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39話【魔王3】

ーーーーーーーーーーーーー




僕から距離を置いて、反対の屋根の端に勇者が立っている。

距離は三十五メートルくらいだろうか、表情は見えない。

…何とかこの状況まで持ち込むことができた、しかしそれでも僕が彼に敵う物は何もない。


僕にはないけど、僕以外の貰った全てが、今は一番の武器になる。

……最後の戦いを、始めよう。


カズトが何かを叫んでいたが、何を言ってるのか(・・・・・・・・)わからない(・・・・・)ため返事を返さない。

幸い風が強いのでそのせいで聞こえないと思わせられたみたいだ。


「…ねえカズト!リリスを返してくれないか!?」


僕の問い掛けに肩を上げて笑っている姿が見える。

…まあ一応、聞いてみただけ。


僕は歩みを進めた。

話しかけて、意識を逸らして、煽って。

相手の思考を奪っていく。


彼が子供みたいな性格をしていたのは、薬草採集の一件でわかってる。

思惑通りその表情には明確な怒りが見てとれた。


そうやって何とか互いの顔が見える距離まで近づく。

ここで彼がその手の鎖を握りだしたので僕もここまでで止まってかがんだ。


…意表を突く、アンリに貰ったアイツの知らない方法で。

これが使える様になったのはドランのおかげだ。

地面に両手を重ねて意識する。これは父親から何度も教わった…心臓マッサージの構え。

僕には何もないけれど、僕以外の皆の力が僕を助けてくれる。

しっかりと屋根に手を付け、角度を合わせた。


「…【零式(ぜろしき):胸骨圧迫(きょうこつあっぱく)!】」


手を起点に僕の体はカズトの方へ吹き飛んでいく。

そのままぶつかると、彼が体勢を崩したみたいなので畳み掛けた。


左手は肩の傷のせいで力が入らない。

右手に両方の手の力を込める様に強く握り拳を何度も叩き込む。

頬に、鳩尾に。


「『ーーーーーーーーーーー!!』」

「っ…!」


身体ごと揺らす音の衝撃が飛んできて一瞬身体が硬直する。

ハウリングボイスを使われたみたいだ。

しかしその言葉も僕には意味を持たないただの雑音でしかないので、構わず顔面目掛けて追撃する。


異世界人だって斬れば血が出るし殴れば倒れる。

チートスキルがあってもステータスとやらが高くても、人間の身体である以上限界はあるんだ。

腰が抜けたみたいなので近くに落ちてた鎖を巻いて拘束した。

これで……。


「ーーーーーーーーーー!」

「……だからさ、何言ってるかわからないって言ってるでしょ。…日本人なら日本語で喋れよ」


数秒目を丸めて、口を開けて。

ようやくカズトが僕の秘密に気づいたのか顔から血の毛が抜けていった。

だから教えてみせる。


もう手が縛られてる以上ハウリングボイスも使えない、人間隷奴を使用してきたら耳を塞げばいいだけだ。

そうしてようやく彼も、日本語で僕に話しかけてきた。


「お前、異世界翻訳を解除したのか…!?」


……そう、これが僕の作戦。

異世界翻訳もスキルである以上オンオフがある。

これはリリスが僕のスキルをいっぱいいじったりしてる時に気がついた事だ。……だからこれはリリスのおかげ。


「…っ!!!………なら『この僕に』」

「っ……」


慌てて耳を塞ぐ。

…ここからは向こうもボクにわかる言語で話しかけてくる、慎重に交渉しなきゃいけない。

「死ね」の2文字でさえ僕は従わさせられてしまうのだから。


「……リリスはどこ?」

「…ハハ、いうと思うか!?」

「………言ってもらうよ」


鎖に巻かれた彼を足で小さな力で蹴る、すぐに屋根の斜面を転がった。鎖を引いて落ちない様にする。


「い、言わないなら落とす…。受け身が取れなきゃ君だって死ぬんだよ」

「………」


そう言うと黙って何かを考えている様子だった。

当然落とすつもりはない、けどそれを悟られるとこちらの交渉材料がなくなる。

必死に怖い顔つきをとって見たりするけど、難しい。


「………お前、アレが何か知っているのか?」

「……アレ?」

「ハハ、やっぱり知らないんだな。…本当、傑作だ。なんでこんなやつに…」


鎖を引く力が弱くなる。

でも油断はできない、こんな状況でも何か一つ変わるだけでやられるくらい僕と彼に力の差はある。


「…全部お前のせいだ。……今わかったよ、お前がこの世界を終わらせる本当の魔王なんだ」

「…………」


何を言っているのか理解できない。

…僕が、魔王?

確かにさっきはそう名乗ったがそれは演じただけで僕はただの人間だ。


「…良いか!勝った気でいるなら甘いぞ!ボクはあんな世界には戻らない!!あんなクソみたいなやつらに溢れた世界、全部偽物だ!ここがボクの世界なんだ!!!」

「!…………っ。な、何を…!」


(たわ)んだ鎖が急に強く惹かれる、身体を屋根の下に向けている様だ。

………まさか…!


「ま、待って!やめろ!僕はそこまでしたく──」

「ボクの結末は自分で決める!!お前みたいな何も知らない奴のせいで、またあんな思いをしてたまるか!!ボクは!!!!!!!!」

「!?…………カズト!!!」


僕の手から鎖が抜け落ちる。

それと同時に、屋根のケラバを境にして彼の姿が消えていった。

慌てて身を乗り出して下を見る。


「っ…………」


そこには、鎖に包まれた血の塊が落ちていた。





屋根からギルドの上の階にある窓に入り、何とか下に降りる。

幸いもうみんなどこかへ避難しているらしく中には誰もいない様子だ。

受付にあったカーキ色のズボンをとワイシャツと救急箱を拝借してすぐに外へ飛び出しカズトを探す。


まだ、まだ助けられるかもしれない…。


路地裏に入るとすぐに彼は見つかった、さっきギルドから持ち出した小さな木箱を構えながらすぐに近寄る。


「……………あ」


…近づくと、後頭部が卵の様に割れているのが見えた。

……………呼吸も、脈動も感じなかった。

代わりに彼の口から一頭の黒い蝶が羽ばたき始め、僕の胸の中に吸い込まれていく。

………今のは、一体……。


「いったい、これはなんですか………?」

「……っ」


いつのまにか僕の後ろに、水色の青い髪の女性が立っている事に気づく。

彼女は駆け寄ってきてその血溜まりの中に膝をつけた。


「あぁぁカズト様っ…どうして、どうしてこんな…!」


アイツの知り合いだったのか、真っ白で綺麗な服が血で汚れるのも厭わず強く彼を抱きしめていた。


「……貴方が、見つけてくれたんですか……?」

「………。……………はい…」

「魔王は………どこに…」


涙を浮かべる目に、思わず全部明かしたくなる。

胸の中の全部を晒したくなるその心に目を逸らして、答えた。


「……魔王は、その魔王の妹っていうのを連れて帰って行きました。……もう街にはいないみたいです」

「…………そうですか。…じゃあカズト様は、この街は守り抜いたんですね」


静かに、女性は泣きながら彼の頭を撫でている。

何も答えられず、無言のまま数分の時が流れた。


やがてまたギルドの周りに人が集まる音が聞こえる。

ハッとして自分のすべき事を思い出した。


「…あ、あの。勇者様に秘密のお部屋なんかは知りませんか!?どうしても……えっとその、彼に返してもらわなきゃいけないものがあるんです」


一瞬、女性は冷たい目で僕を見つめたが、表情を変えずに少し離れたところにある扉を指差した。

どうやらもう会話する気はない様でまた手を下ろしてカズトをしっかりと抱きしめる。


僕もそれ以上何も言わないでその場を去って扉を開けた。


いくつかの階段をゆっくりと下る。

身体に痛みが戻ってきた、足を動かすたびに肩が痛む。

扉の先には大きな部屋があった。

壁にはダンジョンで見た光る石が埋め込まれている様で、十分に視野が確保されてる。

中央の綺麗な大理石のテーブルに彼女を象徴する赤色の服が見えた。


「っ……リリス!」


駆け寄って小さく揺らす。

切られた腕は再生が終わっている様で白く小さな手が、何事もなかったかの様にしっかりと生えていた。


「っ………あ、あれ……?お兄ちゃん…?」

「よ、良かった…。本当に……っ」


彼女を縛る鎖を解き、抱きしめる。

普段より体温が暖かく感じた。


「……!だ、大丈夫お兄ちゃん!?なんか身体中ボロボロになってる…!肩の血とか、腕の真っ赤な痣とか!!」

「う、腕のは君にやられたやつだね…」


寝起きで頭が回ってないのかボケてるのかちょっとわからない…。

とにかくリリスの方は大きな怪我などはなさそうだ。


「よ、良かった…カズトに何か変なことされなかった?どこか痛いところはない?」

「………あ、そっか。わたしあの時攫われて……………っ!アイツ、カズトは!?」


大体の状況を思い出したらしい。

跳ねる様にテーブルから飛び降りて僕を守る様に立つリリス。

僕はそんな妹の上に頭を置いて、できるだけ優しい声を作って答えた。


「……大丈夫、それはもう終わったから」

「………終わったって……もしかしてお兄ちゃんが?」

「……うん」


後味のいい解決ではなかった。

もっといいエンディングもあったのかもしれない、でもこれが僕の選んだ今だ。

彼女を救えた、僕の一つの現在。

後悔は…していない。


「…あのさ、リリス。あの時僕のために、その…捕まってくれてありがとう。………いやでもああいうのは二度としないでね!?」

「な、何言ってるの!お兄ちゃんが先に僕を殺してもいいとか言ったんでしょ!!」

「いやそれとこれとは別…っていうか僕がリリスを守る立場なんだから当たり前だろ!」

「わたしだって支えるって約束したんだから当然でしょっ!」


二人で感情を感情をぶつけ合う。

やれ妹なんだから兄なんだから奴隷なんだからペットなんだからなどの色々な単語が飛び交った。

それでもお互いが息を切らして少し黙ると、やっと終わったことに何だかほっとして笑ってしまった。

そんな僕を見て彼女も声を漏らして笑う。


「……ふふ、ほんっと。優人ってばかじゃん」

「ばかって…」

「…ねえ、ありがとう。…お兄ちゃん」


そう言って彼女が僕の手を取ったので、僕も握り返す。

誰にも見つからないようにそっと地下を出て、可惜夜(あたらよ)の下を二人で帰った。








【ステータスを更新しました】

吉田優人

 スキル、【人間隷奴(にんげんれいど)】を獲得。

  スキル【魔族隷奴(まぞくれいど)】【人間隷奴(にんげんれいど)】が上位スキル【絶対隷奴(ぜったいれいど)】へと変化しました。


挿絵(By みてみん)


これにて1幕が終わりました。

拙い文章をここまで読んでいただきありがとうございます。


キャラクターやシナリオへの感想、細かい文章や表現の違和感などご指摘あればぜひ頂けますと嬉しいです。


まだまだ優人くんとその小さな魔王の冒険を綴っていけたらと思いますのでどうかまた温かい目で読んでいただけると嬉しいです。


改めまして、ここまでの御精読ありがとうございました。

にぃぃ。


はやみ

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