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6話【人間】

【ステータス】

・リリス・ヘルファンタズマ 種族:魔族

スキル

・------

魔法

・ファイアボール

・ファイアランス

・シャドーウォール


「……え?」


表示されたステータスを見て驚いた声を上げてしまった。

気になったのはスキルの部分、この表示って…


「……そ、そうよ!スキル持ってませんけど何かああ!?魔王の娘なのにスキル無しでごめんなさいね!どうせ作品さえ違えば追放される悪役令嬢系無能キャラですよわたしは!……ぅ、うわああああああん!」

「………」


リリスが泣いてしまった…。


「っていうか、別にスキルがないくらいそんな珍しくないんだから!本来スキルなんて100人に一人が持ってるかどうかだし大体そのほとんどが役に立たないし結局世の中体術と魔術が強い方が強いだもんっ!!あとこれからスキルを習得する可能性だってないわけじゃびえええええええええん!」


………なるほど、リリスがステータスを見せるのを渋ったのはこれが彼女のコンプレックスだったみたいだ。

…いや本当悪いことをしたな…。

正直異世界人の僕には1%の確率で手に入る才能がないくらい、なんにも恥ずべきことじゃな気がするけど…どうなんだろう…確率だけで言えば元の世界での胸筋ぴくぴくさせられる能力とかと同じくらいなのかな。

いやほんとわかんないけど。

なんて、目の前で女の子が泣いてるという不慣れな状況に戸惑い頭の中でかけるべき言葉を考えているとある予感。

そしてその予感通りあの痛みがやってくる。


「……っ!?い、いっったああぁぁぁ…!!」


……間違いない、忘れるわけない。

魔王にされたあの魔法、あの頭痛。

けどなぜ今それが……いや、何故かなんて一つしかない。


───僕がリリスを悲しませたから…っ!?


他に思い当たらないし絶対そうだって思えた。

つまりこれはペナルティ。僕が守るべき対象が心の傷を負っている事への僕への警告。

…だってあの魔王だもん、少し話しただけでもそういう陰湿な仕掛けをやってきそうな感じはするし…っ。

とにかくはやくなんとかしないと、頭痛で頭がおかしくなる…っ!


「い、いやリリスはスキルなんてなくても…っす、すごいよ!」

「………え?」


キョトンとした顔でこちらを向き直るリリス。

痛みがわずかに治る、………今畳み掛けるしかない…!


「だってあんなおっきい火の魔法が使えてしかも超可愛いお姫様でしょ!?数年後には魔王になって魔族隷奴のスキルも獲得するのに今からこんな完璧最強でほんっとリリスはすごいなあ!…すごいッ!!!」


痛みで最後ちょっとだけ声が裏返った。


「…………え、えへへ…すごいかなぁ…」

「めっっっっっっっッちゃすごいよ!!!」


褒めているうちに痛みはいつの間にか消えていた、が、恐怖だけは心に残り続ける。

……やばい、リリスが泣くと僕がやばい。次アレを耐えられる自信がない…っ!

どうやら本当に僕はこの子奴隷として1年間死ぬ気でそばにいなきゃいけないらしい。

…胸を締め付ける不安とリリスの「えへへ…やっぱりわたしすごいかも…」という声を聞きながら僕たちは休憩を終え再び歩き始めた。




※※※※




「…えっと、荷物持たせてていいの?」

「うむっ。だってわたしの方が凄いからねっ!」


あの休憩以来自分に自信がついたらしく、リリスは率先して荷物を持ってくれていた。

しかし僕が持っていた時よりずいぶん軽々しく歩くなあ…あんな小さい身体なのに…………。


「………………………もしかしてリリスの方が力が強い?」

「え、当たり前じゃん。魔族なんだから。少なくとも優人の10倍は筋力あると思うよ」

「…………えぇ…」


さっきまで必死にその荷物を背負わせれていたのがばかみたいに思える。

リリスのこと良い子とか思っちゃったの撤回して良いかなあ……。



「…あそっか、優人の世界って魔族がいないんだっけ?基本的にこっち世界では魔族の方が筋力、魔力両方で優れてるの」

「………なるほど」


自分よりかなり小さな女の子が数十キロの荷物を軽々背負っているのを見ると説得力も半端じゃない。

……あれ?でも。


「でもこの世界って魔族が人間に虐げられてるんじゃないっけ?」

「…………まあ。力が無い分、人間達は汚いから…」

「汚い?」


汚いってどういう意味だろうとリリスに尋ねた。


「……数百年前。まだお祖父様が世界を支配していた時代は間違いなく、人間なんて取るに足らない種族だったの。…でも人間たちが異世界から勇者なんてのを召喚し始めてからそのバランスが崩れた…。

その異世界人は剣を一振りするだけで最上位魔族の龍を切り殺し、魔法を唱えれば数十倍の威力を発揮して数週間で私達魔族をこの森に追いやったの」

「……」


異世界転生した勇者とやらの話をするリリスは悲しそうに、それでも本人にはおそらく飽くほど聞き慣れた歴史を僕に聞かせてくれた。


「……でもまだ魔族達も負けてなかった。特に私達魔王の一族は強かったから転生した異世界人とも何とか渡り合えてた。けど、人間たちはもっともっと異世界人を呼んで…その人たちにより強い魔法の開発や魔法道具の発明を行わせてパワーバランスはあっという間に均等に…ううん。…………魔族は、人間の餌になった」

「……え、餌?」


餌、糧。

それはどういう意味なんだろうか。

いくらお腹空いててもリリスみたいなの食べたいと思わないけど…。


「…そういう意味じゃなくて………、…あ、知性を持たない下級魔族は結構食べられちゃうんだっけ…?

いやでもそうじゃなくてね。魔族と人間の一番の違いは魔族は死んだ時『魔石』っていうのを生み出すってこと。

魔力の少ない人間でも魔石があれば強い魔法が使えたり、便利な魔法道具を使えるみたいで…その素材に私達魔族は人間に絶滅させられない様に管理されてる。そういう意味での餌」

「……」

「知性のある上級魔族…私みたいに話せたり強い魔法が使えたりする種族は一部の貴族とかいう金持ちの奴隷やペットにされたり、鎖で繋いで常に素材を剥ぐげるよう生きたまま監禁されてるって話も聞いたことあるし…」


理解はできても納得ができない。

いや、僕の価値観がまだ現代的だからなんだろうか。

リリスから聞く限りこの異世界はまだ武力争いも多くいわゆる近代化や産業革命のような文化が起きる前みたいだけど、それでも何だか僕の知ってる人間より野蛮な気がした。

……魔族であるリリスから話を聞いているから?わからない。

僕はもっとこの世界を理解しなきゃいけない気がする。


「優人は人間だよね」

「えっ…まあ…………うん…」


リリスが神妙な顔をして僕を見つめた。


「わたしは…」

「…」

「わたしが魔王としてちゃんと覚醒できたら、私は人間の世界を滅ぼしたい。優人は…本当にそんなわたしを守り続けるの?」

「………」



……難しい話だった。

僕には彼女を守らなきゃいけない理由があっても、守る理由がなかったから。

そもそもこの世界のことをよく知らない僕は、簡単に答えを出しちゃいけない。

それがわかったから何もいえずに、ただ黙ってリリスの後ろを歩いた。

他の異世界人たちも僕みたいに悩みながら異世界ライフを送ってたのかな、もっと小説家になろうの作品を読んでおけばよかったな…。

ふと、スマホを取り出す。

反応しない。

この世界に来てからスマホは故障したらしい。

……前の世界では知りたいと思えたことがすぐに知れたのにな。

なんて段々と余計なことを考えるようにして歩いているとさっきと景色が一変していることに気がついた。




「あれ…もしかして」

「やっと気づいた?もう森を抜けたよっ」


リリスにさっきの話の時のような緊張した表情は消えていた。

僕はもう少し、自分の未来を考える余裕ができたらしい。



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