雷玉
お待たせしました、ギリギリになってしまいすみません。楽しんでいってください。
用心棒協会
音虎は目を覚ますと見慣れない天井だった、一瞬の困惑の後、寮の天井であると思い出す。むくりとベットから起き上がる、眠たい目を擦っていると個室のドアが開く。そこにはすでに普段着に着替えた晴がいた。
「おはよ、音虎ちゃん。よく寝れた?」
「うん」
「よかった、朝ごはんの用意してるから食堂で待ってるわね。」
晴が出た後しばらくして音虎はベットから出る、部屋着からTシャツに着替え部屋から出ると部屋着のままの夏依と遭遇した。二人は食堂へ向かいながら話出す。
「おはよ、夏依ちゃん。」
「あ…おはよ。」
「昨日は大変だったねー。」
「あの人、自分の許容量気にせずに飲むから毎回大変なんだよ。」
「毎回ああなんだ…」
「あと、ずっと気になってたんだけど…」
「何?」
「そのTシャツ何?」
音虎が着ているTシャツには『猫fish』と言う文字と魚から猫の四肢が生えたキメラが描かれている。昨日の雫のTシャツよりも数段ダサいTシャツである。
「可愛いいでしょ〜。」
「そう…かな…?」
その時、二人はちょうど食堂に着いた。料理を机に並べている晴が二人を出迎える。机の上にはご飯と味噌汁、そしてハムエッグが並べられていた。
「晴姉おはよー。」
「おはよ、ご飯できてるから先食べてて良いわよ。」
「はーい。」
音虎が椅子に座ると尻の辺りに何か柔らかい感触があった。びっくりして立ち上がると怪訝な顔をした虎徹がいた。虎徹はゆっくり立ち上がると机の上に乗って音虎をじっと見つめる。しばらくの静寂の後虎徹が口を開く。
「おまえ、変なTシャツ着てるな。」
「溜めて言うことそれ?」
「めちゃくちゃだせぇからな。」
「センス無いね、こう言うのが可愛いんだよ。」
「センス無いのはお前だろ。」
「猫には分からないかー。ま、しょうがないよね。猫だもん。」
「俺は虎だ!」
晴が二人が言い合いしてる間に割って入る。
「料理冷めちゃうでしょ、喧嘩しないの。」
「「はーい。」」
そう言って音虎は再び椅子に座り、その横に虎徹が座る。音虎はふと横を見ると虎徹がまだ何も食べていないのを見て不思議そうに尋ねる。
「虎徹、朝食べない派?」
「いや、食べるぞ。」
「へー、やっぱりキャットフードとか食べるの?」
「だから俺は猫じゃなくて虎!!」
ちょうどその時、虎徹の前に晴が朝ごはんを置く。それはツナ缶を温めたものに揚げ玉が乗せられたものだ。
「そうそうこれこれ」
そう言って虎徹は食べ始める。音虎は「やっぱり猫じゃん」と言いそうになったが珍しく心の中にとどめた。音虎が朝ごはんを食べ終えると晴が話しかけてきた。
「今日から本格的に戦い方を教えて行くわ、運動着に着替えて昨日のとこに来てもらえる?」
「はーい。」
音虎は部屋に戻り着替えてトレーニングルームへ向かう、そこには運動着に着替え既に準備運動を済ませた晴がいた。
「来たわね。それじゃ、初めて行こうかしら。」
「よろしくお願いしまーす。」
「昨日、魔素については説明したわね。今日からは魔素を自在に操れるように練習して行くわ。」
そう言って晴は手から火の玉を発生させる。
「これは魔素で作られた火の玉よ。自身の魔素を体外に放出して一点に留めたものよ。自分の属性によって玉の属性も変わるわ、音虎ちゃんの場合は属性が雷だから電気の玉だと思うわ。」
晴は、体内の魔素の動かし方のコツ、体外への放出の方法、留め方のコツなど、これを行うために必要な様々なことを説明してくれた。音虎はそれを聞いて早速取り掛かり始めた。体内の魔素の流れを感じその中の数個をコントロールする、そしてそれを一点で留め流れる魔素を堰き止める、そして堰き止めている場所を手のひらへと動かしてゆく。すると手がバチバチと帯電してくる、あとはこれを体外へ放出し丸く押し留めるのだ。しかし、それが難しい。放出することはできてもそれを押し留めることができないのだ。魔素は体外に出た瞬間に霧散してしまう、それを体外に押し留めるのは至難の業といえよう。しかし、これは用心棒たちの基本技術である、これが出来なくては闘えないだろう。試行錯誤を繰り返すが全く進展がない、もうゆうに四時間ほど経っただろうか、「どうしたら…」そんな言葉が頭を埋め尽くそうとした頃、晴が話しかけてくる。
「休憩しなさい、お昼も食べなきゃ。」
「はい…」
「集中するのはいいけど、しすぎは良くないわよ。ほどほどに休憩しないと。さ、ご飯食べましょ。」
二人は食堂へ向かう、音虎はその間もずっとどうやったらいいか考えているようだった。そんなことを考えて険しい顔をする音虎を晴は音虎にデコピンをする。
「こーら、休憩中に色々考えないの。休憩なんだからちゃんと頭を休めなさい。」
「はい…」
食堂に着くと晴はササっと親子丼を作ってくれた、それを食べていると何やら怪訝な顔をしながら夏依が入ってきた。その手には学校の問題集があった。
「夏依ちゃんどうしたの?」
「恵比寿川が人並みには勉強もしろってうるさくて…」
「だから問題集持ってるんだ。ところでご飯ってもう食べたの?」
「カロリーメ○ト食べたよ。」
「それ…足りる…?」
「んー多分。」
音虎が軽く引いているのを横目に夏依は問題集を解き始める、ちょうど科学の電磁気分野の問題だ。ご飯を食べている音虎の目にふと一つの文章が映る、「+の電気と-の電気は互いに引かれ合う」という文章だった。音虎はこれを見て閃き大声で「これだ!!」と叫ぶ。周りは驚き目が点になっているがそれとは正反対に音虎の目はキラキラと光り輝いている。音虎は残りの親子丼をかき込むとすぐにトレーニングルームへと駆け出して言った。それを見ていた晴と夏依はお互いの顔を見て肩をすくめる。
トレーニングルームに着いた音虎は早速思いついた方法を試そうとする。それは魔素でできた電気に+と-を作りそれぞれが引き合い球状に保たれるのではないかというものだった。音虎は体内の魔素により深く集中し一つの魔素の集団に-の電気を付与しようとする、それは音虎が思っていたより簡単で、音虎の思惑通りにことが進んだ。玉の中心にマイナスの電気を外側にプラスの電気を纏わせた、これにより魔素は霧散せずにその場に留まり続ける。ついに音虎は雷の球を作り出すことに成功したのだ、嬉しさが溢れ出しその場でぴょんぴょん飛び跳ねていると晴が話しかけてくる。
「どうやらうまくやったようね。」
「はい!夏依ちゃんがやってた課題にヒントがあったんです!!」
そう言い、音虎は自分がやったことの原理を晴に説明する。すると晴は驚いた顔をする。音虎は不思議に思い晴に尋ねる。
「なんでそんなに驚いてるんですか?」
「いや、初めて見るやり方だったから驚いてるのよ。」
「えぇ!?これ以外のやり方あるんですか!?」
「本当は魔素を結合させて形成するのよ。」
音虎は言われた通りにやってみると多少の苦戦はあったもののすんなりと作ることができた。
「うわ!すっごい簡単!!」
「2つ玉を維持してるのすごいわね。」
「と、言うと?」
「初めての人は玉1つ作るのが限界よ、それを2つも軽々とやってるのは、音虎ちゃん才能あるわよ。」
「えーほんと!?やったー!ところで、この2つの玉はどうすればいい?」
「そうね、あそこに的があるじゃない?」
そう言って晴は遠くにある的を指差す。
「あれに向かって放ってみて?」
「はーい。」
音虎はまず、後から作った玉を放り投げる。玉は見事命中し的が大きく揺れる。その後揺れがおさまってきたところでもう一つを的に目掛けて放り投げる、それは命中したが的を揺らす事は無かった、音虎は首を傾げ晴が説明したやり方で作った玉をもう一度放り投げる。すると玉は豪速で的に吸い寄せられ命中したかと思うと轟音と共に的を破壊した。
「どうやら、作り方によって効果が変わるみたいね。これはすごい発見だわ。」
「そんなにすごいんですか?」
「まぁ、今まで誰も知らなかった程度にはすごいわね。」
「え!?俊助さんとか知ってそうなのに知らないんですか!?」
「俊助って近距離戦しかしないから方術使わないのよ。」
「方術って何ですか?」
「あぁ、説明してなかったわね。魔素を使った遠距離攻撃のことよ。」
「そうなんですね、方術メインで戦う人って居ないんですか?」
「いるにはいるけど雷属性の人たちはみんな近接ね、それに一回やり方覚えちゃうと他のやり方試さないのよね。」
「意外ですねー、大体開拓されてるものだと思ってました。」
「意外とみんなサボってるのよ。さ、雑談はここまでにして練習しましょ。その玉…区別つかないわね、音虎ちゃん流のやり方を『雷玉』、みんながやってる方を『雷球』って呼ぶわね。それで『雷球』を何回も安定して使えるようにするのと、『雷玉』の性質をもう少し調べてもらえるかしら?」
「はい!」
そう言って音虎は練習へと戻ってゆく、晴はその姿を見届けて食堂へと戻ってゆく。食堂に戻った時、ちょうど夏依が課題を解き終わったところだ。晴が戻ってきたのを見て夏依が話しかける。
「音虎ちゃん、走って出てったけどなんかあった?」
「魔素玉の作り方を教えてたんだけどやり方を思いついたらしくてね。」
「最初からやり方教えてあげれば良かったのに、意地悪だね。」
「でも、おかげで収穫があったわ。」
「へーどんなの?」
「魔素玉って作り方変えると性質変わるのよ。」
「作り方ってあれ以外にあるの?」
「音虎ちゃんの属性って雷じゃない?魔素で作る電気の電荷を+と-で分けてそれぞれの引き合う力で魔素の発散を防いで作ってたわ。」
「魔素が持つ属性の性質を利用したんだー、その発想は無かったなー。」
そんな会話をしつつ晴は洗い物を始め、夏依は開発室へ戻ろうとする。夏依が食堂から出る時雫が死んだ顔をしながら入ってきた。
「うぅ…頭痛い…。」
「雫さんやっと起きたんだ。」
「あぁ…夏依ちゃん…おはよ…」
「じゃあ私、仕事戻るから。」
「あぁ…了解…。」
「晴さんいるし、なんか作ってもらいなー。」
「あぃ…」
そう言って夏依は食堂から出ていく。雫は椅子に座り机に倒れ込む、それを見て晴は問いかける。
「なんか作ろうか?」
「なんかあったかいやつ作ってー…。」
「じゃあお味噌汁作るわね、お水置いとくわよ。」
「あぃ…。」
晴が味噌汁を作っていると音虎が食堂に入ってくる。
「晴姉ー出来るようになったよー!!」
「早いわね!」
「慣れたら簡単だったよー。」
「やっぱりセンスあるわね、明日はもっと応用系のやつやるわね。」
「頑張ります!」
そう言って音虎は一息つこうと椅子に座ると横に死んだように動かない雫がいた。
「うわ!びっくりした!!雫さん!?」
「あぁ…音虎ちゃん…おはよ…。」
「声ガラガラじゃないですか、大丈夫です?」
「飲み過ぎた…。」
すると晴が出来立ての味噌汁を持って来た。シジミがたっぷり入った味噌汁だ、おそらく二日酔いに効果覿面だろう。晴は雫の前に味噌汁を置くと音虎に問いかける。
「音虎ちゃんも飲む?疲労回復にはシジミがもってこいよ。」
「じゃあ飲むー。」
「はーい、じゃあ注ぐわねー。」
そう言って3人で味噌汁を啜っていると音虎が二人に問いかける。
「用心棒って普段どんな仕事してるの?」
「普通なら街のパトロールと威界の探索ね。威界っていうのは怪威が住む世界のことね、怪威はみんな威界からやって来るの。」
「広報になると威界にはあんまり行かないわよ…子供達に怪威の危険さを教えるのと用心棒候補生の勧誘が主ね…。喉痛い…。」
「意外と色々あるんですねー。」
「じゃ、この後音虎ちゃんの歓迎会あるからお風呂入ってサッパリしてきなさい。」
「はーい。」
音虎が食堂を後にした後、雫が晴に聞く。
「いいの?威界のこと言っちゃって、しかもあんなに中途半端に。」
「いいのよ、今は変に苦手意識持たない方がいいからね。それに、いつか嫌でも分かるものよ。」
晴はどこか遠い目をしてそう言っていた。
受験期の間で設定を忘れかけてましたw
大学にも慣れてきたので以前の投稿ペース以上で投稿できると思います。
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