女子会〜音虎〜
10月に間に合わなくてすみません…
どうぞお楽しみください
3人は晴が待つ食堂へと到着した、そこには4人分のナポリタンが机に置かれていた。音虎は久しぶりの晴の料理にワクワクしながら席に着く。夏依が不思議そうに晴に尋ねる。
「なんで私たちがくること知ってたの?」
「そんなの簡単よ、みんなのスケジュールを全部把握してるだけよ。」
「えぇ…なんでそんなことを…。」
「何かあった時すぐに助けに行けるようにね。さ、早く食べましょ。麺が伸びちゃうわよ。」
「はーい。」
四人は席に付き食事を始める。
「「「「いただきます」」」」
晴以外の3人ががほぼ同時にひとくち目を口に入れる。3人に晴が尋ねる。
「どう?美味しい?」
3人は口を揃えて言う。
「「「美味しい!」」」
「よかった、久々に作ったからちょっと不安だったのよね。」
「確かに晴がパスタ系作るの珍しいわね。いつもは凝った料理ばっか作ってるから新鮮ね。」
「料理するの楽しいのよねー。パスタだとアレンジの幅そんなに無いじゃない?だからあんまり作らないのよねぇ。」
「たまにはパスタ作ってよ、これ美味しいし。」
「じゃあもうちょっと頻度増やすわね。」
「お願いするわ。」
二人が会話を終え音虎達の方を見ると皿の上のナポリタンはもう半分も残っていなかった。それを見て雫は口をあんぐり開けて驚き、晴はケラケラ笑っている。
「は、早すぎない?」
「フェ?フゥフゥフェフゥフォ。」
「飲み込んでから話しなさい。」
音虎は口に含んだナポリタンを飲み込み、話す。
「普通ですよー。だって美味しいし。」
「まぁそうだけど…流石にもっと落ち着いて食べなさいよ。」
「はーい。」
そう言って音虎は前よりは落ち着いて残りを食べ進める、みんなで他愛もない会話をしながら全員が完食する。
「「「「ごちそうさまでした。」」」」
4人は食器を片付けて寮へと向かう、その途中で音虎は晴に尋ねる。
「この後ってなんか予定ある?」
「本当なら自由時間なんだけど、今日は特別に音虎ちゃんの歓迎会があります!」
「え?でもさっき明日になるって。」
「えぇ、でもそれは全体での歓迎会よ。今日のは女子棟の歓迎会なのよ。」
「そうなの!?」
「そうよ、それじゃ二人共準備よろしく。私はお風呂入ってくるわー。」
そう言って晴は風呂場へと向かう――
――20分後。
「晴姉さん。」
音虎が風呂上がりの晴に問いかける。
「歓迎会するのはいいんですけど、なんで私の部屋なのー!?」
「それはね、女子棟の風習ってやつよ。」
「まぁいいですけどちゃんと片付けてくださいよ。」
「わかってる、大丈夫よ。」
「ならいいけど。」
「それじゃ行くわよー、音虎ちゃんの守護者就任にかんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
おのおのがビールやジュースで乾杯する、3人が半分くらいしか飲んでいない中、雫は一息で全てを飲み干してしまう。何を隠そう雫は大の酒好きであり、もはやアル中の域である。そんな雫を見て音虎は若干引きながら驚いている。
「す、すごい飲みっぷりですね」
「だって歓迎会だよ?どんどん飲まないとー!」
「あんまり酔わないでくださいよ。」
「だいじょーぶ!タブン」
「多分!?今多分って言ったよね!!ダメなやつじゃん!!」
そうツッコむ音虎に晴が半分諦めたような表情で肩を叩く。
「無理よ、諦めて覚悟決めた方がいいわよ。」
「え、そこまでやばいの…?」
「相当ね…。」
「ちょっとぉ〜?聞こえてるよ〜、ぜ〜んぜん酔わないんだからぁ〜。」
「ほらね?下戸のくせによく飲むから。最後の方になるともうベロンベロンよ。」
「全然酔ってないしぃ〜。」
そう言い張るもすでに酔っている、ふと雫の後ろへ目をやるとビールの350ml缶が6個、ワインがボトルで1本置いてある、音虎はそれを見て少し恐怖を覚える。晴が肩をポンと叩き首を軽く横に振る。それを見て夏依が二人に話しかける。
「これ、いつもより自重してる量だよ。」
「えらいでしょ〜。」
自身気な表情を浮かべる雫だが夏依にそんなことないぞと頭を叩かれている。雫はそんなこと意に介さず楽しそうな表情をしている。そんな雫が音虎にあることを問いかける。
「音虎ちゃんはさ〜なんで守護者になるって決めたの〜?」
「私も知りたいな。」
それに夏依も同調する。音虎は少し恥ずかしそうに言おうかどうか迷っている、何かを察した晴がフォローを入れる。
「嫌なら言わなくていいのよ?」
「いや、大丈夫です。ちょっと長くなっちゃうんですけどいいですか?」
「だいじょ〜ぶ〜。」
「それじゃあ…」
音虎は心の中で言葉をまとめ始める、自身の過去について他人に話すのは初めて上手く言葉がまとまらない。数十秒ほどの静寂が流れる。そしてやっと音虎が口を開く。
「私が小学生2年生の時なんですけど――
――当時、音虎は白い髪のせいでクラスの全員から迫害に近いいじめを受けていた。教室に入ると机に落書きがあったり、上履きの中に画鋲が入っていたり、プリントが回ってこなかったり、黒板消しを投げつけられたり、そんないじめが常態化しており音虎の心は酷く荒んでいた。その日もいじめを受けていると、ガラリと扉の開く音がして隣のクラスの学級委員長が教室に入ってきた。どうやら担任の先生を呼びにきたようだったが先生はいなかった。音虎はどうせ見て見ぬふりをして帰っていくのだろうと思い成されるがままでいる。だが、その学級委員長はいじめっ子達と音虎の間に立ち塞がった。そして、こう言い放った。
「あなた達、よってたかって何してるの!?」
「白い髪の怪威がいるから討伐してんだよ。」
いじめっ子の主犯格が答える。それに続いて取り巻きが同調しいじめっ子たちの注目が一気にその学級委員長へと向かう。
「怪威を庇うってことはこいつも怪威なんじゃね?」
誰かがそう言うと全員が一斉に罵声を浴びせる。音虎は泣きそうな声でその子に話しかける。
「なんでこんなことするの…あなたがこんな目に遭う必要なんてないのに…」
「大丈夫、気にしないで。それに、もうすぐ終わるから。」
「それってどう言う…」
その時だった、教室の扉が再びガラリと開く音がする。そこには担任の先生がいて怒り心頭の顔をしていた。
「白風以外の全員、職員室に来なさい。」
担任が低い声でそう言うと、いじめっ子達が怯えたような顔をして担任の後ろについていく。全員がいなくなったのを見てその子が音虎に話しかける。
「大丈夫…じゃなさそうだよね。保健室行く?」
「大丈夫…それよりありがとう。助けてくれて。」
「どういたしまして。これから困ったことがあったら頼って。」
「う、うん。」
「そうだ、名前は何で言うの?」
「白風…音虎。きみは?」
「私は橋川宗子、隣のクラスで学級委員長やってるよ。」
そうして、音虎は初めて友達と呼べる人と出会ったのだ。その日の帰り、音虎は宗子からの誘いで一緒に帰ることになった。二人は家の方へ歩いていく、偶然にも同じ方向に家があるようだ。その途中で音虎が宗子に問いかける。
「なんで、そんなに気にかけてくれるの?」
「なんで…何でだろ。強いて言うなら、君が何も間違ってなかったからかな。」
「どう言うこと?」
「だって、見た目が理由でいじめられてたんでしょ?君は何にも悪くないじゃん。」
「でも、みんなと違うし…」
「いいじゃん、うらやましいよ。」
「うらやましい…?」
「うん、綺麗な白髪ってかわいいじゃん。憧れるよー。」
「…初めて…」
「え?」
「親以外で初めてこの髪を褒められた…」
そう言う音虎の目からは嬉し涙が流れている、それを見て宗子は焦ってオロオロしている。それを見た音虎はクスッと笑う。
「大丈夫だよ、嬉しかっただけだから。」
「そっかぁー。急に泣き出したからびっくりしたよ。」
「ごめんね…」
「大丈夫だよ。」
しばらくの間静寂が流れる、その静寂を破るように宗子が話出す。
「ねぇ、友達になろうよ。」
「…いいよ。」
「やったー、これからよろしくね。音虎。」
「よろしく…ね。」
「名前よんでー。」
「宗子ちゃん…これでいい?」
「子はなくていいよー。」
「わかった、よろしくね。宗ちゃん。」
この日から二人は一緒に学校に行き、話し、帰るようになり、いつの間にか家族ぐるみで関わることも増えていった。その頃にはいじめられていたころの暗い顔の面影はなく、明るくて活発な今の音虎の顔になっていた。ある日、白風家と橋川家が集まって白風家で食事をしていた。音虎と宗子は早々に食べ終わり音虎の部屋で金魚鉢の中の2匹の金魚を眺めながら遊んでいた。
「いやー、音虎。スピード強いねー。」
「反射神経いいからねー。」
「次何するー?オセロか将棋か。」
「オセロにしよオセロ。」
「いいよー。」
そうして音虎がオセロ盤に手を伸ばした時だった。外から大きなサイレンが鳴り響く、それは怪威が発生したことを告げるサイレンだ。だが、ただ怪威が発生しただけではサイレンは鳴らない、ならなぜ鳴ったのか。答えは単純だ、通常では考えられない量の怪威が発生した、つまり、怪威による侵攻が来たのだ。そして二人がサイレンに気づいた直後、巨大な爆発が二人を襲う。家は崩れ、瓦礫が吹き飛び積もり埋もれる。どこからか火の手が上がり、それが瞬く間に広がりあたりが火の海になる。二人は運良く瓦礫の隙間に挟まり何とか生き延びていた。音虎が呟く。
「一体何が…なんで…こんな…」
音虎の目から涙がこぼれ落ちる。恐怖、痛み、不安、いろんな感情が入り混じった涙が。それを宗子は震えた声で、今にも泣き出しそうな声で落ち着かせる。
「大丈夫…大丈夫…」
その言葉は音虎に言い聞かせているのか自分に言い聞かせているのか、それは宗子自身にもわかっていなかった。5分ほど経っただろうか、音虎も普段通りとは言えぬまでも落ち着きを取り戻している。瓦礫の中にいればひとまず怪威に見つかることはない、だがいつ崩れるかもわからない、そんなギリギリの空間で二人は身を潜める。さらに5分ほど経った頃瓦礫の屋根が剥がれ光が差し込む、何事かと見上げるとそこには二人の両親が瓦礫を持ち上げて二人を助けに来ていた。
「お前ら!大丈夫か!」
「何とか…」
返事を聞くと音虎と宗子を瓦礫から引っ張り上げる。瓦礫の外はまさに地獄、周囲は焦土と化し化け物がそこらを闊歩している。そんな光景を見て呆然としている二人に音虎の父が叫ぶ。
「何してる!早く逃げるぞ!!」
普段温厚な父の緊迫した顔と怒号は現在の状況を理解するのに十分だった。焦げ臭い焦土を走っていると二人の父が何かに気づき後ろを向く、そこには音虎と宗子二人を襲わんとする怪威の姿があった、父は身を挺して二人を庇った、怪威の攻撃が体に深く突き刺さる。音虎と宗子は呆然として、立ち尽くしている。その2人に父が最期の言葉をかける。
「構わず逃げなさい、絶対生き延びるんだぞ。」
その言葉は静かに発されたが今までのどの言葉よりも力強かった。2人は母と共に再び走り出す。2キロほど走っただろうか避難所はまだ遠い。みんな息が上がりその場に立ち止まってしまう。全員が呼吸を整えようとしたその時だった、母二人の胸を刃が貫く。その後ろには、2メートルはあろうかと言う巨漢が豪快に笑いながら悪辣な表情を浮かべていた。
「音虎!逃げるよ!」
宗子がそう言うが音虎は腰が抜けて動けない、そればかりか衝撃で声も出せていない。二人の母が口を開く。
「逃げなさい、私たちのことはいいから。」
「絶対、追いつくからね。」
宗子は涙を呑み、音虎を抱えて走り出す。二人はやっとの思い出避難所に辿り着く、その時、音虎は今までの出来事を改めて実感し、大声で泣いた。それに釣られ宗子の目からも涙が溢れる。ただひたすらに泣く音虎の背中をさすりながら宗子は震える声で「大丈夫、大丈夫」と音虎にも自分にも言い聞かせるようにずっと言っていた。それから音虎と宗子は晴に一時引き取られた後二人で住むことになった――
――それで、生活の方も宗ちゃんがほとんどやってくれて…私は自信を持って宗ちゃんの隣に立てるかなってずっと思ってて。そんな時に虎徹が現れて…これで自信持って隣に立てる、そう思って守護者になりました。長く話しちゃってごめんなさい。」
音虎が話し終えると夏依が半泣きで両方を掴んで話しだす。
「大変だったんだね…これから頑張ろ…すごい戦闘服作るからね…」
「う、うん。」
音虎は少し引いている。そんな時ガタンと音がする、雫が空のワインボトルを倒してねてしまってた。それを見た全員がクスッと笑う。晴がパチンと手を叩いて話出す。
「雫もこうなっちゃったし寝ましょうか。」
「そうだねー。」
「それじゃ、片付けちゃいましょ。」
そうして片付けを終え、晴が雫を抱え夏依と共に部屋から出ていく。
「それじゃ、おやすみなさい。」
「おやすみー。」
そう言って音虎は眠りにつく。明日から本格的に守護者としての日々が始まるのだ。
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