45話【魔法と問題児】
樹齢千年はゆうに超えていそうな大きな広葉樹の下、この日陰の中の小さな小屋の主にリリスは用があるらしい。
入る前にリリスの【幻術:パーツイリュージョン】で僕の頭にツノを生やしてもらう。…おぉ、触れるのに重くない。不思議な感じだ。
ちなみにリリスの方は魔法を解いて久々にその黒いツノを露出させている。
「別にあの子は人間だからってすぐ襲う様な子じゃないんだけど……、一応ね」
「うん、用心するに越した事はないもんね。大丈夫だよ」
一瞬でも油断するととんでも無いことになるのは一週間前の事で痛いほどわかってる。魔王城からは離れているとはいえここはもう魔族の領地、人間がいるなんてバレたらどんな酷い目に遭うか……。
心の準備を整えて、扉にノックしようと手を伸ばす。しかし触れる直前にドアが一人でに開いた。どうやら向こうから誰かが開けたらしい。
「……わ!ま、上級魔族!?すいやせん!俺、すぐに出ていきますんで!!」
「えっ?い、いやちょっと…」
中から出てきた男性は僕らの姿を見るや否や逃げていってしまった。……て言うか今のって…。
「り、リリス。今の人間じゃなかった…?」
「…はぁ。やっぱりアイツ、人間と取引してるっぽい…」
男性の後ろ姿を見送りつつ、そんな話をする僕ら。人間と取引?いったいどう言うことなんだろうと考えていると後ろから声が聞こえてくる。
「──またお客さんですの?全く最近は随分と忙しくて………あら、リリスちゃん?」
「久しぶり。………フラン」
耳の長い褐色の魔族の女性が、部屋の奥から現れた。
※※※※
「まさかリリスちゃんが生きてるなんて、驚いたわ!魔族の幹部達はみんな貴方が死んだって話してましたもの!」
フランと言う少女に招かれて、僕らは小屋の中でお茶を飲んでいた。
外で見た印象より中はずっと広いらしい。見える範囲全てが木と本と不思議なオブジェで埋め尽くされたこの部屋は異世界のどこよりもファンタジーといった印象を受ける。
リリス以上僕未満、と言った小柄な魔族の女性はここで一人暮らしている様だった。
ショートボブの白い髪に金色のピアス。あまり人目を意識しない性格なのか肩やお腹、太ももなどその褐色の肌を露出させた格好をしている。体を纏う物は服とは呼べない様な純白の布を巻き付けているだけでその姿につい視線が向いてしまう。
…あと友人を変な目で見られる事に怒っているのかさっきからリリスに手の甲をつねられてとても痛い。
「………お兄ちゃん」
「い、いやごめん失礼なのは分かってるんだけど」
「…あら?お兄ちゃん??」
小さな囁き声だったがフランさんには聞こえた様だ。耳が大きい分音もよく聞こえるのかもしれない。
「リリスちゃんにお兄様なんていましたっけ?昔姉がいたと言う話は聞いたことあったけど……」
「え、リリスにお姉さんが?」
「そ、その話はいいから!お兄ちゃんのこともあとで紹介してあげる!」
何だか姉という単語に一瞬引っかかったがリリスに遮られてしまった。…昔のリリスの話とか聞いてみたかったのに。
「それより、フラン。人間に魔法を教えてるでしょ!?」
「ギクっ!………な、何のことでしょう?フランは人間なんて種族とは一度も話したことありませんが…」
「…じゃあさっきこの家から出ていった人は〜?嘘をつくならこの家燃やしたっていいんだよ…」
「はいすいませんフラン人間さんと取引してます………」
め、めちゃくちゃ折れるの早いな…。しゅんと萎れるフランさんを見て彼女達の関係性が多少見えてきた気がした。
「やっぱり!フランのせいでわたし達死にかけたんだからね!」
「……え、僕たちが?」
「そう!以前カズトって人が複合魔法を使ってたでしょ?アレはお母様が開発した魔族だけの技術だったの!しかもその魔導書を所持できるのはフランしかいないし…!」
複合魔法、あのハウリングボイスっていう魔法のことか…。そういえばリリスだけがあの魔法にいち早く反応していたのを思い出す。
「ご、ごめんなさい〜…。まさかお友達に害が及ぶなんて…」
「人間に魔法を教えたらそうなるのは当然でしょ!」
「うぅ……」
一方的にフランさんを叱るリリス。どう見てもリリスの方が小さいのに立場は逆みたいでなんて言うか微笑ましく思える。
「で、でも仕方ないんですのよ!実は一年くらい前に異世界人がここに来て無理やり私の研究レポートを持っていっちゃったんですもの…」
「異世界人が!?……て言うか研究レポートって?」
「フランはこの小屋で魔法道具の研究をしてるの。まあ変なのがほとんどだけど…」
と、部屋の妙なオブジェ達を指差すリリス。これ全部魔法道具なのかな………。
「…い、一年前ならまだお母様もギリギリ話せたでしょ。何ですぐ魔王城に報告しなかったの?」
「……えへ、ちょっとめんどくさくて…」
「………(ブチっ)」
「リリス落ち着いて!無言でフランさんに火球を向けるのはやめて!!」
あわや大火事になるところをギリギリで止める事ができた。……しかしこのフランさんちゃん、親近感さえ覚えるいいキャラをしてるなあ……。
「そ、それに魔王様の近くにいたリリスちゃんは知らないでしょうけど…一年前のあの辺りから革命派が活発になってて…。あんまり魔族の国にも近づきたくなかったのよ」
「革命派?」
僕が疑問を唱える。
「あぁ、魔王の世襲制に意義を唱える方達ですわ。…って言うか今はその方達が魔王を名乗っているけど…」
「はぁ!?アイツらが!?」
「ええ、以前フランの家にも来て「17代魔王候補は我々が殺した、次からは革命派がこの国の指揮を取る」なんて話をしていきましたけど……あ、でもその後お家の中に無理やり入って中を探してたのは今思えば…」
「やっぱり、アイツらわたしを探してここにきたんだ…。て言うか勝手に殺されたことになってるし!」
なるほど、つまりその革命派っていうのがリリスの命を狙う魔族の人達なんだろう。……もう殺した事になってるけど。
「あの方達本当に酷かったのよ!?フランの寝室まで無理やり入って散らかすだけ散らかして…!本当にもう最近の魔族達の民度は最低ですの!…えへへ、それでそれ以来普通の人間さんともちょっとやりとりをする様になって…」
「お前ええええええええ………!」
「ご、ごめんなさい…!だってリリスちゃんはもう死んだって聞いてたし〜!フランも寂しかったんですの〜!」
フランちゃんの頭をぐりぐりと拳でプレスするリリス。…まあ放火みたいな重罪じゃなきゃいいか。
微笑ましい少女達のじゃれあいを見つつお茶を飲み干した。




