第百話 「網から抜けた大魚」
神楽坂に勝てないと判断した想決は出口に向かうために廊下を全力疾走していた。
そこの角を曲がればすぐ大広間に辿り着く。そうすれば出口まですぐだ。
「にしてもなんなんだ、あの男は……!」
想決は冷汗が止まらなかった。鎌で切られた部分が未だにむず痒い。
できるだけ腕の違和感を気にしないようにして走っていると、道中で特殊部隊の人間と遭遇した。
「ここにもいるのか……」
彼らは想決を見つけると集団で襲ってきた。
「邪魔だ!」
想決は部隊の人間を一人残らず斬り捨て、再び廊下を走っていった。
◇(姜椰の視点)
騎渦が召喚した化け物と戦って殉職したであろう隊員たちの死体がそこら辺にごろごろ転がっていた。
壁には勢いよく血飛沫が付着していて、戦闘の激しさを物語っている。
「誰かしら生きててもおかしくはないんだが、死体が多すぎて探し切れない……」
廊下の照明は血で覆われているか割られているかの二択だから足元もろくに見えやしない。
俺は仲間の死体を踏まないようにするだけで神経をかなり使っていた。
「後で死体処理に来た人が気づくだろうし、適当に見回っとけばいいだろ」
セイエイが口を挟む。
「一応神楽坂さんに言われたんだ。だから最後までやった方が……誰だ⁉」
俺は咄嗟に振り返った。
見えない。でも誰かがものすごい速さで近づいてくる。
しかも人間の足音じゃない。とてつもない瘴気を漂わせる悪の根源のような何かだ。
「セイエイ、構えろ。敵が来る」
足音の方向が定まってきた。
「そこの角……もうすぐだ。足音が大きくなってきてる……!」
(来たッ!)
現れたのは宿敵__相田想決だった。
ひどく息を切らして俺の目の前に姿を見せた。
「神村姜椰……君までここに来ていたのか……!」
「お前がいると聞いたからな。この前の爆発の礼をしに来た」
想決は両手の拳を握りしめ、体をプルプル震わせていた。
「君だけは例外だ。この場で絶対に死んでもらう!」
(加速・最高倍率ッ!)
一足先に能力を発動した俺の視界には、すごい形相で突っ込んで来る想決の姿があった。
(最高倍率なのに速いままだと……⁉入学当初は俺の方が遥かに速かったはずなのに、いつの間にコイツはこんな成長したんだ……!)
想決の刃を電撃剣で防ぎ、一旦距離を取った。
(もう気分が悪くなってきた……先日のARLでの戦闘で適性が上がったおかげで『加速』を使える時間も倍率も改善するようにはなったが、最高倍率ではやはり体への負荷が大きすぎる……!)
「またその訳のわからない能力か!それで僕の動きを追えるのか⁉」
想決が足を踏み込むと同時に俺も想決へ突撃した。
目にも留まらない斬撃が飛び交う。
互いに攻撃を躱し流し、隙を見つけては斬りつけてはその攻撃を受け流した。
(体が……痺れて……)
限界を迎えた姜椰の体は『加速』が解除されてしまった。
「もう終わりか……」
想決は姜椰の胴体に強烈な斬撃を食らわせた。
姜椰は千鳥足になりながらも、倒れないように壁に手をつきながら後退した。
「俺に……斬撃は効かない……」
姜椰のローブにはセイエイが適応している。つまりそれに守られている姜椰には顔への攻撃か、衝撃によるダメージしか入らないのだ。
現に姜椰のローブには傷一つついておらず、当然出血もしていなかった。
想決は不審に思った。
自分の右腕に何か違和感を感じたようで、終始何かを考えるようなポーズを取っていた。
「この感触……ローブかな。たった今の一瞬で僕のヴァリァスが吸収された……」
「ヴァリァス……?お前、体にそんなもの入れたのか……?」
姜椰は立つのすら限界だった。
間もなくして膝から崩れ落ち、剣も手から離れてしまった。
「まあいいか。このままとどめだけ刺して帰るとするよ」
想決はゆっくりと姜椰のもとまで歩み寄り、右腕を振り上げた。
そして勢いよく振り下ろしたその時、床から太い結晶が、姜椰のローブからは無数の結晶が出てきた。
太い結晶は想決の刃を防ぎ、ローブから出てきた結晶が想決の体に穴を開けた。
「ぐはッ⁉」
想決は後ずさり、傷口を押さえて血が流れないようにして即座に体を再生させた。
「戦っているのは……俺だけじゃない。お前の見えないところで……皆が戦ってる……」
姜椰はふらふらしながらゆっくりと立ち上がった。
「想決……お前が何を企んでるかは知らん。だが、自分勝手な理由で関係無い人間まで殺すなら……俺がお前を殺してやる」
姜椰は電撃剣を構えた。その刃先はしっかりと想決に向けられていた。
「調子に乗るなよ……!偶然生き永らえただけのゴキブリが__」
「__僕の邪魔をするなッ!!!!」
想決は右腕を元に戻して怒りのままに拳を振り下ろした。
姜椰はまともに避けられず、頭から大量に血を流して倒れた。
「はぁ……はぁ……くっ!」
怒り狂った想決は姜椰を蹴っ飛ばし、柱二本を粉砕した。
すさまじい破壊音とともに大量の土埃が舞う。
想決が姜椰にとどめを刺そうと足を踏み込んだ時、神楽坂の鎌が想決の足を斬った。
いきなり足を斬られてバランスを崩した想決は身をよじって振り返った。
そこには床に刺さった鎌を引き抜く神楽坂の姿があった。
「バ、バカな!あれをもう倒したのか⁉あれは三回殺さないと死なない化け物なのに……!」
「実に軽い命だった。あの程度で私の足止めは無理だ」
「チッ、あと少しだったというのに……!」
想決は死に物狂いでその場から去った。神楽坂は何を思ったのか、想決を追おうとはしなかった。
「総員、射撃準備ィィィィーーーーーーーッ!!!」
想決が建物の外に出た時、誰かの号令と同時に無数の銃口が彼に向けられた。
「神楽坂が僕を逃がしたのはこれが理由だったのか……ッ!!」
正面突破はできないと判断した想決は、覚悟を決めた。
「テェェェェェェーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
発射の号令と同時に大量の弾丸が想決に向かって撃たれた。
しかし想決は冷静に弾丸を見極め、自分に当たりそうな弾だけを弾いた。
「次は僕の番だ……」
次の瞬間、想決の正面にいた隊員数名の首が飛んだ。
そして宙に舞った首が地に落ちるより早く敷地の外まで移動した。
すると門の外に待機していた隊員たちが想決に襲い掛かった。
「このッ!」
隊員の一人が剣を振り下ろすも想決には掠りもしない。
「ちょうどいい。君で試させてもらうよ……」
想決は襲い掛かって来る隊員たちに手を翳した。
「空間侵食___ッ!」
想決の翳した手から真っ黒な光が放たれる。
光は懐中電灯のような広がりを見せ、その光を浴びた隊員たちはもれなくその場で血を吹いて死亡した。
それを見ていた他の隊員は恐ろしい技に腰が引けて手も足も出せなかった。
「連発は厳しいか……でも攻撃力は申し分無いかな。あとはこれを……」
想決は懐に忍ばせておいたポケットヴァリァスを数個使用した。
たちまち化け物がワラワラと出てくる。
「全員、退避しろ!ヤツからできるだけ距離を置くんだッ!」
指揮官が全員に指示を出すと、恐怖が剥き出しになった隊員たちは必死に距離を取った。
「……賢明な指揮官だね。さぞ頭が切れるのかな」
想決はすぐさま姿を眩ましてしまった。
◇
「……?」
頭の激痛とその傷口を撫でる風で目を覚ました。
まずい。ものすごく吐き気がする。
体はピクリとも動かせない。かろうじて右手の指を微かに動かせるかどうかだ。
(ここは……まだ建物内……想決に殴られて……?)
記憶も無い。廊下を歩いていたところまでは思い出せるのに。
(今頬を伝ったのは涙……?それとも血か……?)
朦朧とする意識の中で目を閉じる。
すると頬を伝う液体が加速して顎まで到達した。
(涙か……これだけの痛みなら普通は泣くよな……。アニメのキャラとかは腹を貫通されても腕を失っても下半身を切り落とされても泣かないけど……)
姜椰は大広間の天井にある照明をぼんやり見つめた。
(電卓……飲みかけの缶コーラ……割れた試験管……)
とうとう頭がイカれてきたみたいだ。いらない思考ばかりが頭を埋め尽くしてくる。
懐かしい感覚だった。
小学生の頃にお腹を壊すとどうしようもない苦しさで自分でもわけわからないことが絶え間なく脳内に浮かんでくるような……潜在意識が自我を持ち始めたかのような現象___。
(全然気分が良くならない……死ぬのかな……。まだ申奏と付き合って二週間くらいしか経ってないのに……あの人を幸せにしてないのに……)
姜椰はゆっくりと膝をついて正座の体勢を取った。
(動かないと……)
そのまま体を前に倒し、四つん這いになってゆっくりと出口に向かった。
辛すぎて目すらも開けてられない。でも開けないと死体とぶつかる。さっきから誰のかもわからない血が手についてる。
今の俺には血だまりという大海を避けて移動する力は残ってなかった。
「姜椰……!!!」
自分の名前を呼ばれた気がして顔を上げると、そこには神楽坂さんが立っていた。
「大丈夫⁉あ……出血が……!ちょっと待ってて!もう動かないで!誰か、こっちに来て!今にも死にそうなの!誰かッ!」
(神楽坂さんって……こんなキャラだったっけ……もっと冷たい感じの人じゃなかったか……?)
すると神楽坂さんの像が陽炎のように歪み、その中から申奏の姿が現れた。
「し……そう……?」
(呂律も回らない……手も震えてきた……もう限界……)
「あぁ……」
俺は再び意識を失い、血だまりにぶっ倒れた。
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