第百八話 「仲間のために」
鎖の先端は刺刺した鉄球へと形を変えた。
「別れの時間だ!」
鉄球が地面を抉りながら突き進んでくる。
姜椰と弥生は鉄球の進行方向に対して垂直に避けた。鉄球は我が物顔で直進し、イカリが鎖を引くとその経路上にあるものを破壊して戻ってきた。
「当たったら即死……掠ってもそこそこ怪我は負いそうだな」
「もうすぐ小春たちも戻って来る。それまではどうにかコイツを食い止めるよ!」
「ああ!」
姜椰は鉄球を躱しながら適度に距離を詰めて隙をうかがい、弥生は攻撃の隙間を突き刺すように銃弾を放った。
イカリの前では攻撃をいなされてしまうが、足止めする分には二人で十分だった。
場の三人はゆっくりと疲弊していき、お互いに攻撃の速度も精度も落ちていった。
「いつまでもちょこまかと……!」
イカリは徐々に攻撃が乱雑になっていった。早くここを去らないといけないという焦燥が彼の攻撃に隙をつくってしまったのだ。
「フッ!」
「ぐあっ!!!」
姜椰がイカリの背に斬撃を与えた。
イカリがすぐさま鎖を操って鉄球を自身の背後に落とすも、姜椰は軽々と避けてしまった。
「私がこんな追い詰められるとは……国の犬どもにもなめられたものだな!」
イカリが鉄球を振り回す。見る見るうちに加速していき、その風がローブの袖をバタバタと震わせた。
周囲を薙ぎ払うようにぐるぐると回転した鉄球は勢いよく弥生の方へ吹っ飛んでいった。
「弥生、気をつけろ!!!」
鉄球は鎖の長さが足りなかったため、弥生の目の前で止まってしまった。弥生はすぐさま下がり、銃の標準を合わせた。
その時、鉄球が鋭い五本爪に変形した。
「⁉」
「私の武器は形を変えることを忘れていたのか⁉」
獲物を捕らえる食虫植物のように爪が落ちた。
ギィーーーーーーン!!!!!!!!!
「……?」
ポタポタと血が落ちる。
「きょっ、姜ちゃんッ⁉」
「早く……どけ。腕が辛い……」
攻撃を弾き、よろよろと後ろに下がる姜椰に弥生は手を貸した。
姜椰は蒼電剣と拾った電撃剣で爪を受け止めたが、どうしても受け止められなかった爪が姜椰の脇腹に食い込んでいた。
「く……!」
姜椰は傷口を押さえるように左腕を優しく添えた。
「意外と傷は浅そうだ。まだ戦える」
「あの距離で仲間を助けに行けるほど素早いとはな。傷をつくられても、まだ余裕があると見える」
「フン……何年この仕事やってると思ってんだ。俺はお前みたいな化け物と戦って何度も勝ち残ってきてるんだよ」
「姜ちゃん……入隊して一年も経ってないよな……?」
弥生はボソッと真実を呟いた。
「そうか……なら私にも勝ってくれるということだな⁉」
イカリはスーツを破いて上裸になると、再び鉄球をぐるぐると回し始めた。
「いくらお前の武器が変形するとしても、小回りが利かないのでは俺に当てられないだろうからな。それと弥生、お前は少し休め。コイツは俺が相手するから」
「姜ちゃん一人で相手するのは流石に……」
俺はどうしても参戦しようとしてくる弥生の言葉を遮った。
「”一瞬の隙が命取り”……自分の身も守れない隊員が、駄々をこねるな」
「……ごめん」
弥生は完全に意気消沈し、すぐに身を下げてしまった。
(敵を前に緊張しすぎて少し言い過ぎてしまった……コイツを倒した後に謝っておくか……)
「……」
「フン……目つきが変わったな、若者にしてはいい目だ」
「加速……」
姜椰が高速で距離を詰めに行く。
それに呼応するようにイカリの鉄球が行く手を阻む。
姜椰は少し多めに間合いを取りつつイカリへ近づいていく。
イカリはその様子を見ながら、姜椰が先程の爪の攻撃を警戒していることに気がついた。
「学習したか。しかし私には初見殺しの技がいくらでもある!」
「ほう?私にも見せてくれないか?」
小春が後ろから姿を現した。
突然の来客にもイカリは眉一つ動かさなかった。
「終斗がやられたか。どいつもこいつも頼れんな……」
イカリは狙いを姜椰から小春へと変えると同時に技の構えに入った。
【万物斬殲】!!!!!!!
鉄球が無数の回転する刃物へと変わり、周囲の物に見境なく飛びかかった。
イカリのヘイトが小春へ向いたことで、姜椰はイカリの万物斬殲の射程内に入っていた。
(小春を攻撃しつつ俺にまでダメージを負わせる気か……!)
姜椰は剣でいくつか弾いたが、あまりの数に圧倒されて胴体や足に数本刺さってしまった。
「若者の考えることなど全てわかる。私の若い頃に似ているからな」
「くっ……」
姜椰は『加速』の疲労と先の出血で足がフラフラになってきた。
「神村、後は私に任せろ」
小春は飛んできた刃物を全て躱すと、イカリの周りを高速で移動し始めた。
イカリは小春の動きに翻弄され、あらぬ方向を攻撃した。
「姜ちゃん、危ないからこっちに!」
戦線離脱した姜椰に弥生が声を上げる。
「……癪だ。せめてもう一撃くらいは入れなくては……!」
姜椰は背を向けているイカリに投擲の構えをとった。
そして狙いを定め、電撃剣を高速で投げた。
「また不意を突く考えか?」
イカリは小春を攻撃するついでに姜椰の電撃剣を弾いた。
「フン、まさか……それは囮だぞ。俺の考えがわからなかったか?」
「ッ!きッ、貴様!」
背後に回った小春が大剣を振り下ろすと、反応しきれなかったイカリは体を真っ二つにされて息絶えた。
「ずいぶんと面倒な相手だったな。刺客の登場も予想外だったが、上手く対処できてよかった」
小春は満足そうに大剣を地面に突き刺した。
「やっと終わったか……」
姜椰はくたびれたように地面に座り込んだ。そこに寄り添うように弥生も座り込んだ。
「見事な戦いだったよ」
弥生はぽん、と優しく姜椰の背中を叩いた。
「怪我はしてないか……?」
「うん、姜ちゃんの言う通りにしてたからね。あのまま戦ってたらあの技を食らうところだったし、姜ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
弥生の純粋な笑顔に姜椰は心が痛くなってきた。
「さっきは言い過ぎた。ごめん」
「ん?何が?」
彼女の笑顔は一切崩れなかった。
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