40話【幕間】
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素敵なニュースが届いた。
どうやら和人くんが死んだらしい。
アルゲニブは比較的平和なとこって聞いてたけど、油断して上級魔族にでも殺されちゃったのかな?
彼ならそれもありうる。
終わりの日ももうあっという間に近づいてるし、私もそろそろ聖地を離れなきゃいけない頃かもしれない。
横たわる破壊の勇者…ユキちゃんの死体から剣を抜いて、べっとりとついた血をきれいに拭き取る。
こんな素晴らしい世界、まだまだ楽しまないとね。
私はゆっくりと歩き出す。
空を見上げると、門出を祝う様に虹がかかっていた。
「あと、十人────」
自然と笑みが溢れていた。
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異世界生活十四日目。
魔王がアルゲニブを襲ってから七日が経過してた。
魔王っていうか僕がやったんだけど…。
あっという間に時は流れて、魔族との全面戦争が始まるかもしれないなんて人々の噂ももうほとんど消えかけてる。
今じゃそんな話題を叫んでるのは新聞屋くらいだ。
三日前から、この街を魔王から救った「鎖の勇者様」のその最期を弔う祭りが行われていた。
この異世界において冒険者の死とは盛大に行うものみたいだ。
どこからかバーベキューソースの焦げた香りと西洋とかトルコ方面の…いわゆる神楽の音が聞こえる。
そんな街の一大イベントを、僕【吉田優人】は、病院の屋上から眺めていた。
「はぁああああああ………退屈だぁ…」
入院生活七日目、今日も今日とてすることがない。
あの大事件の後、一応家に帰ってから傷の応急処置は施したのだが…どこかで良くない菌を貰ったらしく僕は高熱を出して倒れてしまった。
回復魔法のある異世界でも、病気とかそういうのは即治療とはいかないらしい。
ていうか入院初日の高熱状態でステロイド点滴されたんだけどマジで殺されるかと思った。回復魔法があるせいで逆に医学が雑になってる気がする…。
ふと見上げると遠くの空に虹がかかっているのが見えた。
わあ、綺麗…。
「おにいちゃああああん!!!」
屋上の扉を破る音が聞こえる、うぅリリスが戻ってきたらしい…。
「まだ入院期間なんだから寝てなきゃダメでしょ!!また倒れたらどうするの!」
「い…いや流石に少し歩いたりしないと逆に不健康っていうか…」
「また屁理屈を言って!!人間は治りが遅いんだからちゃんと病室に行くよ!」
「にぃぃ…」
僕より二回り以上小さい少女に抱き抱えられる。
うーん、どうも倒れてからと言うもの過保護になっている気がする。既に肩の傷も塞がってピンピンしてるんだけどなあ…。
「退院なら明日できるんだし今日はまだゆっくりしてて!わたしが絵本読んでてあげるから!」
「いやリリスの選ぶ絵本偏ってるし…」
「大丈夫!これまで読んだ魔法の歴史とかじゃなくて今日は初代大魔王のヨシュア様についての論文を持ってきたから!」
厚さ20センチはある大きな本を僕に見せてくる。この子は挿絵さえあればどんな辞書でも絵本呼びしちゃうのでここ七日間難しい単語が常に僕の頭をリフレインしている、助けてくれ。
「て、ていうかリリスお祭りはもういいの?ずいぶん早く帰ってきたけど…」
外の鈴や「鎖の勇者」の偉業を謳う歌を聞いてずいぶんそわそわしてたから遊んでくる様に僕が促した、確か十五分前の事だったと思う。
その隙に屋上でちょっとストレッチでもしようと思ってたのにあっという間に帰ってきてしまった。
「うーん、魔族の私が勇者の歌とか聞くのはなんか違うし、屋台も出てたけどお金ないから…」
本当に貧乏で申し訳ねえ……。
…ん?でもなけなしの200ゴールドからその半分の100ゴールド、日本円換算で約1000円を持たせたはずだけど…
「……あと見てない間にお兄ちゃんが倒れてたらやだし…」
「リリス……」
ここ最近何度も聞いた言葉だ。
僕が入院するとなった時もお医者さんに随分わがままを言って、僕の病室の空きベッドを使わせて貰い毎日そこで寝ている。常に僕を見守ってくれてる感じだ。
…まあ、あのボロアパートに一人にするよりは僕も安心なんだけど…。
ここまで心配させてしまっているのも僕が頼りないせいだろう……もっとしっかりしなきゃ…!
「あ、そうだ。お…兄ちゃん今日が何の日かわかる?」
「……え、今日?…………えっと、お祭り最後の日?」
他に何かあったっけ。アンリがお見舞いに来る日は昨日だったし…。
しっかり思い出せ…!何か用事を忘れてたのだとしたら本当に僕がダメダメすぎる…!
「…………わたしとお兄ちゃんが会って二週間目の記念日なんだけど…」
「…え、あ、あぁ。そっか!ご、ごめんごめん」
「本当に忘れてたの!?ありえない、一週目の時はお祝いできなかったから二週間目は祝おうって言ったじゃん!」
「そ、そうだっけ。ごめん………」
そ、それってわざわざ記念日にするほどの事なのかな…。
でも魔族の国だと出会いを大事にする文化があるのかもしれない、メモメモ。異文化はちゃんと覚えていかなきゃだからね。これはちょっとめんどくさい文化だけど。
「……まあお兄ちゃんがそう言うの鈍いって知ってるからいいけど…もう」
渋々という感じに納得してくれたらしい。言いつつリリスは手の紙袋から何かを取り出す。
「…はい、ホットドッグ買ってきたから。これ一緒に食べてくれたら許してあげる」
「おお……!久々の病院食以外の食べ物だ…!」
「えへへ……さっき窓から見えて気になってたの。先生に見つからない様にこっそり食べようね」
なんてできた妹なのだろうか…自分の不甲斐なさに涙が出る。
退院したらいっぱい僕が美味しいものを食べさせてあげるからね…!
「…ところでリリス。そろそろ自分で歩けるんだけど…」
「まだダメ!!!」
うーん、不甲斐ない…。
二人でホットドッグを食べて本を読んでもらってお話しして…。
僕の入院生活最終日はあっという間に過ぎていった。
※※※※
「それじゃあ吉田さん、退院手続きをしますのでこちらにどうぞ」
「あぁ、はい」
入院スペースの下の受付で手続きを済ませる。リリスは忘れ物がないかお部屋を見に行った。
手渡された紙に今日の日付といくつかのチェックマークをつけて提出すると「はい、それでは退院おめでとうございます」と言って看護師さんから何かの紙を受けとった。
何だろう?
【入院費用請求】ーーーーーーー
100000ゴールドを二週間後までにお支払いください。
尚支払いが確認できない場合、十年間無償で当院のスタッフとしてその給与を返済に充てることをご了承ください。
アルゲニブ第三病院
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「…………………じゅ、十万ごおるど?」
日本円にして100万円。ちなみに僕らの所持金は100ゴールド、その千分の一だ。
「え、あ、あの!この国の保険とか適用されてないんですか!?入院するときに聞いた金額よりかなり高い気がするんですが!!!」
と、この国にろくに税金を納めてもない僕が聞く。
すると看護師さんは僕の答えが予想外だった様でキョトンとした顔で答えてくれた。
「え?い、いえ…妹様から可能な限り最高級の薬と回復魔法師を呼べと言うお話でしたので……それでも保険適用で本来の半額になっているんですよ」
「…………あっ。……………なるほど…」
そっかあ…。リリスがしてくれたのかあ……。
流石に善意からの行動を叱る訳にはいかない…。
「もし諸事情で支払えないとのことであれば労働返済する以外にも目、もしくは耳を賭けていただく方法もありますが────」
「い、いえ!大丈夫です!必ず返済しますから… っ!!!」
目か耳を賭けるって何だ!?よくわからないけど百万円の返済としては明らかに重そうだ。
「お兄ちゃん!忘れ物チェック終わったよ!さ、わたし達のお家に帰ろう!」
「………あ、うん……。…………はぁぁ…」
リリスが戻ってきて嬉しそうに声をかけてくれる。思わずため息を漏らしてしまった。
あれだけ心待ちにしていた退院だと言うのに僕の足は重々しくなっていた。
ど、どうしよう………。




