41話【変態と仕事】
「…………で、どうしたらいいと思う?」
「いや知らねえよ……」
病院から帰宅した僕は、今日もギルドにいたあのロリコン騎士【ドラン・シグルド】に入院費用の相談をしていた。
先週の病院内での騒ぎの一件は僕の知らない所で色々と上手くまとめてくれたらしい。
しかしその後も何やかんや事件だのに巻き込まれていたらしく実は彼とは一週間ぶりの再会でもあった。
ちなみに数日前に王国騎士を脱退し今の肩書きはただのA級冒険者になっているとのこと。もしそれが、僕らが異世界人との戦いに巻き込んでしまった事が原因なら多少申し訳ないのだが…。「いや、魔王の娘といつか結婚するのに王国騎士なんて肩書きあったら邪魔だろ」なんて本気で言っていた。マジで逮捕されないかな…。
とはいえリリスの正体には目を瞑っていてくれる様だ。…正直なところ、それはすごく助かる話だった。できればドランとは戦いたくないし…。と、僕のここまでの独白もほどほどにして…。
「いいの!?このままじゃ僕病院で眼か耳を持ってかれるんだよ!?」
「安心しろ、仮に目も耳も命も取られる事になっても俺がリリスちゃんの面倒を見てやる」
「そん時はお前も道連れに連れていってやるよ…っ!」
「あんた…ギルドで何を物騒な話してるのよ……」
互いの肩を掴んで一触即発な雰囲気の僕らに話しかけてくれたのは、僕のよく行くパン屋さんのアルバイト【レベッカ・リリアン】さんだ。
たまたまどこかで僕の入院の話を聞いたらしく、何度かお店のパンを持ってお見舞いにもきてくれた。数少ない僕の友人。
彼女もギルドに用事だろうか、せっかくだし相談をしてみようかな。
「聞いてよレベッカ!二週間で何とか十万ゴールド集めなきゃ僕の色々がヤバいんだよ!」
「え、えぇ…何、アンタまた変なことに巻き込まれてるの?。……って言うか退院したならすぐ顔見せに来い!!」
「……あっ、そっか。ごめん色々と心配かけて………えっとお見舞いもありがとう。嬉しかったよ」
「い、いや心配はしてないけど…!お見舞いだって暇だったから行っただけだし!」
実はここに来る前パン屋さんに行ったんだけど店長さんに今日は休みをとってるよと言われて会えなかったのだ。
まあ今無事退院の報告をできて良かった。
「…あ、そうだレベッカ。何か二週間でがっぽりいけるバイト知らない?レベッカならそう言うの詳しそうだし」
「そんなバイトあったら私がしてるわ…」
「Aランクの依頼ならたまにそんくらいのもあんだが滅多にないしなぁ」
「て、て言うか僕の実力じゃAランクの任務死んじゃいそう…」
Bランク以上の依頼はほとんどが上級魔族や指名手配犯の討伐みたいな危険な依頼ばかりだ。
僕じゃ到底こなせると思えない…。
「ところで優人。その話妹ちゃんにはちゃんと相談したの?今日は一緒じゃないみたいけど」
「リリスなら家で寝てるよ。…て言うかここ最近ずっと僕のお世話してくれて疲れてるみたい。それもあって相談しづらいんだよね…」
「そう言う話こそちゃんとしとけよ…」
「ドラン様の言うとおり家族にはちゃんと言ったほうがいいと思う…。私もパパが借金隠してたら怒るし」
二人とも同意見みたいだ。
うーん…帰ったらちゃんと話してみようかな…。
「…じゃあ今日リリスが起きたら話してみるよ、二人共相談聞いてくれてありがとう」
「ま、お前でも同行できそうな任務がありゃ声かけてやるよ」
「い、いざとなったら私もお金貸してあげるから…ちゃんと言いなさいよ」
そんなやり取りを終えて僕はギルドを後に、図書館へと向かった。
時刻は2時ちょっと、この時間帯ならまだ彼女はいるはず…。
「………昨日アイツの退院祝いするために休み貰ったって言ってなかったか?」「い、いいんです…。あいつ今日は忙しそうだし………」
後ろから何か二人の声が聞こえた気がするけど、よく聞き取れなかった。
※※※※
「あ、いたいた…。こんにちはアンリ」
「……あ、変態…。こんにちは」
ぺこりと頭を下げて挨拶をした白い小動物の様な少女は僕の魔法の師匠、【アンリ・マルル】だ。今日も眠たげな表情で図書館の本を読んでいる。
彼女も入院中何度か僕の様子を見にきてくれたのでそのお礼を言いに来た。
「えっと、この前はお見舞いありがとう。心配かけてごめんね」
「ううん…大丈夫…それより」
「………えっ?」
椅子からゆらりと立ち上がると僕に顔を近づけてきた。
虹彩の見えるくらいぐっと寄られて流石に色々と恥ずかしい。…う、あと可愛い…。
「………見せて」
「えっ?」
「……………約束、見せてくれるって」
や、約束…?…………あ。
「あ、零魔法…」
「…そう、基本ができる様になったって言ってたでしょ。……だから見せて」
そういえば前お見舞いに来てくれた時に退院したら僕が使える様になった魔法を見せるって話したんだっけ…。
※※※
図書館を移動して、僕らはその傍の路地裏に来ていた。ここもすごく久々な気がする。
て言うかカズトと戦って以降ずっとベッドに居たせいで使ってなかったんだけど大丈夫かな…。
緊張を抑えて、僕のカッコ悪い構えをとる。重ねた両の手の中心に意識を集めて……。
「【零式:胸骨圧迫っ!】」
無事魔法は発動した様で僕の掌から放たれた衝撃が練習用に設置した木の板を貫いた。反動で後ろに倒れそうになるが何とか踏みとどまる。
よ、良かった…!失敗したらまたこの子にスパルタ指導を受けるところだった…!
「……うん。…及第点、かな…」
どうやらアンリさん的には大満足とはいかなかったらしい。うーん、厳しい。
「…いま、発動までに何秒かかったか覚えてる?」
「え?発動までに?…えっと……6秒だったかな」
「…それじゃあ攻撃が間に合わなくなる……。だから、今週はもっと基礎体力をつけてすぐ集中できる練習を……」
「……あっ。ごめん…今週なんだけどもしかしたら修行できないかも。ちょっと忙しくなりそうで…」
「…?お出かけ?」
「うーん、実は十万くらいお金が必要になっちゃって…その工面にお仕事探してるんだよね」
「じゅ、じゅうまん………」
珍しくアンリがその目を大きく丸める。やっぱり大金だもんなあ…。
「………なら、今度私とダンジョンに行こ。……頑張れば一日で一万ゴールドくらい稼げるとこ、知ってるし…。多分変態でもギリギリ戦えるとこ…」
「え、本当に?」
「……それにそこなら、いい練習にもなる…」
…多分その練習に付き合わせるのが本命な気がする。
でも今はそれも稼げて修行にもなる一石二鳥にチャンスだ、断る手はないだろう。
「うん、じゃあ同行任務をお願いしようかな」
「……えへへ、じゃあ明後日。…ここで待ち合わせね」
そう約束をして、アンリは帰っていった。今日はお姉さんと一緒にお出かけする用事があるらしく、スパルタ指導はまた今度みたい。ドMの素質がある僕としてはほんのちょっぴり寂しい。
「うーん、まだ病み上がりでもあるし…。僕も帰ろうかな」
「お待ちくださいそこのお姉様!」
そう独り言を溢し路地裏を立ち去ろうとしたところで、どこからか声をかけられる。
…………ん?お姉様?。
「いやあ!聞きましたよ聞こえましたよ!!お金に困ってるみたいですねえ!実はいい仕事あるんですよ!!」
「え!?い、いやそうですけど…だ、誰!?」
嫌にハイテンションな女性が僕に語りかけてきている。な、何だ、すごく怪しいぞこの人!!
三つ編みにした髪の毛をぴょんぴょんと跳ねさせながらきらりと光る丸眼鏡をかけたその女性は僕に近づく。
「今ならちょーっとウチとお話しするだけ!30分で五万!!!いいお仕事だと思いませんか!?」
「30分で五万!?………い、いや怪しすぎる!て言うか僕お姉様じゃなくて男だし…っ!」
「ならもっと大丈夫です!!男の娘!うーん、いい記事になりそう!」
「き、記事ぃ!?…いやほんとそう言うの間に合ってますから…!」
「あ、あぁ!ちょっと待って!もう少しウチの話を────」
いかがわしすぎる!何なんだこの人昼間から、異世界ってこんなヤバい人がいるのか…。
逃げる様に路地裏を去ろうと歩き始めたところで、何かが足を掴んで僕の歩みを止める。
「え、な、何これ!…タコ!?」
下を見ると石畳から青い蛸の足の様なものが生えて僕の足首を掴んでいた。これは………魔法?
「あはは…!待ってください吉田優人くん。もうちょっと話を聞いてもらえませんか?」
そう言うと女性はまだ名乗っていないはずの僕の名前を読呼んで、僕に一枚の名刺を渡してくる。
書いてあった文字を読んで、僕の鼓動が一気に早くなった。
「…そこに書いてある通り、ウチの名前は東雲コノハ。情報の勇者と呼ばれている異世界人です」
────東雲、コノハ。…………異世界人…っ!?。
「どうですか吉田くん。30分で五万、ちょっとお話しません?」




