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第百九話 「まだ青い春と黒い影」

智影と一人の男がベランダで話していた。

「イカリがやられた」

「……らしいな」

智影はすでに不機嫌そうな顔をしている。それを伝えたのは彼の友人であり、『互』の幹部でもある越津道彦(えつづみちひこ)だ。

「お前がアイツを自身の後任にしようとしていたという話は風の噂で聞いた。だからそこまで機嫌を悪くするのもわかる。だが……」


越津は振り返り、バラバラにされた死体を見下ろした。

「特殊部隊の隊員の家族を殺す必要はないんじゃないか。この二人はお前に関係無い人間だったろう?」

「敵の味方は敵。すなわち隊員の家族も敵だ。私の組織に手を出すような奴らには少なからず制裁が必要だからな」

「……お前は変わんないな。死ぬ瞬間までそういう態度でいてくれよ」

越津は夜の中に姿を消した。


碇候炉(いかりこうろ)……お前までやられたか。俺が手塩にかけて育ててきた優秀な幹部がこうも簡単に葬られるとは……。残っているのは越津と鹿張(かばり)の二人だけ……か」

智影は部下の死を憂いつつ、その場から姿を消した。


 ◇


ある日の朝、姜椰はリビングのテレビをつけた。

ただ静かな朝に音が欲しかっただけだ。

「マンションで一家惨殺か」

「相棒がテレビ観るなんて珍しいな。なんか面白い番組でもやってるのか?」

セイエイが画面を見る。黙って画面を見つめると何かに気づいたかのように無言でリモコンのスイッチを押した。

「これ、人間の仕業じゃないぞ」

「なんでわかる」

「調査してるのが警察じゃなくて特殊部隊の人間だろ?警察はヴァリァス適性があまり無い人もいるし、そもそもヴァリァスへの専門的な知識が無いからここにいないんだ。その証拠に、近隣住民も避難してるってテロップで書いてあった」

「……なるほどな」

姜椰は箸を置いた。今のセイエイの言葉で全てを察したようだ。


「多分犯人は『互』の人間だ。アイツらはヴァリァスが使えるように自分の体を弄ってるからな」

「ヴァリァサーみたいなもんか……」

「一応、『互』の人間は自我もあって見た目も普通の人間と変わらないんだ。ただヴァリァスの力を使って変な攻撃をしてくるだけであって……」

姜椰は朝食を摂り終えると早々に学校へ行く準備を始めた。


姜椰は玄関の戸締りをしたことを確認して解けていた靴紐を結びなおしている。

「今日はいつもより早くに出るんだな」

「申奏と同じ電車に乗りたいからな」

玄関を開け、ちゃんと鍵がかかってることを確認すると姜椰は家の敷地を出た。


キーン!!!!!!


聴き慣れた戦闘の音が俺の耳に入った。

「そっち行ったぞ!」


(特殊部隊……近辺でヴァリァスが出現したのか)


俺は遠くから戦闘の様子を眺めた。乗る予定の電車まで時間はある。

少し見物してからでも間に合うはずだ。


「朝から化け物の顔を拝む羽目になるとはな」

化け物と数名の隊員は互角に渡り合い、徐々にこちらへ近づいてくる。

そして逃げようとしてこちらに振り返った化け物と視線が合ってしまった。

「ウォォォォォォ!!!!!!!!!」


(攻撃の威力と速さからしてDランクヴァリァス……の割には知性も戦闘力も高い。一般人の俺を人質にする気か)


「セイエイ、黒晶剣をくれ」

「あい」

俺は地面から黒晶剣(セイエイの結晶で作られた剣)を取り出し、化け物が近づいてくるのを待った。


タイミングを見計らい、右腕だけで化け物の体を真っ二つに、両腕を斬り落とした。

「一年経たずしてここまで……去年の俺はCランクヴァリァスを倒すのでさえ一苦労だったろうに」

今もそこまで強くはないが、弱かった頃が懐かしい。極めたゲームをやっている中で、ふと初心者だった頃の思い出が蘇ってきたような感じだ。


「化け物を一撃で……!」

「あの制服は養成高校のですよ。きっと化け物と模擬戦闘でもしたんでしょう」

俺は黒晶剣を地面に投げ捨て、隊員に軽く会釈して通り過ぎた。


(万が一のために『加速』を使用したはいいものの、少し力加減をミスったな。五十メートル走を走り終えたくらいの疲労が溜まってしまった。でも彼らが化け物を瞬殺した俺を少し引いたような目で見ているのは気分がいいから、それはそれでよしとしよう)


 ◇


(申奏がいない……もうホームに向かったのかな)

改札前でうろちょろしてるのも変なので、とりあえず駅のホームへ向かった。


(もうすぐ電車が来る……けどまあ学校で会えるしいいか)


その時、後ろから両肩に手が乗せられた。

「わっ!」

顔の真横からかわいい少女の顔が現れた。

「!」

姜椰は小さくびっくりした後、「ふふん……」と照れを隠すように笑ってみせた。

「姜椰がこの時間の列車に乗るなんて珍しいね」

「今日は早く目覚めたから君と一緒に学校行こうって思って」

「フフ……ありがと。じゃあ、これからは私が一本遅いのに乗ろうかな。その方が姜椰も楽でしょ?」

「トラブって遅延したら遅刻確定だけどな」

「他に遅刻する人もいるよ、きっと。みんなでやれば怖くない!」


俺は朝から彼女の笑顔に癒されていた。

間もなくしてホームに電車が到着し、里弦駅を出発した。



しかし、二人が乗っている電車が目的の駅までたどり着くことは無かった___。




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