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肆天の守護者-虎軍奮闘記-  作者: 藤沢蓮
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はじまり②

前回の続きと思ってください。遅くなりました


音虎と宗子、二人の前に降りたった自らを敵と名乗る影は光に照らされその姿を見せる。その男は細身の長身で肌は死人かと見間違うほど白く黒い髪は背中まで伸びており、つぎはぎの鎧を纏ったまさに亡霊だ。


「敵ってどういうこと?怪威じゃ無さそうだけど。」


 宗子がその男に向かって問いかける。


「妙なことを言うもんだな、守護者の敵なら怪威に決まっているだろう。」


 その男は小馬鹿にしたような口調で宗子に答える。


「ぐぬぬ…人型じゃないか…聞いたことないぞそんなの…」


 宗子は言い負かされたイライラと予測が外れた恥ずかしさが入り混じりながら言葉を返す。


「まぁ用心棒ですらないやつに言っても仕方ないか。」


 男はそう言うやいなや二人の目の前から姿を消す。次の瞬間音虎の目は宗子の目の前に現れ殴り飛ばそうとしている男の姿を映した。


「宗ちゃんっ!」


 音虎がそう叫ぶ頃には宗子は校舎に穴をあけながら殴り飛ばされた後だった。


「ははっ!飛ぶねぇ!」


 男は狂気に満ちた笑顔で笑う。


「なんで…なんで宗ちゃんを!!」


 音虎は激昂し男に怒鳴る。


「怪威と守護者の戦いに用心棒ですらない奴は邪魔だろ?だから退場してもらうんだよ。」


 男は声色一つ変えず冷たい眼差しで話す。だが音虎は男が言い終える前に壁に開けられた穴から宗子のところへ向かおうと走り出す、だが男は音虎の行手を阻む。


「おいおい、自分から話しといて無視はいけねぇよ。」


 男はそう注意するが音虎はそんなこと全く意に介していない。


「どいてっ!」


 音虎は武器化されたその右爪を男に突き立てる。しかし、男は突き出された音虎のうでを掴むと勢いを利用し、音虎を投げ飛ばしてしまう。


「俺を倒さねぇと助けに行けねぇなぁ」


 男は冷たく笑い音虎を煽る。


「そこを…どいて…!」


 音虎は激昂し息も荒くなっている、そこに白虎が脳内に語りかける。


 (怒ってる状態で勝てる相手じゃねぇ!一回落ち着け!)


 その声を聞き音虎はフゥーと息を吐き呼吸を整える。音虎は冷静になり落ち着いた表情で男を見る。


「お、やる気になってくれたか。嬉しいねぇ。」

「誰がやる気になんか。隙を見せたらすぐに宗ちゃんのとこ行くよ。」

「おいおい、お前はここで俺に殺されるんだよ。安心しろあとでちゃんとお友達もそっちに送っとくからよ。」


 音虎は内から湧き出る怒りを堪え敵を見据える。重い空気共に場に静寂がはしる。


 (いいか、奴はマトモにやり合って勝てる相手じゃねぇ。必殺技使えば善戦はできるだろうが勝てるわけじゃねぇ。なんとしてでも用心棒が来るまで耐えるぞ。)


 白虎は脳内で音虎に話す、その様子を見ていた男が口を開く。


「神獣サマもやる気みたいだねぇ、それなら俺もちゃんとやろうかねぇ。魔装〈ユニゾン〉…!」


 骨でできた触腕が次々と男の背中を突き破り生えてくる。右左それぞれ4本ずつ生え男は触腕の重さからか後ろへのけぞる。男は狂ったように笑う、ひとしきり笑い終わると体を前傾姿勢にする。


「冥土の土産に教えてやるよ!お前を殺す男の名をなぁ!!ムクロだ!!覚えとけ!!」


 男は触腕が生える前とは打って変わりハイテンションになっている。その直後ムクロは音虎に急接近し飛びかかる。そしてムクロの右の4本の触腕が音虎に襲いかかる。


 (伏せろ!!)


 白虎の声に反応して音虎は即座に地に伏せる。その上をムクロの触腕が通り抜ける。音虎はムクロの胴体を下から右爪で貫こうとするが、振り抜いた触腕が胴体をガードしており貫くことが出来ない。ガキンと鈍い音が響きムクロの体が宙を舞う。


「ははっ!いいパワーだなぁ!」


 ムクロはそう言いながら勢いを利用し距離を取る、が音虎はそんなことお構いもせず距離を詰め切り掛かる。

 だが楽々触腕で防がれてしまう。


「動きが安直なんだよ、もっと落ち着けや。」


 ムクロは平然とした顔で話す、対照的に音虎は苛立ち顔が険しくなる。音虎が怒りで力を増すタイミングでその力を利用し音虎を空中へ投げ飛ばす。だが音虎はそれを待っていたかのようにニヤリと笑う。音虎は空中で右腕を振りかぶる、その時音虎の腕に白色の稲妻が纏われる。音虎はその腕振り下ろすその軌道には白銀色の軌道が生まれ綺麗な三日月を描く。そしてその三日月は斬撃となりムクロへ向かう、そして音虎は叫ぶ。


虎月こげつ〈三日月〉ッ!』


 ムクロは咄嗟に左の触腕全てでガードする。触腕と斬撃がぶつかり合い火花が飛び散る。ムクロはガードしたと思いニヤリと笑う。しかしその時斬撃がムクロの触腕を切り落とす、そしてそのまま斬撃がムクロの体に到達する。到達した斬撃はムクロの左腕に深傷を負わせる。


「貴様ぁ!よくもぉ!!」


 ムクロは怒りを露わにし叫ぶ。


「舐めてるからそうなるんだよ。」


 音虎は先ほどのお返しと言わんばかりに舌を出し煽る。


「ふぅ、もう出し惜しみはしない…全力でぶっ殺すッ!!『重・魔装〈リ・ユニゾン〉』ッッ!!!」


 ムクロがそう叫ぶと触腕が一つの鋭い刃となり腕に装備される。さらに新たに体から骨が生え鎧のように体に纏われる。それはより禍々しくなっている。


鎧骨がいこつ…」


 ムクロは落ち着きながらも威圧感を放ち大気を震わせる。


 (やべぇぞこれは…逃げた方がいいぜ、勝てる気がしねぇ。)

 

 白虎が危機を感じ音虎に注告する。


 (逃げないよ、逃げたら宗子が危ないでしょ?だったら)

 ムクロは何も言わず右腕を引く。それをみて音虎も右腕を引く。この衝突がこの戦いの決着を予感させる。ムクロが音虎に急接近し右腕を突き出す、そこには黒色の禍々しいオーラが纏われていた。


纏装凶骨てんそうきょうこつッ…!』

 

 それに反応し音虎は右爪を突き出す。その爪には白銀の雷が纏われ圧倒的な威力を予感させる。


雷爪らいそうッ!』


 二人の衝突で大気が揺れ後者にヒビが入り窓が割れる実力は拮抗しているかに思えたが音虎は所詮守護者になりたての新米、迫り合いにおいて勝てるはずもないのである。すぐに拮抗は崩れムクロが押し勝ち音虎は壁に打ち付けられ意識が朦朧とする。音虎の目の前には右腕も振りかぶったムクロがいる。音虎は自身の死を予感するーー


 ――時は少し戻り宗子がムクロに飛ばされた頃。宗子は壁を2枚ほど貫通し下駄箱を崩しながら学校の正面玄関まで飛ばされていた。その時宗子は嫌に冷静だった。


 (あー…体痛い…あばら何本か折れてそ…足は折れてはなさそうだけど…右腕が折れてる…まぁ直に受けたもんね…)


 その時宗子はふと周囲が煌々と明るいことに気づく。ガラス張りのドア越しに外を見ると紫の炎で外の様子が何も見えなくなっていた。


 (助けも呼べない…か…)


 宗子がそう考えていると炎の中から一人の男が現れる、その男はスーツを着ているが腰に帯刀している、白い髪が前では切り揃えられて後ろでは三つ編みにしており背中までとどいている。丸い黒縁メガネをかけた糸目だ。


 (誰だ…?視界がぼやけてわからない…)


 その男は宗子を見つけると焦って駆け寄る。


「大丈夫!?意識ある!?息できる!?」


 男は焦りながらも的確に宗子の状態確認をする。


「意識…はあります…息は…しづらいです…」

「わかった、今治すからね。」


 そういうと男は宗子に両手をかざす。


『白蛇のはくじゃのち


 男がそう呟いたと同時に宗子の怪我がみるみる治っていき、10秒しないうちに体から痛みが引いていた。


「すごい…治ってる…、ありがとうございます。」


 宗子は起き上がり男に礼を言う。


「あの…お名前って…」

「ん?あぁ、白末蛇達しらすえじゃたつだよ。」


 白末は笑顔で答える。その時だった、ガキィンという衝突音が鳴り響き校舎、空気、地面が揺れ始める。宗子にはその原因が一瞬にしてわかり自分が飛ばされてきた方向へ走り出す。


「え、ちょどこ行くの!」


 白末の静止も聞かず宗子は中庭へと走る、あと少しで中庭に出るその時だった、何かが壁にぶつかる音がした。宗子が中庭にたどり着いた時、地面に倒れ込み動かなくなっている音虎とトドメを刺さんとするムクロの姿を目にする。


「音虎ッ!!」


 宗子が叫んだのに気付きムクロがこちらを向く。


「安心しろ、こいつを殺したらすぐに同じところに送ってやる。」


 そう言うとムクロは振り上げていた右手を振り下ろそうとするその時、上空からムクロに何かが飛来する。ムクロはそれを振り上げていた右腕で弾く、飛来してきたものは雷模様の装飾がある短剣だった。ムクロは上を向き短剣が飛んできた理由を確認する、するとそこには右手に短剣を持ち今にも斬りかからんとする男の姿があった。ムクロは咄嗟に後退し男の攻撃を回避する。男は焦茶色の髪をオールバックにし茶色の革ジャンを白無地のTシャツの上に着てジーパンを履いている。その男は弾かれた短剣を拾い上げムクロに問う。


「少しはやるみたいだが受けるくらいの気概は見せたらどうだ?軟弱者。」

「西古最強の用心棒みたいな技量は持ち合わせてないんだ。勘弁しろよ皆川俊助みながわしゅんすけ

「へぇ、知ってんのかい。」

「当たり前だろ、ここらで知らない怪威はいない。

 俊足の用心棒皆川俊助、10年間西古のトップ用心棒として活躍しているが能力の片鱗すら見せない不気味な用心棒。基本情報はこんなもんか?お前のことは全部データベースに入れられてんだよ、こっちじゃ常識ってわけ。」


 俊助はそれを聞くと大声で笑い出す。


「なんだ気でも狂ったか」

「いやーすまんすまん、的外れなことを自信満々に語ってるのが面白くてよ。まあいいや始めようぜ。」


 そういうと俊助は前傾姿勢になる。


「ふっ、的外れかどうかその身で確かめな。」


 そう言うがムクロは棒立ちのまま一切構えない。だが鎧状の骨が変形し左手にも刃が生成されている。


「蛇達ゥ!そこのお嬢さん安全な場所に退避させて回復させろぉ!」

「こっちのお嬢さんがやってくれましたよー!思う存分やっちゃって下さーい!」


 その声を聞くと俊助はムクロへと走っていく、するとムクロが何か話出す。


「最初は正面衝突――」


 ムクロがそれを言い終わる前に俊助は前を向いたままムクロの背後に飛び空中で背中合わせの状態になる。


「――と見せかけて後ろに飛び右の短剣で首筋を一閃。」


 俊助は体を捻り右の短剣でムクロの首を狙うがそこにはムクロの腕がありガードされてしまう。


「それが防がれたら逆方向へ体を捻って左で首筋に一閃――」


 俊助は体を逆に捻り左の短剣で再びムクロの首を狙うがやはりそこにはムクロの腕があり腕の刃で受けられ迫り合いがおこる。


「――これでも的外れかい?」

「そうだな、大間違いだ。ひとつ、能力の片鱗も見せないとか言っていたが俺はそんなできた人間じゃねぇ。ふたつ、この程度で受けきれたと思ってんのか?」


 その時、ムクロの刃に亀裂が入る、そしてそのまま刃は折れムクロの首に短剣が向かう。ムクロそれをギリギリのところで避けたが切先が首を撫で血が垂れる。距離をとったムクロは叫ぶ。


「馬鹿なっ!この程度で俺の鎧骨が割れるなどあるはずがないっ!」

「うるせぇよ、そこに存在する結果が全てだ。そして結果には原因がある、お前はあのお嬢さんを舐めすぎたんだよ。あの衝突でお前はダメージを負ってないとでも思ってたんだろうがダメージは蓄積されてんだよ。」

「うるせぇ!」


 俊助の言葉に耐えきれなくなったのか叫びながら俊助に迫る、その時ムクロの腕の刃が形を変え無骨なガントレットへと姿を変える。


「へぇ殴り合いか、いいぜ乗った。」


 俊助はそう言うと持っていた短剣2本を遥か上空へと放り投げ半身になり臨戦体制をとる。それをみたムクロは駆け出しその勢いのまま右ストレートを放つ。俊助はそれをいなし、腕を掴み投げ飛ばす。ムクロは壁へと一直線に飛ぶが空中で体勢を変え壁へ着地し壁を蹴り再び俊助へ向かい蹴りを放つ。それを俊助は片手で押さえ上空へと投げ飛ばす。


「チェックメイトだ。」


 俊助はそう言い両手を振り下ろす、その腕の起動には雷のようなものが走っている。


天牙雷鳴てんがらいめい!』


 そう言った時ムクロの両手に激痛が走る、そしてそのままムクロは地面に叩きつけられる。ムクロは即座に自分の状況を確認する、自身の両手に短剣が刺さっておりその刃は地面に突き刺さるっている。さらには雷の縄で押さえつけられている。それを見下ろし俊助は問いかける。


「お前には二つの選択肢がある。一つ、そちらさんの情報を話してから死ぬ。二つ、死んでから情報を抜き取られる。自由に選んでいいぜ。」


 そうは言うかムクロに自由などなく事実上の死刑宣告に近かった。だがムクロは机上にも言い返す。


「テメェらにやる情報なんざねぇよ。」


 そう言い唾を吐いたその時ムクロの下から黒い何かが染み出す。


「さっきの問いに答えてやるよ!撤退だ!あばよ、クソ用心棒共!今度会ったら全員ぶっ殺してやるからな!」


 そう言うとムクロは黒い何かの中に沈んで消えた。その先は黒く光の無い部屋だ。


「イッテテ…あの野郎騙しやがって、何が「乗った」だよ。」

 

 ムクロが文句を垂れていると後ろから女の声がする。


「はいお疲れー、いいもん見させてもらったよ。」

「近くにいたなら加勢してくれりゃよかったのに。」

「残念、私は中立なの報酬内のことしかしないわよ。」

「ガメツイ野郎だ」

「それより今回はあんたの独断専行でしょ。成果なさそうだけど大丈夫?」

「なんだ優しいな。ま、なんとかするさ。」


 ムクロの前にヌッと手が出てくる。

 

「報酬、ないなら殺すわよ。」

「俺らにそれは効かねぇよ。ほらよ、約束のもんだ。」

 

 ムクロは紙袋を女に渡す。


「これこれ、ありがとね〜それじゃ。」


 そう言うと女の気配は消えた。暗闇の中でムクロは倒れ込む。


「ったく…なにがしてぇんだか」


 場所は戻り学校――


「チッもう一人いたのかやりきれなかった。蛇達!治療は終わったか!?」

「はいはい終わってますよ。先輩、そんなイライラしないでください、死者ゼロ人、相手の底も見えたんですから。」

「まぁそうか、嬢ちゃんたちは?」

「寝てます、僕の回復は本人の体力使っちゃうんで。」

「そうか…起きたらちゃんと伝えとけよ、これからやることいっぱいあんだから。」


 そう言うと俊助はタバコを取り出して一服し、空を見上げる。空は薄暗く晴れ間はない、雨が降るかもしれない。


「こりゃ少し荒れるかもなぁ…」


 そう呟くと俊助は蛇達と共に音虎達を運び出す。


「先輩から見てこの子どうです?」


 蛇達が俊助に問いかける。


「初めてにしちゃ上々じゃねぇか?ただ問題はこれからだ。」

「そうですねぇ。ま、しっかり育てていきましょ。」


 ――これは後に偉人として語り継がれる二人の少女の過酷な物語、今はまだその形を潜めている――

 

これからも気まぐれに投稿していくつもりです。それでも読んでいただける方、よろしくお願いします

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