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44話【依存と帰郷】


異世界生活十六日目。


病院と違ってこのアパートは隙間風が入ってくるのか朝も寒い。

布団から出たくないくらいだったけどそうもいかないので震えながら起き上がった。家の中ではあるがコートに袖を通す。

このコートは入院中リリスが僕のためにと作ってくれたモノだ。ところどころほつれたりしているがそれでもすごく暖かい、元々は胸元が大きく開いたデザインだったが今は黒い布を繋げてフードがついている。元前がワンピースとは思えないくらい格好よく加工されていた。


「……さて、久々のお家だ」


よく見れば色々なところに埃が積もっている、掃除をしてお湯を沸かして朝ごはんを作ってリリスを起こす。入院前の、僕の日常が帰ってきたって感じがした。



※※※※



「あのですねお兄ちゃん、今日は故郷に帰ろうと思ってます」


パンを頬張りながらも、真剣な顔で妹はそう言った。…………故郷?


「え?故郷ってもしかして魔族の国に行くってこと?」

「うん、ちょっと用事があるんだよねえ」


用事かあ、以前リリスが魔族の国の方が人間の国より厄介といっていたのを思い出す。リリス、魔王の娘は魔族たちにも狙われているためだけに心配だ。


「えっと、僕もついていっていい?スキルが使えない今役に立てるかはわからないけど…」

「うん、勿論。あいつにお兄ちゃんのことも紹介したいし!」

「あいつ?」


友達だろうか、そういえば魔族の国にいた頃のリリスの話はあまり聞かない。先代魔王が力を失ってからは信頼できる魔王の配下達も命を狙ってきたとか悲しそうな話が多くてあまり聞かない様にしていたと言うのもある。

そんなリリスが紹介してくれる友達がいるならぜひ挨拶しておきたいところだ。


「あれ?でも人間の僕が魔族の国なんて行ったら……」

「それも大丈夫、私のパーツイリュージョンでお兄ちゃんのこと魔族っぽくしてあげるから。知能のない下級魔族達は戦わなきゃだけど…まあ私が退けてあげるから安心して!」

「う、うん。ありがとう…」


魔族の下級と上級、基本それらは知能があるかどうかで分けられている。

もっと言えば上級魔族は魔法が使えるとか色々あるらしいけど下級にも簡単な魔法を使う奴もいるみたいなので基本は会話ができるかどうかが基準点みたいだ。

それでも力もあって莫大な魔力も持っていると言う点で上級魔族は人間より圧倒的に強い。おそらくリリスの友達もその上級側なんだろうけど僕は大丈夫かな…。

魔族の国では本当足だけは引っ張らない様に気をつけよう……。



※※※※



街を出て三時間程、そろそろアルゲニブの敷地を出る頃だ。

地縛の呪いをかけられていたことを思い出してちょっと緊張したがもう術をかけたカズトはもういないしステータスからも呪いの項目は消えていたし多分大丈夫だろう。多分…。


「さて、この辺りで右かな」

「…右?魔族の国はあっちじゃないの?」


そう言って僕は以前僕らが出会った森の方を指差す。


「あっちは魔王城の方だね、流石にそんなところわたしが行ったら一瞬で捕まっちゃうよ。これから行くのは魔族の国でも離れたところにある小さな小屋」

「小屋?」

「うん、そこにともだ……まあ友達?が住んでるの。用事っていうのはその子に聞きたいことがあって」


聞きたいこととはなんだろうか。というか今友達から知り合いに言い換えたような気がするけど...。

…まあ深く聞くのはやめよう、あんまりデリケートな部分に触れるのは良くない。

そんな事を考えていると後方から何か足音が聞こえる事に気がついた。

後ろを振り返ると大きなコウモリの様な魔物がこちらを目掛けて飛んできている。


「...!リリス、魔族だ!」

「え!?っ......ファ、【火術(フレイア):ファイアボール!!!】」


リリスの撃った火球は一直線に魔物へ向かう。が、ひらりと躱わされた。


「キラーバット...!?そっかあいつ魔力を感知できるんだった...」


回避される事を想定していなかった様でその場に彼女は固まってしまう。魔物の間合いに入ったのかさっきより加速してこちらに突っ込んできた。!......まずい......っ!。


「【零式(ぜろしき):プチ紫電一閃(しでんいっせん)!!!】」


僕の踵の先から衝撃が放たれリリスを押し倒すように吹き飛ぶ。ほんの数メートルしか跳べない上にほぼ確定で体勢を崩すデメリットだらけの技だがなんとか敵の攻撃を回避できた様だ。


「リリス!任せた!」

「…っ、【火術:ファイアランスっ!】」


宙に出現した赤い魔法陣から無数の火の矢が飛び出し魔獣を突き刺す。そのまま地に落ちると煙と共に燃え尽きて石だけがその場に残った。


「……うわあ、びっくりした…。ていうか魔石も久々に見たなあ」


鈍く光る黒い石を拾いまじまじと観察。やらなきゃやられる、弱肉強食の世界に足を踏み入れた実感が今更湧いてきた。…半月前ここを抜けて街につけたのは結構な奇跡だったんじゃないだろうか…。


「……あれ?リリス?」

「………え?あぁごめん!ちょっとぼーっとしてて…」

「?…だ、大丈夫?」


何だか心ここに在らずといった顔だ。もしかしたら具合悪いのを隠しているとか?もしそうなら外の世界をそんな状況で歩くのは自殺行為だし街に帰ってゆっくり寝かせてあげたいところなんだけど…。


「…ねえお兄ちゃん。今の魔法、いつ覚えたの……?」

「え?…あぁさっきのプチ紫電一閃?実は入院中少しだけ練習してて、実戦で上手く発動できて良かったよ。そういえば怪我はなかった?」

「……うん、だ、大丈夫……」


何かを考えている様で俯いている。押し倒した時衝撃が入らない様頭まで腕を回したがそれでもどこか怪我をさせてしまったのだろうか。


「だ、大丈夫って…なんか顔色が…」

「……もうちょっとで着くから、…だからお願い」


……そう向き合って頼まれると弱い…。…心配だけど仕方ない、次襲われたらとにかくリリスを抱えて全力で逃げるとしようかな。


「…ねえお兄ちゃん…。わ、わたし役に立ててる?」

「………え?いや、リリスがいなきゃ今の敵だって倒せなかったくらいだけど…」

「そ、そうだよね…!お兄ちゃんには私が必要だよね!?」


何か言い聞かせるように言っている様だったけど…あまり大声を出すとまた魔族に襲われそうなので頭だけで返事して、僕らはまた歩き始める。

しばらく進むと、大きな木の影に三角屋根の小さなお家が見えてきた。




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