友達と仲間と変人と
お待たせしました
音虎は晴に用心棒の寮へと案内される。途中トレーニングルームや浴場、共用リビングを通り抜け女子棟と書かれた看板のかかった扉の前に着いた。
「ここからが女子棟よ、と言っても私と音虎ちゃん含めて四人しかいないのよね〜。」
そういうと晴はドアを開けるちょうどその時、入ってすぐの部屋からタンクトップシャツとパジャマのズボンを履き、ボサボサの短めの黒髪を掻きながらで眠そうな目をした女性が出てくる。その女性は目が合うや否やドアの影に隠れてしまう、その後顔だけをひょこっと出して怯えながら問いかける。
「あ…あの…どちら様で…」
「もう夏依ちゃん、昨日説明したでしょ?今日から1ヶ月住み込みで修行する新人守護者の音虎ちゃんよ。」
「よろしくねー。」
「うぁ…笑顔眩しい…陽の雰囲気が…」
「まったく…人が来たらすぐこれなんだから…。」
晴は軽くため息をつく。
「晴姉さんその…この人は?」
「紹介するわね、この子は湯川夏依。ういの技術局局長よ、こんなんでも仕事はすごいのよ。」
「よ…よろしくね…?」
「うん、改めてよろしく。仲良くしてねー。」
「あぁ…優しい…。」
「えへへありがとう。私友達少ないから話せる人増えてよかったよ〜。」
「うん…!」
その時、夏依の頭にポンと手が置かれる。夏依の後ろにタバコを咥えた長身で綺麗な黒髪を靡かせたメガネのお姉さんが立っている。
「はいよくできましたー。友達作れたね〜。」
「雫さん!馬鹿にしないで!」
夏依は猫の威嚇のような顔をして雫と呼ばれた女性へ怒っている。それを見て晴は音虎に話しかける。
「彼女は吉田雫、うちの広報担当の子ね。もしかしたらテレビで見たことあるかもしれないわね。」
「よろしく〜」
雫は夏依の頭をわしゃわしゃ撫でながらこちらへ手を振って挨拶をする、その姿は親戚の叔父さんかのような“ダメな大人”を連想させる。テレビで見た気丈で美しい彼女とは似ても似つかない様子だった。
「晴姉さん…ほんとにあの吉田雫ですか?」
「えぇ、吉田雫よ。ほんとの彼女はこんな感じなのよ。」
「ところで晴、この子誰?」
「新しい守護者の白風音虎ちゃんよ。」
「ふーんこの子が。」
そういうと雫はぐいっとこちらに近づき品定めするように音虎を見ている。粗方見終わると雫はクルリと晴の方を向きこう問いかける。
「晴ーー
音虎に緊張が走る、だがそれはすぐに違う感情へと変化する。
ーーこの子めっちゃ可愛いじゃない。どっから攫ってきたの?」
「攫ってなんかないわよ、音虎ちゃんが志願してここにいるのよ。」
「ほんと?いやーいいわねー。音虎ちゃん、これからよろしくね。」
「は、はい。」
「ふふふ、可愛い。」
音虎は可愛いと言われ顔が赤くなってしまっている。それを見て微笑みながら雫は自室へと帰ってゆく。
「じゃ、また後で。」
部屋に入ったのを見届けて夏依は口を開く。
「白風ちゃん…あの人には気をつけた方がいいよ…。」
「なんで?」
「捕まったら長時間愛でられるからだよ…。」
「あー…わかった気をつけるね。」
「うん…それじゃ工房行ってるから…また後で…」
「うん、またあとでー。あ、そうだ夏依ちゃん。」
「なに…?」
「白風じゃなくて音虎ってよんで。」
「わかった…音虎ちゃん…」
「うん、ありがとー。」
そう言って二人は離れてゆく、夏依は工房へゆく途中ずっとニヤニヤしていたという。二人はまた歩き出す、その途中晴が音虎に話しかける。
「友達少ないって言ってたけど実際は何人くらいいるのかしら?」
「えーと…宗ちゃん一人だけ…」
「え!?そんなに少ないの!?」
「あ、いやぼっちってわけじゃなくて話す人はいるんですよ。でも…友達って言えるほどの関係じゃない気がして…」
「そういう感じなのね、まぁ浅く広く友達になる必要はないわよ。」
「そっかぁ。ま、今一人増えたしいっかぁ。」
「そうね」
そんな会話をしながら少し進むと音虎とドアに描かれた部屋へと案内される。ベッドに机、本棚があるシンプルな部屋だ、理想的な学生の部屋と言っても差し支えないだろう。
「今日からしばらくこの部屋使ってちょうだい、何か足りないものがあったら言ってちょうだいね。」
「はーい」
音虎は新しい自分の部屋を見て目を輝かせている。
「それじゃ一時間後に呼びに来るからそれまで部屋作りでもしててちょうだい。」
そう言って晴は扉を閉める、部屋は音虎一人だ。音虎は持ってきた鞄を開け服をクローゼットへしまい、家から持ってきた枕と人形をベッドに投げる。その後なんやかんや整理をし、ベッドの上に転がり独り言を話し出す。
「慣れないところだし不安だったけど、みんないい人そうだしなんとかなりそうだなー。宗ちゃんいないから寂しいのには変わんないけど…」
しばらくベッドの上でぼーっとしているとコンコンとドアが鳴る。
「音虎ちゃーん入るわよー。」
ドアの向こうから晴の声がする、どうやら一時間ほど経っていたようだ。
「部屋作りは終わったみたいね、それじゃ着いてきて。」
「はーい。」
そう言って音虎は晴に連れられてゆく、女子棟を出て少し歩くと先ほど通り過ぎたトレーニングルームが見えてくる、その前に俊助と泰西が立っている。音虎が来たのを見て俊助が話しかける。
「よう嬢ちゃん、寮の奴らとは馴染めそうか?一癖も二癖もある奴らだから気ぃつけろよ。」
「大丈夫ですよー夏依ちゃんとはもう友達になりましたし。」
「あいつは人と話すのが苦手なのによく打ち解けられたな。」
そう会話をしながら4人はトレーニングルームへと入る、そこにはダンベルやベンチプレスなどがある部屋がありその部屋をぬけると立体的な構造物が入り組んだフィールドがあった。そしてそのフィールドの一番高いところから学校で見た小さな白虎が見下ろしていた。音虎はそれを見つけると手を大きく振る。
「おーい、白虎ー。」
白虎はそれを見て飛び降り音虎の胸に飛び込んでくる。ポフっという音と共に音虎がキャッチする。音虎の腕の中で白虎は音虎に話しかける。
「お前、名前なんだっけか?」
「そういえば言ってなかったっけ。私は白風音虎、あなたの名前は?白虎。」
「俺の名前か?考えたこともなかったな、お前が決めてくれ。」
「じゃあ虎だし…虎徹とかどう?」
「ん、じゃそれで。」
「ちょっと適当じゃない?」
そう言いながら音虎は虎徹の頬をつねっている、だが虎徹はそんなこと気にも止めずにのほほんとしている。
そこへ俊助が話しかける。
「話してるとこ悪いが始めるぞ。」
「なにをですか?」
「まずは嬢ちゃんが今どれくらいの力があるかを測らせてもらう。まず手始めに獣装してもらえるか?」
「わかりました、虎徹行くよ。獣装〈ユニオン〉!」
そう言うと音虎の腕は眩しい光に包まれる。そして鋭い爪に白い光沢のある武爪が現れる、だがそれは学校の時のものよりも光沢がなく雷模様と幾何学模様も無くなっていた。
「あれ、なんか前と違う…」
「なるほどな、まぁ平均と言ったところか。」
「なんか前やった時より地味になってるんですけどなんでですか?」
「そうだな、まずはそこの説明からしないとな。晴、頼んだ。」
「もう、こういうのはすぐこっちに丸投げなんだから。じゃ説明するわね。まず獣装をするためのエネルギーとなる物があるの。私たちはそれを魔素と呼んでいるわ。音虎ちゃんは体内にある魔素を使って獣装してたのよ。」
「え、魔素っていつ体内に入ってるんですか?」
「生まれた時から体内に存在してるわよ、体内を循環して体を動かすのをサポートしてるわ。それとちょっとずつ空気とか地面とかから溜め込まれて行くものもあるわ。初めて獣装した時は自然に溜め込まれたものを使ってやってるの、本来の魔素量より圧倒的に多い状態でするから音虎ちゃんがいましてる獣装よりも豪華になってたし技の威力も上がってたわ。」
「なるほど、獣装し続けてたら魔素って無くなっちゃわないんですか?」
「獣装してる分には減らないんだけど技を使うと減っちゃうわね、体内から魔素が少なくなったら気絶するか最悪死んじゃうから気をつけなきゃいけないわよ。」
「技って言うと雷爪とかですか?」
「そうよ、だから自分の限界値を知らなきゃだから今からそこについての調査をするわ。」
そう言って晴は音虎をフィールドの隅にあるサンドバッグのようなものの所へあんないする。
「まずここに雷爪を1発打ってちょうだい。」
「わかりました。」
そう言い音虎は呼吸を整える、意識を体内へ巡らせ始めて雷爪を撃ったあの感覚を真似ようとする。体の中のエネルギーを腕へと集中させるイメージ、全身を電撃が走り抜ける、右腕が白色に光り輝く、音虎はその腕を的に向かって突き出す。
「雷爪!!」
その一撃は素人ながらもうまく当たったと自覚する、だがサンドバッグは軽く揺れるばかりで手ごたえがない、音虎は驚きと落胆が入り混じった顔をしていた。だがそんな音虎とは反対に大人たちの反応は驚きと興奮に満ち溢れていた。それを見て音虎は3人に問いかける。
「これ、全然ダメなんですよね…?」
少しクスッと笑って晴が答える。
「いいえ、むしろ凄すぎるくらいよ。」
「なんでですか?的が軽く揺れる程度しか威力ないですよ。」
「その的は衝撃を吸収して威力とかを計算するための装置なの、大の大人が殴ってもびくともしないわよ。」
その言葉に音虎は唖然としている、まさか自分がそこまでの力を出せるとは思っていなかったのだろう。それを見て晴はふふふと笑う。
「獣装してると身体機能が大幅に上がるからいつもより力出るのよ、それに神獣ともなればね。」
「そうですよね…そうですよね!別に私が怪力女ってわけじゃないんですよね。」
「そうよ、だから――」
晴は音虎の耳元へより小声で囁く。
「――宗子ちゃんに引かれてたりしないわよ。」
音虎はかおが赤くなり照れ隠しに晴をポカポカ叩いている。それをみて端末で数値を確認している二人が話しかけてくる。
「なんかあったか?」
「秘密よ、乙女には秘密がおおいもの。」
「そうか、まぁ大丈夫そうか。」
「ええ、今のところは。ところで数値に異常はないかしら?」
「あぁそのことなんだが1項目おかしいやつがあるんだ。」
そう言って俊助は晴にタブレットを見せる、それを見て晴は目を見開き苦笑いする。
「何よ、この魔素量。常人の平均値くらいあるじゃない。」
「一回の技でこれだとすると音虎の魔素量が極端に多いか加減が分からずにほとんど出し切っちまったかのどっちかだな。」
晴は音虎の所へ戻り音虎の体調を確認する。
「大丈夫?気持ち悪かったり眩暈あったりしない?」
「大丈…あれ…」
その時音虎は意識を失い倒れ込んでしまう――
――しばらくすふと音虎は晴の膝の上で目覚める、目の前では俊助と泰西が組み手をしている。
「音虎ちゃん、おはよ。」
「ん…あ、おはよう…ございます…。」
音虎はゆっくりと体を起こす。
「えーっと…どれくらい寝てました?」
「一時間くらいね。」
「そんなに…ごめんなさい。」
「謝らなくていいわよ魔素を使いすぎるなんて初めてなんだからあって当たり前よ。なんなら1発でそれだけ使える方がすごいわよ。」
「そうなんですか?」
「えぇ、魔素を扱うのってすごく難しいの。それこそ魔素の操作の習得に一年かかるなんてざらよ。音虎ちゃんは雷爪を打つ時はどんな感じで打ったのかしら?」
「なんとなく、こう、身体中の力を腕に集めるイメージで」
「その時に集めるエネルギーをもっと減らすといいわ、そうすれば継続して戦えるから。」
「はい!」
「ふふ、きっとすぐできるわよ。」
晴はパンッと手を叩き二人の組み手を止め、二人へ話しかける。
「さぁ音虎ちゃんも起きたし続きやるわよ。」
「その前に晴姐、いまのどっちの勝ちだ?」
俊助が晴に問いかける、それを見て泰西が鼻で笑いながら言う。
「そりゃあ俺の勝ちだ、お前は軽い攻撃ばっかで決定打を打ててないからな。」
「いやいや、お前は手数が少ねぇよ。いくらカウンター寄りの戦法とは言え消極的すぎるだろ。」
「ふん、ほざいてろ」
「なんだと?」
二人がバチバチに言い合っているのを見て晴はため息を吐き間に入る。
「引き分けよ引き分け。」
「「ぶーぶー!」」
二人からブーイングが飛ぶ、晴はそれを無視して音虎に話しかける。
「それじゃ、そろそろ再開しましょうか。」
「あ、悪い俺の管轄で怪威だ行ってくる。」
そう言い泰西は部屋を出ていく。それを見送り、音虎の身体能力調査が始まる。短距離走から始まり状態起こしや持久走にボール投げなど普通の体力測定に加えパルクールなど実践的に体を動かすものもあった。測定が終わった後の音虎は以外にもバテておらず涼しい顔をしていた。
「以外と体力あるんだな。」
俊助が音虎に話しかける。
「昔からよく走ってたんですよ。鬼ごっことかよくやってましたし。」
「ここら辺勾配多いもんな。」
「いつも走ってるんで慣れましたけどね。」
「元気なことはいいことだ、そんな嬢ちゃんにプレゼントがあるんダッ」
いい終わる直前に晴は俊助の後頭部にチョップを喰らわせる。
「全く変に自分の株上げようとしてんじゃ無いわよ。」
「いいじゃねぇかよ、少しはカッコつけさせろっての。」
「今のは私の株が下がるでしょ。」
「そうか、すまん晴姐。」
「いいわよ、行きましょ。」
「行くってどこへですか?」
「ふふふとある物を作りにね。」
「とある物…?」
俊助と晴はニヤリと笑う。
「戦闘服よ」
次回は女子会を予定しております、お楽しみにしてください。
オカマキャラって便利