第九十六話 「謝恩巡転」
想決が施設の大広間を歩いていると、応援に駆けつけてきた部隊に遭遇した。
(騎渦に対応させたいところだけど、彼は今この建物内に化け物を召喚して回ってる最中だから……)
彼らは想決を見るや否やすぐに防護盾を構えた。
「相田想決!そこで止まれ!」
隊長らしき大男が叫ぶ。
しかし想決はそんな言葉には耳を傾けず、右腕を手の形に戻して陣形へ突撃した。
しっかりと握りしめた拳で真正面から防護盾を殴ったが、陣形の前方で構えていた三人の隊員が手助けして衝撃を受け止めた。
「正当防衛だ!お前はこの場で仕留めるッ!」
大男が防護盾の後ろから飛び上がって巨大な棍棒を振り下ろす。
想決は避けるわけでもなく攻撃をもろに食らった。
頭を潰され、胴体が変形し、そのまま地面に倒れた。その呆気なさに一同は困惑した。
「妙だな。聞いていた話ではコイツは強いとのことだったが……」
隊長は想決の死体を覗き込んだ。
「やはり攻撃は当たってる。とりあえず……これでよかったのか?」
「すごいですね~。流石は隊長です!」
部下が隊長を持て囃した。仏頂面の隊長も満更ではなさそうだ。
「にしても、いきなり盾を殴られた時はびっくりしましたよ。あまりの衝撃で体が浮きそうでした」
「俺らが補佐してやっとだったからな!」
部下たちの緊張は解け、陣形も解除された。
「全員、怪我はないか。どうやらもう一人侵入者がいるらしい。くれぐれも気を抜かないように」
「それはどういう意味かな」
「⁉」
一同の背筋が凍りついた。
「まだ生きてたのか!」
想決は天井に立ち、部隊を見下ろしていた。
「そこの大男……そう君。そんな棍棒を振り回してるのに、威力も速さも足りてないよ。試しに食らってみたのに、こんなすぐ再生できるようじゃ……化け物相手にも戦えないよ?」
想決は瞬時に大男の懐まで間合いを詰めた。
しかし、別に攻撃するわけでもなくただ大男の顔を見上げていただけだった。
「ほら、来ないの?そんなに僕が怖いか?」
それが大男にとって癪に障ったのか、持っていた棍棒で想決を攻撃した。
「もう手加減しないよ」
想決は棍棒を叩き切り、その勢いで大男の胴を真っ二つにした。
「次は……君らの番だよ。あの世でみんな仲良く笑ってな……」
「ひっ!」
想決が勢いよく斬りかかる。
部下たちはまったく動けず目を瞑った。
死を覚悟していたのに全然刃が来ない。何かおかしいと思っておそるおそる目を開けた。
「誰……君いたっけ」
想決は急に目の前に現れた人物に少し驚いていた。
部下たちの前には、剣を握って想決の矛と対峙している青年が立っていた。
「ここは俺がやる。お前らはさっさと出口まで急げ」
「い、慈串さん!あ、ありがとうございます!どうかお気をつけて!」
部下たちは走って逃げていった。
「慈串……楓の兄……帆誉か。だからって手加減はしないよ」
帆誉は想決を睨みながら聞いた。
「お前……なぜここに来た。ここは立ち入り禁止だと聞いてなかったのか?」
「君には関係の無いことだよ。早くどいて」
邪魔者の相手でストレスが溜まってきた想決は、帆誉から距離を取った。
「これ以上は時間をかけたくないんだけど……」
「フン、なら俺を避けるべきだったな」
帆誉は剣を構え直し、想決に斬りかかった。
「お前の話は妹から聞いてる。真面目に戦っていたのにここまで堕ちるとはな」
二人は互角に斬り合い、周囲のものまで容赦なく切り刻んでいった。
帆誉は咄嗟に柱の後ろに隠れた。
「消えた?違うか……そこから気配が……」
想決は柱を斬った。
「チッ……」
案の定、帆誉が斬られた柱の瓦礫の隙間から姿を現した。
そこからずっと接戦が繰り広げられた。目にも留まらない斬撃がお互いに小さな傷を作っていく。
「Aランクとは思えない実力だ。ここまで僕を邪魔できるなんてね」
「っ……」
想決の傷はすぐに治ってしまう。
いくら帆誉が斬ってもまるでダメージにならず、次第に彼の体には疲れが見え始めた。
「さっきから攻撃のスピードが落ちてるよ。君ももう終わりかな?」
想決は帆誉から剣を奪って彼の腹に突き刺し、それを足で押して蹴っ飛ばした。
「うっ……終わり……だと……?それはどうかな……」
「……ッ!」
想決はゆっくりと振り返った。
「応援……しかもこれだけの数……」
血を吐きながらも、帆誉は腹の底から叫んだ。
「絶対に焦るなッ!必ず冷静に対処しろ、わかったか!」
大広間にいる応援は一階だけでなく、二階にも十何人かいた。
彼らは今にもあそこから飛び降りてきそうだ。
「……これだけ来られたってことは、すでに外の化け物は全滅に近いはず。つまり急いでも何も変わらないということか」
想決は左腕も矛の刃に変形させた。
「全員殺す___」
◇
時は姜椰が集約所内に入ったところまで遡る__。
「黄月さん、そこに人が倒れてます」
俺は歩いてその人のところに行くと、すでに息絶えていた。
「……」
もう死体は見慣れた。
「すでに亡くなってます。しかし殺されてからまだそこまで時間は経っていないようです。侵入者もこの近くにいるか、或いは___」
黄月は近くの柱に目を向けた。
「___この建物内にも化け物がいるか……」
俺が剣に手をかけた時、柱の影から爬虫類の足みたいなものが出てきた。
「イグアナ……みたいですね」
「それはイグアナに失礼ですよ、神村殿」
イグアナがのそのそと柱の影から完全に出た。
確かにイグアナにしては足長な気がする。
グォォォォォンンンンンンンン!!!!!!!!!
「うっ⁉」
化け物が上げるとてつもない鳴き声がズンズンと体に響く。
心臓の辺りが揺れてる。眉間の辺りにも振動が伝わってくる。
「気分が……」
「おそらく人間の神経に作用する鳴き声を発する能力なのでしょう。危険ですから私がやります」
機械である黄月には鳴き声による作用が無いため、平気な顔をしてイグアナに襲い掛かった。
「フッ!」
黄月は右腕から剣を出してイグアナの頭を斬った。
「あくまでも時間稼ぎ用の化け物のようです。先日、ARLに潜入した際に出会ったあの人の仕業かと」
「騎渦……アイツも想決と一緒にいるんですか」
「あなたも見たでしょう。あの時の彼を……」
俺の頭の中には騎渦が怒り狂いながら化け物を引き連れているところが浮かんできた。
「ここは本来なら一般人は立ち入ることができない場所です。ですのでもし想決や騎渦を見つけた際には容赦なく殺傷してください。いいですね?」
「わ、わかりました……」
(騎渦はあの日、迷子になっている俺達を案内してくれた。本来なら悪いヤツではないはずなのに……)
この時、俺の心には変な迷いが生じていたのかもしれない。
腰につけた鞘に剣をしまいたかったが、いつもと違って上手く入らなかったのだ。
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