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35話【対峙2】


カズトが、ついに僕らの前に現れた。


「……はあ…全くまいったな。ボクはあまり目立ちたくないんだ。…できれば一生影の大物として、世界を裏から回す人でありたいと思ってるくらいだしね」


そう言ってカズトは壁にもたれかかった。…目立ちたくない?

S級冒険者なんてしてるくらいだからてっきり持て囃されたいくらいに思ってると思ってた。


「…吉田君はマーベル映画見たことあるかい?今はもうフェーズ5はじまってんのかなぁ…ま、もう興味はないけど。…その中の自分で正体を明かしてるヒーロー達がどんな目に遭ってるかわかるだろ?」

「……なんだコイツ…一体何の話をしてやがるんだ…?」

「わ、わたしもわかんない…」


……僕にはわかる。異世界にはない映画の話。

確かに正体がバレた事がきっかけで不幸な結末を辿ったヒーローもいる。けどそれは…


「…それが大いなる力の責任、っていう奴じゃないの?」

「……ははっ!やっぱ異世界人同士は話が解るねぇ!」


僕の言葉に、カズトが手を叩いて喜んで見せた。

…………話してみれば意外と普通の人に見える、どこにでもいる男の子。

両手に持ったゴツい彼の武器であろう二対の鎖を除けば、少なくとも人を何人も殺している様な奴には見えない。

だからこそ、どうして…。


「どうしてお前は…、ここの世界の人達をこんな簡単に、殺せるんだ…」


二階の病室にいたあの女性の事、ギルドで死んだあの大男の事、教会の前に首だけの姿で晒されていた、あの魔族の事。

何でそんな事ができるのか。


「…は?別に良いだろ、こっちじゃ日本と違って毎日大勢死んでるんだぜ。治安だって終わってるところもある、ボクはただこの世界に順応して異世界ライフを楽しんでるだけさ」


そう言って、また肩をすくめて笑いながら話すカズト。

……………分かり合えないと、わかった。


「…おい変態、話はもう良いだろ。わかったのはこの目の前の男がイカれてるって事だけだ。……こんな奴に他の異世界人の事聞いたってどうせふざけて躱わされる。………コイツは今ここで俺が処分するぞ」

「……竜騎士かぁ。本当、厄介なのと手を組んでるなぁ…」


ドランを一瞥し、それでもまだ笑顔を崩さないカズト。

S級の称号に相応しく、随分と余裕を見せてくれる。こんな相手に勝てるのだろうか…。


「ビビってんなよ変態。コイツだって人間だ、斬れば血が出るし焼けば焼ける。つまり倒せば倒せんだよ!」

「…ば、バカの発想じゃん…」


しかし確信をついていない訳でもない。

いくら目の前の青年が最強の異世界人とはいえ、その身体は僕らと同じ人間のものだ。

攻撃を当てれば倒せるという点において、数で上回る僕らの方が有利にあるだろう。だから倒せば倒せる。

しかし問題は────


「……『全員、僕に従────』」

「!お兄ちゃん、ドランさん!耳を塞いでっ!!!」

「!!」


リリスの声を合図に僕ら三人は耳を手で覆う。

……問題はこいつのチートスキルだ。

声を聞くだけで相手を服従させる、最強のスキル。

それも今の言葉で確信したが僕の【魔族隷奴】より圧倒的に優れている点がある、それは…おそらくコイツのスキルの最大対象指定数は、僕よりも多いという事だ。

僕の様に同時に一人までしか隷属させられないモノとは違って、最低でも三人以上は支配できると見ていいだろう。

これに常に警戒しながら戦わなきゃいけないとなるとさっきのアドバンテージはほぼないも同然だ。

…しかしドランは、その手を耳から離して数歩前へと歩き進める。


「……はっ。声さえ聴かなきゃ良いんだろ?それなら全然問題ねえな」


何かズボンのポケットから取り出している。

あれは………耳栓?


「人間の声なんて、ドラゴンの鼓膜を裂く咆哮に比べたら可愛いもんだぜ!」

「!……ちっ」


ドランが剣を大きく振るが早いか、蒸気の塊がカズトの方へ一直線に飛んでいく。

腕に巻いた鎖を鞭の様に振り回してその攻撃を防がれてしまうも、跳躍して間髪入れずに剣を振り下ろして追撃を入れる。

カズトもその動きを読んでか小さなステップで躱し、騎士の横腹を目掛けて鎖の鞭を叩き込んだ。

が、既に体勢を立て直したドランが一撃を弾く。

お互いが交互に繰り出す攻撃に、金属同士が火花を散らせてぶつかり合う音が響き始めた。

め、目で追う事さえできない…!

以前任務に同行した時も思ったがドランはかなり強い。少なくとも僕ら兄妹が手を組んで挑んでも簡単にあしらってくれるだろう。


「っ…さすがはドラゴン殺し、竜騎士だ…!」


カズトの褒め言葉も、耳栓をしたドランには届いていない様子。

あまりにも激しい二人の攻防の嵐に、僕とリリスが加勢する隙もなかった。

やがて互いにの実力の均衡を理解してか、二人が同時に距離を取る。


「…見てろよリリスちゃん!今俺が君を狙うロリコンのストーカー野郎をぶっ殺してやるからなァ!」


鏡みろ鏡を。僕のツッコミも聞こえていてはいないみたいだ。

ドランに声が届かない事を理解してかカズトは僕の方を見据えて話をかけてくる。


「………ギルドで吉田君を逃したのは失敗だったなあ。あの時は君なんて取るに足らないいつでも殺せるただのE級冒険者に思ってたけど、どうも人との縁だけは強いみたいだね…」


話をしながらも、気を僅かにだって緩める素振りはない。

隙があれば一撃を加えようとリリスもその手を構えて魔法の用意をしているが、常にその間にドランを挟む様に立たれているせいで難しそうだ。

ただでさえ弱いのに怪我をして機動力の落ちた僕は、今は余計なことをしないのが一番の手助けだろう………。


「…まったく、本当ボクはとんでもないハズレスキルを引いてしまったなあ!声が届かなくなるだけで全く意味がなくなるんだから……この【人間隷奴(にんげんれいど)】はッ!」

「っ……お兄ちゃん気をつけてね。急に命令してくる可能性だってあるから手は常に耳のそばに置いてて…」

「う、うん…わかってる……」


腕を上げていると怪我した箇所から血が流れる様に溢れてきていた。

しかしこの手を下ろす訳にもいかないのでいつでも人間隷奴を塞げる様に用意しておく。

……ジリジリと間合いを詰めるドランを横目で気にしながらもカズトは声を掛け続けてくる。


「…けどさあ!そんなハズレスキルも、使い方で無双できる様になるんだから!……やっぱこの異世界は面白いよ!」


カズトが掲げた手に上に黄色と青色の光がゆらゆらと輝き始める。

何だあれは、何かの魔法…?


「………骨伝導、ってのは知ってるかなぁ!?頭蓋に音の振動を与えることで、難聴の人間にも大音量を聞かせる事ができるんだぜえ!!」

「……!!お兄ちゃんっっ!」

「!ッチ、まずい…!!!!」


やがて手の上の光が混ざり合い一つの光へと融合していく。

こ、骨伝導だって…!?まさか………!

…思考も刹那に流されて、カズトがその魔法を唱える。僕に向かって飛び込むリリスより、カズトの魔法を阻害しようとするドランの動きよりも早く、彼の言葉が音の速さに乗って僕らを襲った。


「────複合魔法!【音響術(ハーモニクス):拡声する声(ハウリングボイス)ッ!!】…『今から全員このボクに──────』」


胃液ごと揺らす様な声の衝撃を浴びて、僕の視界が暗転した。

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