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第百七話 「会心の一撃」

「どこに行きやがった……?」

終斗は左腕に刺さったナイフを一本ずつ丁寧に引き抜き、刃に付いた血を振り払った。

「もしかして仲間のところへ戻ったのか……?」


コツン……。


「あ……?」

終斗の頭に何かが落ちた。

軽い何か__質感は塵のようなものだった。

「小石……いや、砕けたコンクリートの破片か」

終斗が何か異変を感じていると、彼の周囲が薄暗くなった。


「⁉」

上からコンテナが降ってきた。

終斗は辛うじて反応し、地面に転がる形でそれを避けた。

「アイツ……まだ離れていなかったのか……!」


フィーン!!!!!!


「ぐあッ!!」

終斗が立ち上がると同時にどこからか飛んできた金属板が肩に突き刺さった。

「はぁ……はぁっ……」

金属板を引き抜くと、ますます出血量が増えた。


「これで終わりだッ!!!!!」

「⁉」

世薙は「バァン!!」という痛そうな音を立てて、終斗の背後から高速でコンテナを殴り飛ばした。

もう終斗に打つ手は無かったが、せめて相討ちにするために右手で最後のナイフを取り出す。

「これは俺の手土産だ。お前が……代わりに受け取れ!」


終斗は全てのヴァリァスを使い、超高速でナイフを放った。

空気を切り裂き、真っ直ぐコンテナを貫通し、世薙の命を奪うために勢い落とさず進む。

「俺にも……適性があればな……」

コンテナがぶつかる寸前、終斗は開いた穴から世薙にナイフが命中しているのが見えた。

そしてニヤリと笑い、彼は上半身を吹き飛ばされて死亡した。


コンテナは飛行機が胴体着陸するように火花を散らしながら地面に降りた。

「ぁ……」

世薙は地面に横たわっていた。


(まさかナイフが飛んでくるとは思わなかった……。反射的に出した右手を容易に貫通して左腕にまで突き刺さるとは……)


「とりあえず……刺客はこれで大丈夫そうだ……」

ふと辺りに目を向けると、後ろから誰かが走って来ていた。

「世薙、大丈夫か⁉」

「小春……そっちも終わったの……?」

「城城がお前の援護に向かえと言うから来たんだ。何がともあれ、お前が無事でよかった」


二人は肩を組んでその場を離れた。


 ◇


「二人だけで私の行く手を阻むつもりか……」

イカリはどこからか長い鎖を出した。


「気をつけて、姜ちゃん。コイツの実力はSランク隊員の上位に匹敵するくらいだから」

「Aランクの俺では、世薙たちが戻って来るまでの時間稼ぎくらいしかできないと思うぞ」

姜椰は緊張を隠すようにしぶしぶ剣を取り出した。


「Sランク九番隊の実力……とくと見せてもらおう!」

イカリは目を見開き、鎖をものすごい勢いで振り回してきた。不規則に波打ち、なぜか空気が爆発するような音もしている。

ただ振り回すだけで辺りの地面は砕け、コンテナには大穴が開いた。

「どうだ!この鎖は!」


「そんな無造作に振り回してるだけで私達に当たるとでも思った?」

弥生は隙を見て二発撃った。無造作に振り回している鎖はすでにイカリから遠いところまで移動していた。この一瞬で彼が自分のところまで鎖を戻して弾を防ぐことはほぼ不可能だった。

「これで終わり……」

彼女は勝利を確信した。


その瞬間、空中から高速で戻ってきた鎖が銃弾を弾き、そのまま弥生の頬を掠めた。

「なんで……⁉」

弥生はイカリの芸当に驚愕した。

「フフ、甘いな。いつから私が何の考えも無く、ただ鎖を振り回してるだけと思っていたのだ?もうすでに、戦況は私の方へと傾いているのだッ!」


ジャララララララ______!!!!!!


「⁉」

鎖は自我を持ったかのように動き、弥生の足に巻き付いた。

「もう遅いぞ!」

イカリが鎖を引く。彼女は引っ張られないように咄嗟に左手を地面に付けたが、小さい弥生の体は簡単に持ち上がってしまった。

弥生は空中に投げ出され、地面に激突した。

「あ~……いててて……!」

「弥生?大丈夫か?」

「Sランク九番隊隊長がこの程度で倒れるわけないだろ。こう見えて私は頑丈なんだからな!」

彼女は本当に頑丈のようだ。


「よそ見してる場合か!」

「!」

イカリは俺の電撃剣に鎖を巻き付けた。

「ぐっ!」


(まずい!ここで武器を取られたら、弥生の足手まといになってしまう……!でもこの馬鹿力には耐えられない……ッ!)


「ぐぬぬぬ~!」

弥生と俺がどれだけ踏ん張っても全然意味が無かった。二人してジリジリと音を立てながらイカリの方へと引き寄せられていくだけだった。


(おもりが無い鎖なのになんでこんなに巻き付くんだ……?ただチェーンを巻き付けるだけではするすると抜けてしまうはずなのに……結ばれるような形で巻き付いてるのか?)


電撃剣を左に傾けて見てみたが、特に変なところは見当たらなかった。

理屈がわからず、俺はだんだん焦り始めていた。

卓球で初見の回転技を見せられたような気分だ。


(今日はたまたまセイエイが近所のカラスと出かけるとか訳わからないことを抜かして出掛けて行ったせいでアイツのことも頼れない……!こうなったら鎖を焼き切るしか……!)


「ぐっ……!」

どれだけ引っ張って鎖を熔かそうとしたが、耐熱性なのか単に電力が足りないのか、中々切れない。

「早く切れろ……ッ!」

もう無理だった。力一杯握る手はもはや手汗をかいて痙攣していたし、弥生も息が上がっていた。

そのままイカリの拳が届くぐらいのところまで来てしまった。


(もう無理だ……コイツの力には抗うだけ体力を消耗するだけだ。だがアイツが俺を至近距離まで近づけてくれるなら……)


「綱引きは終わりだ、若者よ。私の鎖を切れなかった……貴様の負けだ」

「俺をここまで近づけたお前の負けだ……の間違いじゃないか?」

姜椰はイカリを見上げた。

そして鎖の巻き付いた電撃剣から手を離し、右手を左腕の方に持っていった。

「加速・最高倍率……!」

水面に生まれた波紋が消えるより早く剣を振るう。


(これが……蒼電剣・厄無だッ!)


姜椰の一撃はイカリの胴を切り裂いた。

スーツが目に見えるほど破れ、その奥にある肉体も真っ赤に染まっていた。

「その剣……いい切れ味だな……」

「あのまま遠くから鎖を振り回していれば手が出せなかったというのに……少し俺を甘く見過ぎたのか」


(いける。思ってたよりもいける相手かもしれない。決して油断できる相手ではないが、弥生のアシストがあれば勝てる可能性が高い。あとは世薙と小春が戻ってきてくれれば……!)


姜椰はイカリを強く睨んだ。

蒼電剣の刃にはイカリの血が少量垂れている。電気が流れていないのに、電撃剣より遥かに切れ味がいい。

「弾が当たらないから、結局俺がやるしかないってことか」

「ごめん……次は必ず当てるから!」

弥生は自身の不甲斐なさを薙ぎ払うように前を向いた。


「私もこの後、重要な会議があるんだ。そろそろここを出発しないと間に合いそうにないのでな……本気を出させてもらうぞッ!」

「まだ何か切り札が……」

イカリの持つ鎖の先端の輪が変形し始める。


「ヴァリァスの力を教えてやろう……!」

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