第百三話 「前だけを向いて」
ヴァリァスデータ集約所の一件から一ヶ月が経った。
俺はこの一ヶ月を怪我の治療に専念し、同時にランクがBからAに上がった。
そして今回の一件が起こった後、俺が黄月さんと戦っている時に(セイエイの)結晶を使っているところを大勢の隊員に見られたことで少し面倒なことになっていた。
申奏から聞いた話では、俺の代わりに今川さんと弥生がどうにかして丸く収めたらしいのだが、まだ隊員の間では色々な噂が流れているらしい。
◇
俺は今日、怪我の治り具合を見てもらうために病院に来ていた。
待合席で待っていると横に見慣れた青年が座ってきた。
「やあ、久しぶり」
「あ、今川さん。お久しぶりです」
ペコリと小さく頭を下げる。
「怪我の方は大丈夫か?」
「もう完治しそうです」
今川さんは「そうか」と安心そうに言った。
するとその笑顔が急に真顔に変わった。
「黄月との戦いのことを知り合いから聞いたんだけど……君、黒い石のようなものを使っていたらしいね。いつからそんな能力を身に着けたの?」
俺はセイエイがその能力を使えることを説明した。
「セイエイは今いる?」
「いますよ。セイエイ、お前に用があるって」
姜椰が手を広げるとセイエイが飛び出て手のひらに乗った。
「なんだ、呼んだか?」
「セイエイも元気そうだね」
今川がセイエイの頭を指で優しく撫でた。
「セイエイ、君に聞きたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「君は何者なんだ?ただ研究データを記憶してるだけの鳥じゃないんだろう?」
今川が鋭く問うとセイエイは黙り込んでしまった。
「……僕は何も知らない。なんでこんな能力を持っているのかもわからない。ただ博士が僕を作った時にそう教えてくれたんだ。結晶を作れることは最近知ったんだけど……」
俯くセイエイを脇目に今川さんは俺の方を見た。
「姜椰、セイエイのことは誰かに言ったか?」
「まだ誰にも……強いて言うなら月海と如月さん……ですかね。二人にはセイエイの存在ではなく、結晶を使えることだけを話しました」
「月海と蒼花か……あの二人になら知られても問題は無さそうだね。ありがとう、色々教えてくれて助かった」
今川は席を立つとエレベーターで上に行ってしまった。
(今……如月さんのことを下の名前で呼んでたような……)
◇(診察が終わった……)
「姜ちゃん、待ってたよ」
俺が診察室から出ると部屋の前で弥生が座っていた。
「弥生……!フフッ、今日は色んな人に会う日だな」
「私もさっき晴斗に会ったぞ。私にも気づかずどこかに走ってったけど」
「そうなのか。ところで俺に何か用か?」
俺は弥生の隣に腰かけた。
「姜ちゃんさ、特殊部隊に入ってるでしょ?」
彼女はごくごく当たり前のことを聞いてきた。
俺は「お、おう」と困惑した顔を浮かべながら頷いた。
「実はね、その特殊部隊の人間だけを襲う集団がいるらしくて」
「はあ」
(格我や黄陽、この前の超大型ヴァリァスの時に出会った玲とかのことを言ってるのか?俺、てっきり彼らは想決に雇われてるだけの連中だと思ってた)
弥生は自分の膝を軽く叩きながら話を続けた。
「今までは総隊長の指示とかを受けて私とか晴斗が対応してたんだけど、この頃は数が多すぎて対応しきれないし近接戦闘の敵とかに出くわすと面倒なの。だから姜ちゃんに手伝ってほしい……なーんて思ったり……思わなかったり?」
言い終えると弥生はぐいっと詰め寄ってきた。
「ち、近いって……」と俺は弥生を放した。
「弥生と今川さんがいいなら俺は構わない。もう黄月さんとは任務に当たれないし……」
不意に抑えてた悲しい気持ちが心に染み込んできた。
「またいつか会える」とあの人は最期まで俺を悲しませないようにしてくれたのに、それが余計に俺を悲しくさせる。
(忘れたいことって忘れられないんだな……)
すると肩に何かが置かれた。
ピタッとフィットする何かに目を向けると、それは弥生の左手だった。
「大丈夫だよ、またいつか会えるんだろ」
「え……なんで知ってるんだ?」
「今ボソッと言ってたぞ」
「あ、あぁ……そうか。無意識に……」
「あんまり引き摺るなよ。弾丸のようにひたすら直進!以上!」
弥生は元気よく椅子から飛び跳ねた。
「まあ詳しいことは後で教えるから姜ちゃんは怪我の治療に専念してね。じゃあ!」
「ああ、じゃあな」
弥生は院内をスキップで移動した。
俺がその背を見守っているとつま先が床にひっかかって無様に転んでしまった。
「フッ……」
彼女の間抜けな姿に思わず頬が緩んだ。
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