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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第九十七話 「覚悟と無念」

姜椰と黄月は大広間にやってきた。

「……ッ⁉」

「これは……」

二人は開いた口が塞がらなかった。


「ぜっ、全員死んでる……⁉」

大広間にはものすごい戦闘の痕跡が残っていた。

欠損状態の遺体がどこにでも転がっていて、壁に剣ごと突き刺されている人もいた。


首をもがれた人や四肢を切り落とされた人もいる。

死に方は様々だったが全てに共通して言えるのは、「惨い」死に方ということ。

「これも……想決がやったのか……⁉」

「玄関で倒れていた二人と同じ切り傷です。おそらく同一人物……即ち想決が犯人かと」


俺はアイツの覚悟の深さを知った。

もうここまでやってしまうと今まで通りの生活は送れず、その一生を誰かに追われながら費やさなければならない。

(いや、俺もアイツに命を狙われてるんだ。変な同情は捨てろ)


「おや……あれはもしや……」

黄月は小走りで壁まで移動した。

「慈串さん……!やはりあなたでしたか」


すると姜椰も後ろからやって来た。

「知り合いですか?」

「はい。彼は私の友人で、名前を慈串帆誉(いつくしほまれ)。楓さんの兄君です」

姜椰は気を失っている帆誉の顔を見た。

「楓の兄……もしかしてこの人も想決にやられたんですか」

「おそらく」


黄月は帆誉の手当てをし始めた。

その間に俺は他に生存者がいないか探し回った。


改めて見ても死に方が惨い。こんな死に方はアニメとかでしか見たことが無かった。

まさかこの目で仲間の死を目の当たりにする日が来るとは。

「うっ……ああ……」

「目覚めましたか。無事で何よりです」


「ん……?」

俺が振り返ると慈串楓の兄が目を覚ましていた。ここからでも二人の会話は難なく聞こえる。

会って話すのも気まずいから気づかないフリしてやりすごそう。


「想決は……アイツは倒せたか?」

「彼はもういません。この場にいた者全員を殺してどこかへ行ったようです」

すると帆誉はため息をついた。

「止められなかったか……時間稼ぎにすらなれなかった……」

失意の念に駆られる帆誉を黄月は慰めた。

「あなたは十分やりましたよ。自分で自分を責めてはいけません」

「誰も責めてないんだが……」

「ッ……オ、オホン!慈串殿、これまでの経緯を教えてくれませんか」


 ◇(帆誉の回想……)


俺は誰よりも早く現場に到着した。


部隊を率いていた俺は化け物の集団に突撃して被害を最小限に抑え込もうと動いた。

すでにあちこちで市民が殺されていたが、せめて生き残っている者だけでも助けようと俺は一人で縦横無尽に暴れ回った。

すぐに応援も参戦して化け物の大半を掃討できた。


「俺は敷地内にいる化け物を狩ってくる。お前らはここで市民の安全を守れ。もし外の化け物を倒し終えたのなら、決して俺を追うな。入り口やその周辺を警戒して仲間以外の者が侵入して来ないようにしろ」

「はっ!」

俺は部下をその場に置いて敷地に足を踏み込んだ。


すでに化け物はうじゃうじゃ湧いていた。

「ヴァリァスが無い……それなのに何故化け物がこんな局所的に生まれたんだ……⁉」

「助太刀するぞ!」

後ろから他の部隊が駆けつけてきた。

「感謝する」


帆誉が近くに化け物を斬り倒すと同時に集約所の敷地内で乱戦が幕を開けた。

「これでは中に入れない……!」

化け物の数に苦戦していると、門の方から化け物が薙ぎ飛ばされていくのが見えた。

俺は目を疑った。


誰も彼もが宙に投げ出され、血飛沫を吹く。

その内俺の足元に転がった化け物はすでに死に絶えており、目の前で塵と化してしまった。

(誰だ……?上層部もとんでもない豪傑をよこしたみたいだが……)


化け物が片っ端からぶっ飛ばされていく。

ここからでは化け物に遮られてしまって、誰がいるのかよく見えない。


動く寸前に見えたのは紫の髪だった。それだけで帆誉はピンとくるものがあった。

(ま、まさかそこにいるのは……!)


やがて化け物は突入した頃の九割が倒され、残る化け物もかなり疲弊しているように見えた。

「これだけの数を一瞬で……」

すると向こうから誰かが歩いてきた。

持っている大鎌には首が無くなった化け物の体が刺さっていた。


近くで見るとその男__神楽坂紫影は帆誉の前で止まり、大鎌を一振りして化け物の体を抜いた。

化け物の体は血をまき散らしながら地面を転がった。

「残りは任せる」

彼はそれだけ言い残し、建物内へと行ってしまった。

そのあと残った仲間と協力して敷地内の化け物を全て倒し、俺は建物内に入った。


侵入者を探していると、誰かの声と戦闘の物音が聞こえてきた。

「大広間の方か……」

その現場が着いた時にはすでに隊長がやられており、その部下までもが今にも殺されそうなほど追い詰められていた。俺はそこに首を突っ込んで想決の攻撃を受け止め、部下たちだけでも逃がした。


結論から言うなら、アイツはもう人間じゃない。

斬っても斬っても傷がすぐに再生する。しかも繰り出される攻撃は洗練されていて、一瞬の隙も無い。

俺があれだけ本気で戦っていたのに、向こうは「疲れ」の「つ」の字も見せていなかった。


俺は想決に敗れ、壁まで吹っ飛ばされた。

しかし俺は負けも覚悟で戦っていた。できるだけアイツを自分に引きつけ、応援が十分に到着するための時間を稼ぐために。

応援はすぐさま想決と戦闘になり、互角の戦いが繰り広げられた。


それならまだよかったんだ__。


現実は残酷だった。

俺が壁で気を失いかけている間に、目の前で味方が片っ端からやられていった。

誰も彼に傷一つつけられない。攻撃を避けることもできない。反応することすら出来てなかった。


阿鼻叫喚の中、ついに俺は気を失った。


 ◇


「結局……あれだけの人数がいても歯が立たなかった……。きっと俺が十人いても負けていただろう……」

言い終えると同時に帆誉は咳き込んだ。

苦しそうに顔を歪めながら荒く呼吸をした。

「とりあえずドーパミンの分泌を促進させておきます。これで少しは痛みが和らぐと思いますので」

黄月は帆誉の頭に触れた。

みるみる内に帆誉の顔は楽になり、「ふぅ……」と一息ついた。


「ありがとう、かなり楽になった。それにしても便利な装置だな」

「私の手には人間の脳にはたらきかける能力が備わっていますので。眠気を誘発したり、痛みを軽減させたり、気分を落ち着かせたりと何でもできます」


(黄月さんが帆誉さんの頭に触れていたのはそういう理屈だったのか。痛みの軽減……俺もいつか世話になる日が来そうだ)


それからしばらくして黄月は帆誉の手当てを終えた。

「ここは他のSランク隊員に任せましょう。私はこのまま制御室まで向かい、自分に細工されないように致しますので」

「俺は何をすれば……」


すると黄月は壁に向かってスクリーンを映し出した。

「これはこの施設内の防犯カメラです。ここに騎渦が映っているのが見えますか?」

「……本当だ。確かに見えます」

「想決はおそらく制御室までやって来るでしょう。ですから私はそこで待ち構えて彼と戦います。その間にあなたは騎渦を倒しに行ってください」


「そこにいる人も連れて___」

「?」

俺が振り返るとSランク二番隊隊長の神楽坂紫影が立っていた。


「そういえば二人には面識がありませんでしたね。こちらは神楽坂紫影殿です」

「どうも……」

挨拶するも神楽坂は無言のまま俺を見つめるだけだった。

その冷たい目に俺はどう映っているのだろうか。


「紫影殿、こちらが神村姜椰です。最後に会ったのは四月の招集の時ではありませんでしたか?」

「……そうだな」

俺は初めて彼の声を聞いた。

低く、重く、深く。そして感情が全く読み取れない声だ。


彼は左手に大鎌を持っている。

死神を想起させるその姿に思わず背筋が震え、鳥肌が立った。


「挨拶は苦手だ。行くなら早く案内しろ」

「は、はい……」

俺と神楽坂さんは騎渦がいる所へ向かった。


騎渦のいるところまで距離はあまり無いが、彼との間に流れる沈黙の空気で時間が長く感じられた。

その気まずい空気に耐えながら進んでいるとついに騎渦と出会った。

彼は俺達を見ると少し面食らっているようだった。

「なんでお前がここに……しかも仲間まで連れて来たのか」

「騎渦、お前こそ何故こんなところにいる。想決に唆されたのか?」

「半分正解だ。俺はここにあるデータをもらって今後の作品に活かしたいと思ってここに来た。だがその前に……ARLでの恨みを晴らさなくてはな……!!!」


騎渦は化け物を出し始める。

出るなり皆決まって奇声(鳴き声)を上げた。

「ウアァ……!」

「アジャァ!」

「ピェェェェェ!!!!!!」

彼らは大きいものから小柄なものまで多種多様。弱点克服のためか頭部が無い化け物もいる。デフォでその格好なんだろうか。


「来るぞ」

神楽坂が大鎌を構える。

俺も電撃剣を抜き、どの化け物から襲い掛かろうか狙いを定めた。


騎渦がこちらを睨む。

両目が真っ赤になっており、歯茎からは血が出ていた。

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