歓迎会と夏依
更新がギリギリになりましたお楽しみください
(大学が思ったより忙しいので以前と同じ投稿頻度になりそうです)
音虎は風呂から上がり再び食堂へ向かうその途中に聡太が音虎を読んでいた。
「白風さん、君に客人がきてるよ。名前は確か橋川…」
「宗ちゃん!?すぐ行く!どこにいる!?」
「あ、裏口の方の応接室に…」
「ありがとう!」
音虎は聡太の言葉を全て聞かずに応接室へ走って行く、右へ曲がり左へ曲がり応接室へ突っ走る、応接室のドアが見えたらもう止まらない勢い良くドアを開け中にいる宗子に飛びかかる。宗子はヴッと鈍い声を出すが音虎はそんなこと構いやしない、久々に飼い主にあった子猫のように頭を擦り付けている。
「宗ちゃん久しぶりー!!」
「久しぶりって1日だよ。」
「それでもー!」
「まったく…」
その時、宗子の鼻にふわりと石鹸の香りが漂ってくる。宗子が音虎を見ると頭が濡れている、ちょうど風呂上がりだろうとわかった。
「音虎、またお風呂上がりに髪ちゃんと乾かさなかったでしょ。」
「あっやばっ。」
「まったく…」
宗子はそう言うとカバンからタオルを取り出し音虎の頭をワシャワシャと拭いていく。
「忘れ物のタオル届けに来たから良かったけどちゃんと乾かすんだよ。」
「わかってるよぅ。」
「どう?守護者生活は?」
「実感ないねー、学生じゃないって感じはするんだけどこの組織の代表って感じがしない。」
「まー1日目だもんね。」
「でもね!でもね!なんか凄いことやったみたいなんだ!!」
「へー。」
「信じてないでしょー!」
音虎はそう言って宗子の腹に正拳突きをお見舞いする。またしても宗子はヴっと鈍い声をだす、音虎は信じてもらえず少しむくれている。
「ごめんごめん、どんな事やったの?」
「ふっふーそれはねー、魔素の使い方を変えると方術の性質が変わるってことだよー。」
「ごめん、ひとっつもわかんない。」
「魔素っていうのは…その…。」
10秒ほどだろうか、音虎は説明しようと頭を捻り宗子はそれを微笑ましい顔で見つめる。音虎はゆっくりと口を開く。
「わかんないや。」
「わかんないんかいっ!」
「えへへ〜説明難しいや。」
「もぉ〜もやもやするじゃん。」
「ごめんね、次来た時に説明できるようになっとくからさ。」
「じゃあ明日来よっかなー?」
「えー!キツイって!」
「宿題だと思えば楽でしょ?」
「じゃあ手伝って。」
「無茶言わないでよ。」
「ですわなー。」
ふと扉からコンコンとノックの音がし、晴が入ってきた。
「宗子ちゃんいらっしゃい、早速来たわね。」
「音虎の忘れ物があったんで。どうです?音虎は馴染めてますか?」
「えぇ、ちゃんと馴染んでるわよ。」
「良かったです。」
「保護者みたいなこと聞くわね。」
「音虎の保護者です。」
「音虎ちゃんの方が誕生日先なのにねぇ。」
「不思議ですねー。」
音虎はむすっとしながら二人を睨む。
「音虎ちゃんはご不満のようね。」
「子供っぽいって言われるの嫌がりますからねぇ。」
それを聞いた音虎は宗子に向かって怒りだす。
「それをやめろー!いいの!?手ぇ出るよ!?私今宗ちゃんよりずっと強いんだよ!?」
「なっ!それはずるでしょー!」
「はいはい喧嘩しないの、仲良くしなさい。」
「「仲はいいです!!」」
あまりにも息ぴったりのその発言に晴は思わず笑いそうになった、口を押さえて堪えるが堪えきれずプッと吹き出してしまった。それを聞いて二人はなぜ笑われたか分からないという顔をし、お互い顔を見合わせて肩をすくめた。晴は一呼吸おいて話始める。
「音虎ちゃんの歓迎会の用意ができたわ、そろそろ移動しましょうか。」
「はーい。」
音虎はチラリと宗子の方を向くと宗子はニコリと微笑む。
「気にしなくていいよ、行って来な。」
「わかった…」
晴が申し訳なさそな顔をして宗子に話す。
「ごめんなさいね、用心棒じゃないと教えられない事も話さなきゃいけないから。また今度一緒にご飯食べましょ。」
「わかりました、楽しみにしてますよ。」
「えぇ、とびきり美味しいもの用意しとくわ。」
そう言って晴と音虎は部屋を出て歓迎会へ向かう、二人は食堂を通り過ぎ奥の宴会場に入る。そこは教室が2つくっついたほどの大きさをしており部屋の中心の大きな楕円形のテーブルの上には豪勢な料理が並んでいた。部屋には40人ほどの人が既に席に着いており音虎が最後の一人だった。音虎が席に着くと晴が何か司会のようなことを始めたが音虎は緊張のあまりほとんど聞き取れていなかった、かろうじて一番最後の「新守護者の自己紹介です。」だけ聞こえた。晴はニコリと微笑み音虎にマイクを渡す、それを受け取る時晴はそっと音虎に耳打ちする。
「そんなに気負わなくていいわよ、クラスの自己紹介と同じ感じでやればいいから。」
音虎はマイクを手に取り息を吸い話し出す。
「白風音虎、15歳です。好きな食べ物はしゃかにゃ。この前守護者になったばかりで何もわかりませんがよろしくお願いしましゅ!」
盛大に噛んでしまった、音虎の自己紹介中にも俊助や双介は口を押さえて笑っていた。終始無表情を貫いていた泰西も最後の噛みで吹き出してしまい、それを皮切りにみんな笑い出した。
「緊張しすぎだぜ音虎ちゃん。」
「みんなもう顔と名前覚えてんだから。」
赤面する音虎の肩を晴がポンと叩き慰める、皆の笑いが収まると晴が再び司会を始める。
「じゃあ再開するわよ。ひとまず皆も自己紹介してってちょうだい。」
俊助が自己紹介を始める。
「言わなくても分かると思うが、前守護者の皆川俊助だ。この中で一番強い、よろしく。」
それを聞いた泰西が俊助からマイクを奪い話す。
「この横にいるバカのお守り役の芝泰西だ。このバカは有る事無い事言うからあんま信用すんな。」
「なっテメェ好き勝手言いやがって。」
「なんだ?なんか間違ってたか?」
「何もかもだろうが、誰がバカだってぇ?」
「事実でしかねぇだろ、単細胞バカが。」
2人がいがみ合っている所に晴がツカツカと歩いて行き手に持っていたマイクで2人の頭を思いっきり叩いた。キーンというハウリング音が鳴り響く、音が止まった後晴が話出す。
「この2人の喧嘩始まったら私を呼んでちょうだい。」
その場にいた全員から自然に拍手が送られていた、晴は隣にいた聡太にマイクを渡す。
「晴の弟の白久保聡太です、サラリーマンとの兼業をしている為あまり協会にいませんがよろしくお願いします。」
「柳瀬双介、大学と兼業してます。」
「吉田雫〜広報担当でーす。」
そうして、用心棒達の自己紹介が進んで行く。雫は先程の二日酔いのだるさを見せない話し方だ、これが「プロ」と言う物なのだろうか。自己紹介が中盤に差し掛かった頃、大人達の中からひょこりと夏依が顔を覗かせる。どうやら夏依も用心棒なようだ、音虎が「へー」と呟いた時、音虎の周りに居て夏依のことが見えてなかったであろう用心棒がざわつく。皆口々に、「珍しい」「出不精の夏依が…」と呟いている。夏依は多少苛立った様子で話し始める。
「湯川夏依です、技術開発局局長をしています。」
音虎は夏依が話終わると夏依に向かって大きく手を振る、夏依は少しギョッとしたするがすぐに小さく手を振りかえして来た。これらの流れを見ていた他用心棒達は驚き、その後にホロリと涙を流す者や軽く拍手をする者、隣の用心棒と握手をする者など異様な行動を取る。音虎が戸惑っていると夏依がマイクを取る。
「友達できただけで大袈裟すぎ!」
その言葉の直後、夏依に皆が大きな拍手送る。音虎が唖然としていると夏依が再びマイクを取る。
「うるさい!場を弁えろ!主役は音虎!!」
その場にいるほとんどがハッとした表情をし、反省した顔をして静まる。夏依は疲れた表情をして椅子に座り、次の用心棒へマイクを渡す。そのまま自己紹介が進んで行き全員の自己紹介が終わった、すると晴がマイクを取り話し始める。
「はいっ、堅苦しいフェーズはおしまい。みんなで楽しくご飯といきましょ。」
皆、手元にあるグラスを持ち上げる。
「それじゃ、かんぱーい。」
「「「「かんぱーい!」」」」
皆、乾杯し思い思いの会話に花を咲かせる。その中で音虎は晴に夏依について尋ねる。
「夏依ちゃんが話してる時皆異様な反応してたけどあれどうしてですか?」
「親心ってやつよ。」
「親心ですか?」
「えぇ、夏依ちゃんは生まれた時から協会のみんなで育てて来たの。小さい頃から大人ばかりと関わって来たせいで学校で馴染めなくてね、いつも孤立しててなかなか友達ができなかったからみんな嬉しいのよ。」
「それじゃ夏依ちゃんにとっては晴さん達みんなが親なんですね。」
「そうね。」
「あの…聞いていいのか分かんないんですけど…血の繋がりのある人って…。」
「もう、死んでるわ。夏依ちゃんが5歳の頃に、怪威にやられてね…。」
「そうなんですね…ごめんなさい…。」
「いいのよ、気にしないで。」
音虎がふと視線を感じ、横へ目をやるとそこには夏依が立っていた。
「何人の話で辛気臭くなってんの…。」
「あっ夏依ちゃん。」
「良かったら話そうか…?私のお母さんのこと…?」
「いいの?」
「うん…昔のことだし…。」
「じゃあお願いしていい?」
「いいよ…私のお母さんは湯川真依、私の前の技術局局長だったの。みんなから慕われてたし腕も相当良かったの、新技術を見つけてそれを使って新しい武器を作ってたの。
魔素を特定の形に出力して仮想物質を作り出してそれを武器にするって言うやつなんだ。その技術を使って作られたお母さんの最高傑作が『紅鎌』、本人の魔素を鎌状に出力して本人の魔素の属性に合わせて追加効果を付与するっていうすごい武器なんだ。でも…怪威に殺された時に無くなっちゃって、データも何も残ってないんだ。だから、それをもう一回作って皆んなが使えるようにするのが私の夢なんだ。」
「お母さんのこと大好きなんだね。」
「え?」
「だって、お母さんの話の間だけいつもより明るい顔してたもん。」
「そう…?」
音虎は周りから視線を感じ、ふと周りを見ると自分たちを微笑ましい顔をで見つめる用心棒達が目に映る。音虎は(みんな親バカなんだなぁ)と思いながら夏依と話を続ける、そうして歓迎会は進んでゆく――
――歓迎会が終わり音虎は床につく、明日からは守護者としてつけなければならない知識を覚え戦闘知識をつけていく日々を過ごしてゆく。そして時間は流れ2週間後、音虎が初めて威界での任務に挑む日である。
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