そうだ……電車が脱線して……」

額にある妙な感触を確認するためにスマホを取り出した。

真っ暗な画面が鏡のように俺の姿を映し出す。

「血か……」


(すでに誰かが連絡してるはずだ。電車の脱線程度で全員が全員死ぬわけではないだろうし……)


ゆっくりと体を起こすと、背中がジーンと痛みが走った。

「あぁ……!」


まだ立ち上がれない。明らかに足首かどこかをやっちゃってる。

(申奏は生きてるか……?)

彼女は割れた窓ガラスを挟んで地面に頭をぶつけていた。

「申奏……⁉……一応息はあるな。よかった……」


「相棒……外にとんでもない化け物の気配がするぞ……」

今まで聞いたことない、セイエイが恐怖に怯える声だった。

「……っはぁ。立ち上がるだけで息が切れそうだ……」


俺はフラフラになりながら出口を探した。しかし横転した電車にある出入口は、本来なら床か天井に位置している箇所だ。そんなものがあるはずがない。

「セイエイ、一旦ここを破壊してくれないか?できるだけ破片が飛び散らないように……」

「おう、わかった」


ドーン!!カタカタカタ……


電車の天井部分を破壊するとついでに壊された細かい部品やエアコンの風向調整に使われているプラスチックの板が線路の上に散らばった。

「化け物はどこだ。俺でも倒せそうか?」

「あれじゃないか……?」


俺の目に飛び込んだのは、小学生の時に見た「未確認生物図鑑」に出てきてたような気がしなくもない化け物「サンドワーム」に似ていた。

「いや……あの図鑑に書いてあった大きさに比べれば全然小さそうだが、それでも十分に大きいな。こんなやつにぶつかれば電車も脱線するに決まって……」

俺が少し車両から離れて前方を見ると、一車両より前の車両が綺麗に消えていた。

「四号車までが消えてるだと……?」


(そういえば電車が脱線する前、運転手がアナウンスしてたな。もしかしてあの時、目の前にアイツが現れて四号車までを丸呑みにしたのか……⁉)


サンドワームは五十メートルほど先で暴れている。俺は主人公補正では、アイツはどうにもならないことを察してその場で大人しくしていた。

「あんなの誰が倒せるんだよ……」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ______!!!!!!!!!


「地震か⁉」

見てみれば電車の上にある配線も完全に千切れている。

ただ切られずに済んだところは地震の振動を直に受けて、一回転しそうなほどの勢いでぶらんぶらん揺れていた。

「地震が止んだ……!待った……アイツはどこに行った?」


ドッカーン!!!!!!


「!」

音のした方を咄嗟に振り返ると、サンドワームが地面から出てくるときに一車両を吹っ飛ばしていた。

しかもヤツは俺の存在に気づくと獲物か何かと思ってるのか、大きく口を開けて他の車両を呑み込みながらこちらへ向かってきた。


(地面を潜ってきたのか。ならせめて申奏だけでも……!)


サンドワームが電車を呑み込む。そこに電車に戻っていった少年を見た玖維が駆けつけた。

「くそ……応援はまだか!」

玖維はサンドワームとの戦闘を再開した。

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