はじまり
こんなのがあったらいいなを詰め込みました。
———美しい要塞都市『神都』、それを囲むように四方に存在している都市、『北張』『隆東』『南岐』『西古』これは『西古』に住むニ人の少女の物語———
———ここはそこに通う二人の少女が住む家である。
「宗ちゃん、おはよ。」
そう言い2階からの少女が降りてくる。少女はショートヘアーの白髪に金属でできた花の髪飾りをつけていた。彼女の名は白風音虎、15歳、中央学校中等部3年生だ。
そして彼女が話しかけた少女。彼女の名は橋川宗子。彼女は音虎より一回り大きく、綺麗で長い黒髪に花の飾りがついたカチューシャをつけている。
「おはよ、朝ごはん出来てるよー。」
「ありがとー」
机の上には焼きたてのトーストとハムエッグが置いてある。それを見て音虎は冷蔵庫へ向かう。
「宗ちゃーんなに塗る〜?」
「ピーナッツバター」
「はーい」
音虎は冷蔵庫からピーナッツバターとイチゴジャムを取り出す。それを机の上に置きテレビをつける。
「それじゃ、食べよっか。」
宗子が席につく。
「いただきまーす」
二人が朝食を食べ始めた時あるニュースが流れる。
『昨今増え続ける怪威発生についてです。昨日用心棒協会からのコメントをいただきました。[守護者不在期にはよくあること、過去の事例と比べなんら異常はない。市民の皆様方におかれましてはご安心なさいなさいますようお願い申し上げます。]とのことです。これを受けて…』
怪威とは自然発生し人々を殺戮する超常的生物のことであり兵器による攻撃は一切通用しないのである。そんな化け物を倒し、市民を守るための存在が用心棒であり彼らは幻獣と呼ばれる幻想生物と契約を結びその力を宿して戦うのである。そしてその用心棒を束ねる存在が守護者であり守護者が契約するものは幻獣ではなく神獣と呼ばれるものである。
そんなニュースを見ながら二人は朝食を食べ終える。そして洗い物をしている時に宗子が音虎に話しかける。
「もし守護者になれるとしたらなる?」
「んーなるかなー。」
「なんでー?」
「秘密ー。」
「えー教えてよー。」
「だめー。」
「けちー。」
二人は身支度を終え、学校へ向かう。
『行ってきまーす』
二人はそう言うが返事はない。二人は共に両親を亡くし二人で住んでいるのである。通学路を進んでいると少し先の路地に白猫が入っていくのが見えた。
「猫だぁ〜かわいい〜」
音虎はその路地へ進み白猫を追いかける、意外にも白猫はその場で寝転んでいた。よく見ると白猫は黒い虎の模様がついていたがそんなことは気にせず音虎は四つん這いになりながら白猫を遠慮もなく撫でまわす。白猫は意外にもおとなしく撫でられている。
「人間慣れしてるなー。」
音虎の後ろに立っている宗子がつぶやく。その時だった。後ろから自転車が通り抜ける。それに驚きビクッとして白猫は逃げてしまう。
「あー…」
音虎は四つん這いのまま残念そうな表情を浮かべる。そこに一つの影がかかる。
「どうしたんだい?」
話しかけてきたのは黒髪で背が高い好青年だった。
「用心棒さん!」
彼はこの街の用心棒の一人柳瀬双介、学校周りのパトロールを担当している。
「自転車が来て猫が逃げちゃって…」
音虎はしょんぼりとした顔をする。
「ははは、それは残念だったね。でも早く学校に行くことをおすすめするよ。最近は怪威の動きが活発だからね。」
双介は笑いながら注意する。
「大丈夫ですよ。私たち足速いんで。」
宗子は自信満々に答える。その後ろで音虎がムフーと誇らしげにしている。
「そうじゃないんだけどなぁ…」
双介は苦笑いをする。
「じゃあ今日朝礼あるから早く行かないとなのでー」
そう言いながら二人は走り去って行く。
「速いな…」
そう呟いた時双介の端末から音がする
「また怪威かよ、今日多くねぇか」
双介はボソッと呟き現場に向かう。二人は道を駆け抜ける。
駆け抜けた先には二人が通う西古中央学校がある。ここは初等部から高等部までの一貫校で西古の子供はここで教育を受けるのだ。三階建てで正方形の中央に中庭がある、そしてその中央には創立時に植えられた大樹が聳え立っている。二人は校門を抜けて走るのをやめて歩き出す。
「相変わらず速いねー」
宗子は息を切らしながら話しかける。
「空気抵抗少ないし、宗ちゃんみたいな重りついてないしね」
音虎は宗子の大きい胸を見ながら話す。
「言ってて悲しくならない?」
「私はこの胸に自信を持ってるからね。」
音虎はムフーと誇らしげにする。だがそんな音虎の思いとは裏腹に周囲の男子の目線は宗子に向いている。やはり年頃の男子は華奢より豊満の方がいいのだろう。実際「顔のレベル高いけどやっぱり胸がなー」と言う声が聞こえてくる。
「やっぱり悔しい。」
音虎はむくれながら教室へ向かって歩く。
「ごめんちょっとトイレー」
宗子はそう言うと走り出す。音虎は宗子を見送ってひと足先に教室へ向かう。宗子はトイレへと向かう途中先ほど音虎の胸を馬鹿にしていた男子3人組を見つける。宗子はその3人組に近づいて話しかける。
「こんにちは」
宗子が話しかけると3人は驚き興奮しながら返事をする。
「こ、こんにちは!なんのご用でしょうか!」
そう言う一人の鼻息は荒く心臓の鼓動が伝わってきそうな勢いで興奮している。それに対して宗子は淡々と笑顔で返す。
「さっき音虎のことが馬鹿にしてたでしょ。」
その言葉を聞いた瞬間3人の顔は真っ青になり冷や汗をかくようになった。それと対照的に宗子の顔は冷たい笑顔だった。
「もう二度としないようにね」
宗子は静かに落ち着いて話していたが怯えさせるには十分だった。
「ひゃ…ひゃい…」
それを聞くと宗子は何事もなかったかのように3階の教室へ向かった。階段を上がりすぐのところにある中等部3年2組の教室へ。教室に入ると外を眺める音虎がいる。荷物をロッカーに入れ宗子は後ろから音虎に抱きつく。
「音虎〜お待たせ〜。おどろいた?」
音虎は少し笑いながら笑顔で答える。
「窓から反射で見えてたよ。」
そんなカップルみたいな二人を見た男子たちの胸には一様に同じ感情が芽生えたと言う。『守護らねば』と。
しかしその感情はいっときのものだったのだ。窓から外を眺めていた音虎が空が曇ってきたことに気づく。その空はこの後に起こる事件の前触れのようだった。
「急に曇ってきたね。」
「あんなに晴れてたのにねー。」
その時だった。校庭に大きな黒い染みのようなものが広がってゆき、やがては校庭全体を埋め尽くす。そしてそこから大きな鎌を持つ3mはあろうかと言う化け物が出てきた。その見た目はカマキリのように見えるがその顔にはギョロリとした目があり口には無数の牙が並んでいる。
「か…怪威だ!なんで怪威が⁉︎」
教室内が明らかにざわめき出す。その時轟音が鳴り響いた。その方へ目を向けると教室の壁を破り教室内に侵入した怪威の姿があった。
「あ…あ…」
怪威が眼前に現れた音虎は震えた声をこぼしその場から動けなくなっていた。そこに怪威は大きな鎌を振り下ろす。そこに宗子が飛び込み音虎を突き飛ばし救出する。
「みんな逃げて!」
宗子が教室にいた生徒たちに向かって叫ぶ。教室にいた生徒は先ほどの思いはすっかり消えてしまって一目散に逃げ出す。
「音虎、立てる?」
「大丈夫、立てるよ。」
二人が立ち上がったその時、壁を突き破って怪威がもう一体飛んできた。それにモロに当たった音虎は怪威と共に中庭まで吹っ飛んでしまった。幸いにも草木がクッションになってくれて落下のダメージを吸収してくれた。しかし、目の前には3mほどもある怪威がいる。
中庭のから校舎に入るための扉には鍵がかけられシャッターまで降りており、四方を校舎に囲まれた中庭から出る手段がなくなってしまっている。
(唯一あるとしたら怪威が開けたあの穴…中庭中央の木を登ればあの穴に入れるけど…)
「怪威をどうにかしないことにはなぁ…」
音虎はそんなことを考えながら怪威の動きを待っている。だが怪威も動かない、膠着状態が続いた。その状況は以外なことで崩れた。3階から瓦礫が落ちてきた、最初に教室に侵入した怪威が再び動き出したのだ。穴から宗子が尻餅をつくところが見えた。
「宗ちゃん!」
音虎が宗子の方を見て叫ぶ、その隙を怪威は見逃さなかった。怪威が音虎に切り掛かる。音虎は怪威の鎌を紙一重で躱わす。怪威の鎌は音虎の後ろにあった草木を全て斬り払った、もし当たってしまったら生き残ることは出来ないことを嫌でも理解させられる。
(あっぶなぁ…私じゃなかったら死んでたよ…)
音虎は冷や汗をかきながら後退りする。怪威もジリジリと音虎に迫って行き、ついには中庭の角に追い詰められてしまう。
――時は少し遡り音虎が中庭に飛ばされた時、宗子は音虎が飛ばされた方へ走った。
「音虎っ!」
壁の穴から中庭を見下ろし音虎を探す。そこには怪威にジリジリと追い詰められている音虎の姿があった。宗子の胸の中には「音虎を助けないと」という思いで溢れて居た
(なんかアイツの気を逸らせすものは…)
宗子は周囲を探し始める、すると足元に消化器があるのを見つける。
(よしこれを投げつければ。)
そう思い消化器を取ろうとしたその時、宗子に黒い影がかかる。それに気づいた宗子は恐る恐る振り返る、そこには今にも襲い掛からんとする怪威の姿があった。
その姿を見た宗子は耐性を崩し尻もちをついてしまった。しかし、すぐに消化器に手をかける。
「絶対に…音虎を助ける!!」
そう叫ぶと消化器のホースを持ち、振りかぶる。そしてモーニングスターの要領で振り上げ自身の背後に迫った怪威にぶつけ、音虎の目の前に立ち塞がる怪威に向かい放り投げる。宗子の背後に迫った怪威は衝撃で仰け反り、音虎の目の前の怪威は消化器へ鎌のような腕を振りかざし、消化器を一刀両断する。そして、消化器の中から消火剤が撒き散り煙幕となる。怪威は煙幕の中で視界を失う、その隙を音虎は見逃さなかった。音虎は即座に走り出し怪威の視界の外へ逃げ出る、そして中央に聳え立つ大樹に登り閉ざされた中庭からの脱出を試みる。音虎が大樹の上に登ったその時、音虎の視界には最悪なものが映った。煙幕から脱出し、大樹の根元まで迫っている怪威の姿がそこにはあった。怪威は両腕を振るい大樹を根本から斬り倒す。音虎は大樹と共に地面に叩きつけられる、今度はクッションとなるものも無く打ちつけられた衝撃が体全体に伝わる。
「グッ…」
鈍い声を上げる音虎には立ち上がる気力があるかどうかすら怪しかった。それを見た宗子は音虎を助けねばという焦燥にかられるが、彼女も怪威に襲われている最中である。助けには行けない、すぐ近くに友人がいながらも孤立無援、こんなにも残酷なことがあろうか。無慈悲にも音虎に怪威の鎌が襲いかかる。音虎は死を覚悟し、目を瞑る。10秒ほど経っただろうか、音虎は恐る恐る目を開ける。すると世界が止まっている、振り下ろされる怪異の鎌は空中で静止し、宗子も宗子に襲いかかる怪威も全て静止している。落ち着いて周りを見渡すと自分の後ろに今朝登校中に見た猫が動いているのを見つけた。
「今朝の白猫?どうしてこの子が…」
「ふぃ〜ギリギリ間に合ったな…」
「喋った!?」
唐突に猫が喋り音虎は驚いて後退りする。
「あービビんなビビんな。」
「いや、ビビるでしょ…猫が喋ってるんだから…」
「お前俺がただの猫に見えてんのか?」
「いや猫でしょ。」
「マジかよ…そんな威厳ない?」
「威厳も何もただの猫ですけど。」
「しゃーねーなこれでどうだ。」
そう言うとその猫は光だす。音虎は眩しくて目を瞑る…目を開けるとそこには大きな白い虎がいた。
「ホワイトタイガー…?」
「なんでそうなる…白虎だよ。『神獣』白虎。」
「白虎ってことはもしかして。」
「そうお前は守護者に選ばれたってわけ、どうする?なるか?守護者。」
「拒否権無くない?」
「確かになぁ〜…まぁ目の前の怪威くらいは倒すぜ。神獣が見捨てるわけにもいかねぇし。」
音虎は悩む素振りも無く答える。
「なるよ。」
「あぁなるのね。」
「ダメだった?」
「いや全く。」
そう言うと白虎はくるりと怪威の方を向きそのまま音虎に話しかける。
「最後の確認だ、これからお前は茨の道を歩くことになるかもしれない、それでもやるか?」
「もちろんだよ、さっさと契約するよ。」
「やる気だねぇ、それじゃ契約成立だ。」
白虎がその言葉を発すると同時に音虎の体が白い光を纏う。
「俺の力を使う時は、『獣装〈ユニオン〉』って唱えるんだ。そしたら俺がお前が望む武器になる、んでまた世界が動き出す、決心が付いたら唱えな。」
音虎はフゥーと息を吐き目の前の怪威を見据え、右手を後ろに構え振り下ろされる怪威の鎌に狙いを定める。
その後スッと息を吸い唱える。
「獣装〈ユニオン〉!!」
音虎が纏っていた光がさらに大きく輝き、中庭全体へ広がる、その光の中で音虎は構えていた右手を突き出し、怪威の鎌の根元を突き破る、さらに持ち主を失った鎌は、飛ばされ宗子を襲っていた怪威の首元に突き刺さる、しかし刺さり方が甘かったのかすぐに抜け落ちてしまった。
「これは…」
宗子が鎌が飛んできた方向へ顔を向ける、するとそこには眩い光の中から現れた音虎がいた。そしてその腕は白く光沢があり、イナズマと幾何学模様が施されており指は青白く長く鋭くなっており、それで怪威の鎌を突き飛ばしたのを理解させるには十分だった。
「音虎!どうしたのその腕!!」
少し心配そうに宗子は尋ねる。
音虎は少し自慢げに返す。
「守護者になったんだよ!もう大丈夫!」
そう言うと怪威へ顔を向ける、そこには自身の腕を斬られ困惑しながらも怒り殺意を向ける怪威がいた。
「怖ぁ…」
音虎は少し怯えながらも笑い、右手を引き迎撃態勢をとる。
そして宗子は音虎が飛ばしてくれた怪威の腕もとい鎌を担ぎ上げる。
「これがあれば難なく倒せるな。」
そう言うと宗子はまるでバットでも振るかのような姿勢をとった。さて、怪威はというと目の前にはまだ若い女が一人、しかも逃げるでもなく向かってくる。腕が一本少ないかどうかの違いはあれど、二体の怪威は同様に目の前の格好の獲物を狩ることしか頭になかった。宗子の前に立ちはだかる怪威は両腕の鎌を大きく振り上げる、それとほぼ同時に鎌を振りかぶる。
「一振りで床に突き刺さる切れ味だ、怪威の一体や二体ぶった斬れてもいいはずだ!」
そう言うと一歩踏み出し振りかぶった鎌を振り抜く。そこに一切の抵抗はなく怪威の体は綺麗に真っ二つになり崩れ落ちた。中庭の怪威も同様に音虎へ向かいだす、音虎は半身になっていた体をさらに捻り、怪威に背中を向けたかと思うと体の捻りを利用して回転しその手の『爪』で怪威を切り裂く。その威力は凄まじく、怪威の後方に横たわる大木を両断した。音虎はその威力に唖然としている。そこへ2階から飛び降りて宗子が駆け寄る。
「すごいじゃん!」
「自分でも驚いてるよ…」
そんな二人を校舎の屋上から見下ろす一つの影、その影が屋上から飛び降り二人の前に降り立った。
「誰?逃げ遅れたってわけでもなさそうだけど。」
宗子が問いかける。
「俺が誰かは知っても意味ないさ。ただ一つだけわかればいい。お前らの『敵』だ。」
そう話す男の声は重く、死を感じさせるようなものだった。そしてこの一言が『守護者』白風音虎の初陣の始まりとなるのだった。