46【魔法と問題児2】
「り、リリスちゃんと無事再開できてよかったですわぁ………」
まだぐりぐりのダメージが残っているのか涙目で頭を抑えるフランちゃん。
「うぅ…人間さんには魔法を教える代わりにぶつぶつ交換してたのです…この小麦粉とかすごく美味しいクッキーやふわふわのパンが作れるし……」
そう言って紙袋を持ち上げて見せてくれる。………レベッカにもあの小麦粉教えてあげようかな…。
「まあもうその事はいいや…。それより、わたしにも複合魔法の魔導書くれる?フランくらいしかあの魔導書覚えてる人いないし…」
「…あら?リリスちゃんはお母さんから教わってなかったの?」
「……お母様は私にはまだ無理って言ってたから…。でもわたしもっと強くならなきゃダメなの。………お兄ちゃんを支えるって約束したから…」
そう言ってちらりとこちらを見るリリス。いやもう十分支えられてる気がするけど…。
「でもリリス、さっき魔導書は異世界人に盗まれたって…」
「それなら大丈夫。フランは一度読んだ本を暗記できる【脳内書庫】のスキルがあるから。だから紙さえあればいくらでも魔導書を複製できるの」
一度読んだ本を暗記できる…!?め、めちゃくちゃ羨ましいスキル……。それがあったら僕も一浪せずに済んだのになぁ…。
「て言うかそんなスキル、魔法を使い放題になるチートスキルなんじゃ…」
「あーー…う、うん。普通はそうなんだけどねぇ…」
「魔法を自分で使うなんてナンセンスですわぁ!」
「……この子、魔法道具以外は認めないみたいな変わった子だから…」
「な、なるほど……」
「そのおかげで魔族の国から離れたところに住まされてますがそれなりに幸せなのでオッケーですわ!」
欠落適正の僕には何だか勿体無い話に聞こえるけど…
「それに、フランが使えなくてもこのスキルがお友達のリリスちゃんや誰かの役に立てればフランはそれで十分ですから」
彼女なりの信念もあるみたいだ。第一本人が幸せと言っていることに部外者が口を挟むことではないだろう。リリスもきっとそれに納得してるから「だからって敵の人間に魔法を教えるなあああ!」「ご、ごめんなさぁーいっ!」してなかったっぽい。
よ、よく友達でいられるなあ…。
「………ところでリリスちゃん、複合魔法はページ数が多いから明日でもいいかしら…?」
「…本当は?」
「さっき人間さんに一冊作っちゃって疲れたからもう寝たい……」
「1時間でお願い、フラン。わたし明日は用事あるから」
「ひぇえええぇぇぇ…」
そう言いつつシャッシャと機械的な動きで紙に文章を書き始める。見ていて惚れ惚れするくらい無駄がなくて綺麗な動きだ。
「……お兄ちゃんフランのどこ見てるの?」
「い、いや普通に技術だよ!?」
確かに少し前屈みで書いてるせいでちょっと胸元が際どい感じになってたけど見てはない!……ちょっとしか。
「…そ、そういえばフランちゃん。その一年前にここにきた異世界人って…」
「あぁ…その話なら実は覚えてないんですの…。【異世界人が来て魔道書を持っていった】事は覚えてるんですけどそれ以外のことは彼女のチートスキルで忘れちゃったみたいで…」
「…?彼女ってことは女の人だったの?」
「………あっ。そうだったかもしれませんわ」
話しながらもその手は止まらない。
…【魔族隷奴】に似た魔族を支配するチートスキルを持っている人がいるのかな…。
「…ところで、お兄様も異世界人なんですの?」
「えっ?」
「な、なんでお兄ちゃんがそうだと思ったの?」
「……うーん…雰囲気でしょうか。何だか私が会った人に似ている気がして…あとツノがすごく似合っていなかったので…」
しれっと人間バレまでしてる。僕に魔法をかけたリリスは不服そうな顔をしていた。
……僕に似ている…。気配や服装、そう言った部分の話だろうか。
「ご安心ください。フランもお友達が隠したいことは話したりしませんわ、お友達の秘密はフランの秘密です」
「そ、そうして貰えると助かるよ」
「……ねえ、何でフランまでお兄ちゃんの事お兄様って呼んでるの?この人は変態って名前がちゃんとあるんだから」
「変態はちゃんとした名前じゃなくて蔑称なんだけど!?」
「お友達のお兄様はフランのお兄様ですわ!」
「その理屈もおかしくない!?普通に僕のことは優人でいいから!」
「い、いや下の名前で呼ぶ人がこれ以上増えるのはダメ!!レベッカさんでさえわたし許してないんだからね!?」
「──あ、じゃあ優人お兄様…」
「もうお兄様でいいからっ!フランはお兄ちゃん争奪戦に参加しないで!!」
いつの間にかどこかで僕を景品にした戦いが起きているらしい。それ景品の許可はちゃんと取りましたか…?
「……あら、そういえばお兄様達今アルゲニブに住んでるんでしたっけ……じゃあもしかして…」
どうやら呼び名はお兄様でまとまった様だ。良かった、変態でなくて。
「先日アルゲニブで魔王が勇者を殺したって話を聞きましたが、それってリリス達なんですの?」
「え?……い、いや。…まあ、わたし達だけど…」
「あぁ、やっぱり。さっきの人間さんもそれで物騒になってきたからって防御魔法の本を取りに来てたんですが…でも変ですわね…革命派の方達は我々がやったって言ってたし…」
「あ、アイツらお兄ちゃんの手柄を横取りして……!」
「いやアレ僕は手柄だと思ってないからいいよ…」
僕としてはカズトの一件は失敗に近い忘れたい出来事だ。本当はアイツにだって死んでほしくなかったし…。
「……ねえリリス、フラン喉が渇いたからお茶を淹れてくださる?な、何も飲まなきゃ寝ちゃいそうですわ…」
「いいよ、道具は前来た時と同じ場所にあるよね?」
「…あ、僕も何か手伝おうか」
「ううん、お兄ちゃんは休んでて。ここまでいっぱい歩いて疲れてるだろうし…」
「…あ、じゃあお兄様はフランの頭を撫でてくださると…」
「ちょっとフラン!!レースに参加しないでってば!!」
怒りながらもリリスはカップやらの用意で手が離せない様だ。結構この家に来慣れているのか手際よくお茶の用意をしていた。
そんな彼女の様子を見ていると左手だけを動かしながらフランちゃんが僕の耳に顔を近づけてくる。
「…お兄様、リリスの身長じゃ今撫でても見えないでしょうから…お願いしてもいいかしら?」
「…えっ、で、でも…」
「大丈夫大丈夫、それにちょっとマジで刺激がないと眠いって言うか……」
「わ、わかったよ…」
リリスから見えない様にそっと手を伸ばして彼女の頭を撫でる。う、うわぁ…さらさらしてめっちゃ気持ちいい…。
彼女の方もとても心地よさそうに目を細めていた。………いやこれ寝ちゃうだろ。
「…でもよかったですわ、リリスが生きていて。まああの子が簡単に死ぬ訳ないとは思ってましたが…」
その心からの言葉に、本当に長い付き合いの友達であることが感じられた。
…リリスの事が知れたみたいで、僕も嬉しい。
「…でもお兄様見かけによらず強いのね…この数日で二人も異世界人を倒しちゃうなんて…」
「………え、二人?」
「あら、確か革命軍の方は二人の勇者が倒れたと言っていた気が────」
二人?どう言うことだろう…。少なくとも僕が戦ったのは一人だけだ、それとも革命派の嘘はアルゲニブの事だけで本当に一人は異世界人を殺したとか…?
一瞬、僕の手が止まる。それとほぼ同時に轟音と共に小屋の一部が吹き飛ぶ。
「ひぃぃぃ!リ、リリスちゃんごめんなさい!!お、お兄様の事は確かにちょっといいなとは思ってますが本当に奪うつもりは──」
「え!?わ、わたしが何!?て言うか今の衝撃は!?お兄ちゃんは無事なの!?」
ギリギリ僕らを掠める様に暴風が飛んで建物を破壊した様だ。…て言うかフランちゃんはリリスが原因だと思ってるみたいだけど流石にそんなことしないと思う……。
「───おっと…できれば裏切り者といえ一撃で魔石ごと砕いてあげたかったのですが……困りましたねえ…」
そんな声が聞こえて、見上げると。そこには青白い魔族が宙に浮いていた。どうやら彼が魔法でこの小屋を破壊したらしい。
「しかし、これは想定外の収穫……あそこにいるのは次期魔王候補、リリス嬢ではありませんか?」
友人の家ということもありフードを被っていなかったリリスが見つかってしまう。……まずい、まさかコイツ…。
「これは…革命派を名乗る以上は…戦って殺すしかないですか……困りましたが…」
「私の名は、バアル。今日は人間と交流を持っているそちらのフラン嬢を殺しにきたのですが、これはいい機会です。是非リリス嬢には、私に殺されて頂きます」
そう言ってその魔族は深く頭を下げたあと僕らに手を向けて巨大な竜巻をぶつけてきた。
【おまけ】




