第九話 「やめてください、死んでしまいます。」
エレベーターで地下に着いた時、俺は預けていた剣を返された。この時、俺は通された部屋を見て非常に嫌な予感がした。真っ白であまりにも広い部屋。完全に戦いましょうよ、と言わんばかりの雰囲気が漂っていた。そして階段を降り、部屋の中央を見るとさっき泣き叫んで出ていった時雨の姿があった。
「待ってたぞ、私の初めてを奪った不届き者め!」
「神村~、未成年は犯罪だぞ~?」
今川が俺の頭を軽く殴った。
「アイツから抱きついてきたんですよ……?」
俺たちは部屋の真ん中に集まり、各々武器を手に取った。
「これからチーム戦でもするんですか?」
「神村君、悪く思わないでほしい。これも大切な事なんだ」
相田パパが優しく俺の肩に手を置いた。
「もしかして俺……殺されるんですか?」
時雨が割って入って来た。
「違うよ。これから新人の歓迎会をするの」
「武器を使うのか?どう考えても戦うとしか思えないが」
みんな剣の刃の部分を見つめたり、拳銃に弾込めしたりと戦う気満々である。
すると準備が終わったのかぞろぞろと幹部たちが列に並び始めた。意気揚々と今川が言い放った。
「それじゃ、僕らの総攻撃から十秒逃げ切り、ボールを守れ。あるいは誰かから武器を奪え」
「は?」
「大丈夫だ。ハンデとして利き手と逆の手しか使わないし、武器も片手しか使わないから」
無理に決まってんだろ。
「じゃ、これ」
「あ、どうも……」
ソロSランクの臣桜申奏が拳銃片手にボールを渡した。さっき拳銃を投げ捨ててたし、この人も本番では二丁拳銃を使うんだろう。
「それを奪われたらあなたの負けね」
「わかりました……」
(なんで俺がこんな目に……)
そして俺は剣を抜きボールを左手に握った。始まりのアナウンスが部屋に鳴り響いた。誰が来るか構えていると全員出口に向かって歩いていった。
(あれ、ボールは?)
左手にあったはずのボールが消えていた。
「神村、ここだよ」
後ろにはボールを取った今川が笑っていた。何が起こったのか理解できなかった俺は硬直した。
「ダメだよ、ボケっとしてたら。ヴァリァスでは一瞬の隙が命取りとなるんだからさ」
そう言うと、ボールと返してくれた。俺はボールを取られてから気づくまで音一つしなかった……というかそれに気づけなかった自分を疑った。彼は俺がボケっとしていたと言っていたが俺は全神経を張り巡らせて警戒していた。
「速すぎる……発動さえも間に合わなかった……」
これでわかったのが「加速」の発動にはごく僅かに時間を要するということと、Sランクの隊長は俺とは別次元の人たちということだった。
去っていく彼らの背中はなぜか大きく見えた。俺が反応すらできなかった事実を目の当たりにして歴戦の猛者たちの風格を思い知ったのだ。ここに来るまで俺はなろう系主人公みたいに辛うじて勝てるだろうなんて甘く考えていたが、Sランクの名は伊達じゃなかった。
「無理ゲー……」
「ボールちょうだい。」
見上げると申奏が手を差し伸べていた。天井から発せられる光が彼女の影を作る。そのせいで余計に彼女が遠い存在に見えた。俺はボールを返し、立ち上がった。
「実はね、今川さんは総隊長の次に隊の中で最速を誇るんだよ。」
「それって……」
「そう、私たちはあれより遥かに遅くしか動けない。みんながみんな優れたステータスをしているわけじゃないんだよ。」
「なるほど……でも俺一人相手にSランク十一人で襲い掛かるのはやり過ぎじゃない?」
彼女の顔は部屋に入ったときからフードをかぶっているせいで全くわからなかった。でもその声はどこかで聞いたことがあるような声だった。さっき反応できなかった自分の手を疑った俺だったが、耳は信用できる。
「そうだね……。それなら私一人なら勝てそう?」
「厳しいことに変わりはなさそう。」
「大丈夫だよ、この銃は空砲しか入ってないから怪我する心配も無い。どうする?やる?」
「いいよ、勝敗はどうやって決める?」
俺はその誘いに乗った。もちろん、さっきと同じようにはさせない。
「私から三秒逃げ切る、でどうかな?頭に突きつけられるか、弾が当たったらアウト。」
「わかった。」
俺と彼女は少しだけ距離を置いて準備をした。それを見た他のSランク隊長たちが二階からその様子を見物し始めた。今川は二階の手すりに寄っかかって、相田パパ含む十一人で話していた。
相田パパが言った。
「DランクとSランクの勝負なんて中々見られないから少し楽しみだ。」
「神村の真の実力がこれでわかるんじゃないですか?さっきは僕が本気出したがために試合が一瞬で終わってしまいましたけど。」
「結果は目に見えているんだがな……」
まもなく衝突音が起きて勝敗は決まった。
俺は「加速」を発動させて銃弾を避けようとしたが、時速千キロで発射される弾丸が半分の速さになったところで状況は何も変わらなかった。俺は一瞬だけ最高倍率に変更してその場を蹴った。
銃弾からは逃げられたものの、飛んでいる途中で能力が解除され勢い余って壁に激突したのだった。
「はぁ……うっ……」
視界の端の方が真っ黒になり、平衡感覚がおかしくなってしまった。なぜか体が左に持ってかれてしまう。体には全然力が入らないし、壁にぶつかったせいで骨が折れたんじゃないかと思えるくらい、背中が痛かった。俺は爺さんみたいな姿勢でよろよろと立ち上がった。
「大丈夫かね、彼。」
「神村ってあんな速く動けたんですね……。」
相田パパと今川は俺を心配そうに見ていた。
「姜椰君、大丈夫?」
「少し調子に乗り過ぎた……。」
「手、貸そうか?」
「気合でどうにかする……痛っ!」
こうして俺は年齢15にしてお爺さんのような姿勢で帰ったのだった。一応、本部の車で家まで送ってくれたから腰に負担はかからなかった。
「アイツら……頭おかしすぎる。」
その夜、俺は腰に電撃剣を巻いて寝た。寝心地?悪いに決まってんだろ。
朝起きて真っ先に立ち上がると、腰の痛みは消えていた。面倒だから病院には行かず休日を過ごした。
そして休み明け、俺は学校に行き教室に入るといつもは明るく話しているクラスメイト達が教室の後ろの方に集まっていた。しかもその集まり方というのが不気味で、相田を避けるような形だったのだ。
俺以外の人間は誰も相田の視界に入ってない。そんな状況だった。
(何があったんだ……しかも全員俺に対してモールス信号みたいな目をしてるし……。)
すると相田は席を立った。その時彼の椅子が、後ろの席の子の机と当たるとクラス中がびくっとした。
俺の中で増幅していく違和感。今にも相田がブチ切れて武器を振りかざしてきてもおかしくないぐらい緊迫していた。俺はこっそり自分の席に着き、時間が来るのを待った。担任が来れば相田も殺気を引っ込めてくれるだろうと思っていたのだ。
そして時間はやってきてチャイムが鳴り響いた。程なくして担任が暗い表情で教室に入って来た。
すると何か突っかかったような声で話し始めた。
「ええ……おはようございます。時間もありませんので手短にお話いたします」
次の言葉に場にいた全員が驚いた。
「一昨日、我がクラスの佐宮くんが何者かに刺されて亡くなりました」
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