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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第百一話 「反旗を翻す文明」

姜椰が倒れた時、集約所の外では化け物が生まれて大騒ぎだった。

その化け物が規格外の強さだったため、神楽坂が一人で相手していたがなかなか決着がつかず、他の隊員は怪我人を運ぶのに必死で戦場は慌ただしかった。


「オラァ!!!!」

化け物の拳を神楽坂は持ち手の部分で防ぎ、素早く斬り返して化け物の胴体に斬撃を入れた。

すると化け物は素早く身を翻して傷を治した。

「俺の拳でもぶっ壊れねぇとは、たいそういい武器なんだな。俺にも欲しいぜ……!」

神楽坂には先の戦闘での疲労が僅かに影響し始めていた。


(想決が割った謎の容器……私の村でも見たことが無い代物だ。ヴァリァスがなくとも手軽に化け物を呼び寄せることができるとは……)


「行くぞッ!」

次の瞬間、化け物の姿が消えた。

「どこに目ェついてんだ、ボケがぁ!」

背後から鋭い拳が放たれる。

「さほど重くもない……」

神楽坂は振り返ることなく化け物の拳を切り落とした。

化け物はまた傷を再生させた。何度も再生しているせいか動きが少しだけ鈍り始めている。

「……なかなかに面倒な相手だぜ。てめえからは冷たい殺気が漂ってきやがる」


「ウラァ!!!!!!」

化け物は神楽坂に高速のパンチを繰り出す。

神楽坂はそれを全ていなすと、ガラ空きになった首へと鎌を振った。

間一髪のところで化け物は攻撃を躱した。


二人が戦い始めてすでに一時間は経過していた。

神楽坂も表情こそ変わらないものの、鎌を握る手はとっくのとうに震えていた。

「もう終わりかぁ?」

「……私はもう終わりにしたい」


すると神楽坂は鎌を地面に平行にして化け物に向かって投げた。

「ずいぶんと大きく出たじゃねぇか!だがそんな戯けた攻撃で俺が倒せるとでも思ったか!」

化け物は恐れることなく手で鎌の刃を掴み、はるか遠くにぶん投げた。

神楽坂へのとどめの一撃を刺そうと高く飛び上がった。

「楽しかったぞ!てめえのことは明日まで覚えておいてやるぜ!」


化け物の拳が神楽坂に当たる寸前、彼は素手で化け物の拳を受け止めた。

「何ッ⁉」

「わからないのか。お前はすでに死んだ」

神楽坂がそう言うと化け物は彼から拳を引っ込めた。そして自分の体を何度も確認し、何も無いことを確かめた。

「何も無ェだろうが。カマかけてんじゃねぇぞ!」

「カマだけに……か」

「……あぁ⁉」

神楽坂は自分がスベったことに気づくと化け物に背を向けた。

「……不愉快だ。死ぬがいい」

次の瞬間、化け物の体はボロボロに崩壊し始めた。

「攻撃は食らってない……なのにど、どうし……て……」

「お前に鎌を投げたのはお前の右手に傷を作るためだ。拳を握っていてばかりだから攻撃するのに苦労したが……」

すでに化け物は崩れ去っていた。

「これが私の適性『絶狩(ぜっしゅ)』の能力だ___」


 ◇


その頃、大広間では姜椰が怪我の手当てをされていた。

申奏が俺の手についた血を拭ってくれたり、服を緩めてくれたりと何から何までやってくれた。

「ありがとう……気分もまあまあ良くなってきた……」

「フフッ、姜椰が無事でよかったよ」

申奏は俺の手を優しく握った。

俺も弱弱しくも出来る限りの力で握り返した。


「ところで……黄月さんと神楽坂さんはどこに……?」

「神楽坂さんは外で想決が残していった化け物と戦ってる。少し苦戦してるみたいだったけど……」

申奏の言葉はそこで止まった。

「……黄月……さんは?」

「想決に装甲を破壊されて一時的に電源を落としたって聞いたよ。データを盗まれないようにするために異常が起きると勝手に電源が落ちるらしくて……」

「……そうか。申奏は……怪我は無いんだよな……?」

「私は無いよ。ずっと後方で戦ってたから」


外から歓声が聞こえてきた。

「何かあったのかな……」

「神楽坂さんが勝ったんじゃないか……?」


その時、外から隊員数名が駆けつけてきた。

「外の戦闘が終わった!すぐに怪我人を外に運べぇ!」

報告を聞くと隊員たちのよって、慈串帆誉などの重体な人たちが担架で運ばれていった。


俺の方も手当てが完了して担架で運ばれるのを待っていた。

「お二方、ここにいましたか」

申奏の後ろから声がして振り返ると、胴体に穴が開いている黄月の姿があった。

「目が覚めたんですか?ご無事で何よりです」


(ちょっと待った……なんで黄月さんがここにいるんだ。電源が落ちたなら、誰かが起動しなければ動けないはずなのに……)

怪しく思って黄月を見つめていると、彼の目の色が赤色に変化した。

明らかに異常だ。まるで何かを警告しているかのようだった。


「セイエイ……足場を頼む」

「ん……?今何か言……」

申奏は不思議そうに俺の方を見つめた。

俺はセイエイが床から生やした結晶に体を委ね、ゆっくりと立ち上がった。

「ちょっと、姜椰。今から担架が来るから大人しく待っててよ」


カシャン、ガシャン__。


黄月の装甲が剥がれ落ち、内側の機構が露わになった。

「黄月さん、さっきから様子が……はぁ……おかしいですよ……?」

俺は立つだけでやっとだったが、なんとか息を捻って言葉を発した。

「気づかれていましたか……」


すると黄月は自身の左腕を引きちぎった。

「実はすでに想決の手が私に及んでいたようで……制御室で確認したところ、私はすでに体の自由が効かなく……なっています。ですから誰かにこの体を破壊してほしいです……」

黄月は何かに抗っているのか、体を震わせながら左腕を捨てた。


「想決に体を操縦されてる……という認識で大丈夫ですか?」

「……そんなところです。今はまだシステムの一部が乗っ取られていませんので……勝手に襲い掛かるということは無いのですが……」

黄月は今にも襲ってきそうなほど姿勢だった。

きっと気を抜いたらすぐに俺達を殺しにかかってしまうんだろう。


「申奏、肩をかしてくれないか……?」

「わ、わかった!」

申奏がすぐに俺とくっついた。これで準備は整った。

「しっかり摑まれ……!」


セイエイの結晶が俺達の足元で板のような形を作り、それを高速でサーフィンボードのように高速で移動させて建物の外まで移動した。

外に出て俺は近くにいた隊員に助けを呼んだ。

「か……神楽坂さんを呼んでくれ。黄月さんが暴走し始めた……!」

「暴走……⁉少し待ってろ、すぐに呼んで来る!」

隊員は周囲の仲間に状況を伝えるとすぐに神楽坂さんを探しに行った。


すると集約所の中から悲鳴が聞こえてきた。

それは女性隊員の悲痛な叫びだったが、すぐに止んでしまった。

「神楽坂さんを呼んできたぞ!」

「何があった」


俺が状況を説明すると神楽坂さんは鎌を向こうへ掲げた。

「暴走……あれのことか?」

俺が振り返ると、集約所の玄関のところで黄月が隊員の死体を引き摺ってきていた。

黄月は隊員の髪を放すとゆっくりとこちらへ近づいてきた。


「誰か……私を……破壊して……」

黄月がこちらへ歩み寄って来る。隊員たちは黄月の強さと残忍さに恐れ戦いていた。

「私一人では厳しい。もし手に負えないと思ったら時雨を呼べ」

「俺……やります……」

俺は申奏から離れ、ゆっくりと剣を抜いた。

すでに『加速』の反動は消えてる。今なら多少は戦えるはずだ。


「姜椰……本当に大丈夫なの……?無理はしないでね……?」

「わかってる」


(黄月さんは俺とは異次元の強さだ。でも今は装甲が無く左腕も無い。そしてこっちには神楽坂さんがいる。俺が足を引っ張らなければ勝ち目はあるッ!)

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