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34話【対峙】


僕たちが会いにきていたルーベンスという女性が自殺をしていた。

…この死に方は、まさか。


すぐに先日のサニーの事を思い出す、……これがカズトのスキルの可能性は高いだろう。

僕はすぐに駆け寄って彼女を観察した。

前回(・・)の経験もあってか、嫌になるくらい頭の中はクリアになっている。…脈はない、しかしまだ僅かに身体から暖かさを感じることから死後そう時間が経ってはいない様だ。


…カズトのスキルはおそらく僕の【魔族隷奴】同様に、対象を視界に入れて命令を聞かせることが発動条件になっているはず。

その憶測通りなら、ついさっきまでここにカズトが居たということだ。

ついさっきまでここに………………っ!!


「ドラン!カズトだ!あいつがさっきまでここに居た!!!」

「っ!」


その言葉に反応してすぐにドランは剣を抜く。

…こんなところではできるだけ戦いたくないけど不意を突かれて一撃で落とされる事の方が避けたい。

僕らは廊下へ出ると近くにいた女性の看護師に話しかける。


「あのっ…僕らの前にルーベンスさんに会いにきた人はいますかっ!?」

「え、えぇ!?そんな事いきなり言われても…」


看護師も急のことに戸惑っている様子。

そこにドランが剣の鞘を突きつけて見せた。


「俺は王国騎士のドランだ。今そこの病室の女性が誰かに殺された、頼む。すぐに教えてくれ」

「え、王国騎士!?…えっとそれでしたら…」


鞘に刻まれた紋章の様な物が彼の身分を証明してくれたらしい。

彼女はまだ混乱している様だがすぐに何かを思い出す様に目を閉じて考え始めた。


「え、ええ確かに、ほんの数分前までいましたが……」

「!居たんだな!どんなやつだ!!」

「いましたがその人は──」


間違いない。その人物がカズトだ、さっきまでここにアイツが居た!!

もうすぐアイツの正体に手が届く。そう思った矢先──


「いましたがそれを聞かれると私は死ななきゃいケません」

「!?」


突然、今まで普通に話していた看護師が壁に頭を強打し始めた。

…またあの気配、僕にだけわかるカズトに支配された人間の気配を感じ取る。

!…アイツ、『自分について聞かれたら自殺する』様この人にスキルをかけたんだ…!!

僕らが止めようとする間もなく素早い動きで数回、頭を打ちつけた後看護師は頭から血を流して倒れた。

すぐに駆け寄って息を確かめる。

…まだ生きている、当然だが気絶すれば命令は実行できない。

とはいえ目を覚ました後また自殺する可能性を考えたら拘束しておく必要が────


「…っ!!ドラン、この人を手当てして縛っておいて!!」

「はあ!?お、おい。お前はどこ行くんだ!?」


ドランの言葉も無視して全速力で廊下を駆け出す。

カズトがここに居たことはわかった。

だがそうなるとまずい、今リリスは一人でいる!!!

もしまだこの院内にいたとしたら、僕らが来ていることに気がついたら、アイツが僕の妹を放っておくだろうか!?

…それにもしアイツが【人間を操るスキル】を魔族のリリスにかけようとしたら彼女の正体に気付く可能性がある…っ。

階段を一段飛ばしで駆け降りてすぐにリリスの姿を探す。


「…え、お兄ちゃん?」

「リリス!良かっ…────っ!」


リリスの後ろを、白衣を着た医者がメスを振り上げて立っていた。

────「吉田くンが大人しくしている限り、あの少女に手を出さなイよ」

以前サニーを操って僕と接触した時のアイツの台詞を思い出す。

余計な詮索をした事の罰にリリスを襲う気か……っ!?

必死に脚を動かす。

幸い僕らの距離はそう離れていない、リリスの方へ突き飛ばす様に、一直線に飛び込む。


「──ぐぁッ!!」


妹を押し出す事はできたが、代わりに僕の左肩にメス突き刺さった。

すぐに体勢を立て直し医者と向き合う。……この人からもあの気配を感じる…!


「お、お兄ちゃん…ナイフが……!」

「っ…だ、大丈夫」


当たりどころ、いや刺しどころが良かったのか血があまり流れてはいない。

激痛だが脳内を溢れ出るアドレナリンのおかげで何とか立ち上がれた。


「…私ハそこの少女に傷を負ッて貰わなきゃいけマセん。」

「……やっぱりこの人もアイツの操り人形か…っ」


初老の医者が胸のポケットからゆっくりとハサミを取り出す。

さっきより刃渡りが長いそれを食らいたくはないが…無関係な人に大怪我も負わせたくはない。

…気絶だ、気絶をさせればしばらく無力化できる…!


「これ、もしかしてカズトの…!?」

「うん!…けどこの人も被害者だ。何とか無傷で締め落とそう!」

「し、締め落とす?」


魔法ぶっ放し系魔族には絞め技という知識がない様だ。…僕もヘッドロックくらいしか知らないけど。


「と、とにかく気絶をさせて!できるだけ痛くない様に!!」

「…!それなら…!」

「ウオアア亜アアッッッ!!!!」


僕らの会話なんて意にも介さず医者が突進をしてきた。

…!どうする、まずはどこかで隙を見てあのハサミを奪わないことには何も───


「【幻術(シャドール):シャドーウォール!!】」

「ガッッッッッッ」

「…………」


リリスが160センチほどの高さに貼った魔法の壁に思いっきり顔面を打ちつけて後頭部から落下する。お医者さんはそのまま気を失った様だ。

……め、めちゃくちゃ痛そう……。

一応起こさない様慎重に気道を確保して手を首に巻いていた聴診器で縛っておいた。


「…っ!!お兄ちゃん怪我は!!?」


リリスは僕の怪我が気になった様ですぐにこちらへ駆け寄ってくる。

神経に問題がないか確認するため左腕と指をゆっくり動かして見る、良かった、大事にはなってなさそうだ。


「大丈夫だよ、でも早く抜かないと…筋肉が硬くなると後で大変なことにな痛っっっったあ!!??」

「ぬ、抜いたよ!!!それで次は!?本当に大丈夫!?」


………は、話は最後まできいてほしい…。

とりあえず医者が持っていた布を傷に押し当てた。


「カズトがまだ近くにいるはずなんだ…リリスは誰かそれらしい人を見てない?」

「えっと……ご、ごめん。わかんない…私ずっと階段の方見てたし……」


……仕方がない。それらしい人なんて言われても僕だってせいぜいアジア系の顔立ちの人間を意識して見るくらいのことしかできないわけだし…。


「……あっ。で、でもこのお医者さん、さっき外から入ってきて…」

「…外?」


……だとすると既に逃げた後だろうか。

下手をすればもう近くには………………、いや、待て…。

カズトがこの医者に『リリスを襲う様』命令をしたんだとすれば当然あいつは僕らを見た、という事になる。

そしてほんの数分前までこの病院の中にいた事、この医者に外でスキルをかけた事。

ここに入ってから僕らは誰ともすれ違ってはいない。

もし僕らを見たならまだ入り口の前に立っているその時だけ。それはつまり…

──────カズトの正体はあの青年だ。


ようやく、一人目の異世界人の正体を暴く。

これで僕らはお互いに顔が割れた。あとはアイツの居場所さえわかれば…。

「変態!リリスちゃん!無事か!?」

ドタドタと大きな音を立ててドランが階段を降りてくる。あっちも何とかなった様だ。


「まったく…いきなり行くなよ、ロープ状のものが全然なくて大変だったんだぞ…何とか靴紐で手足は縛れたが…」

「ああ、そっか。ここ病院だもん、ね…………っ」

「!お兄ちゃん!?」


話してるうちに肩がズキズキと痛み始め、布が吸いきれなかった血が床にこぼれ始めた。

どうやらアドレナリンの切れた僕の貧弱な身体が悲鳴を上げ始めたらしい、むしろここまでよく頑張ってくれた方だろう。

痛みに身を丸める僕をリリスが心配してくれる。


「お、おい!お前その傷……」

「だ、大丈夫。それより大ニュースがあるんだ、カズトの正体が………」

「ボクの正体が────なんだって?」


…その青年は堂々と病院の入り口を開けて中に入ってきた。


「…失敗だったなあ、あのルーベンスって子はダンジョンでしばらく魔石を稼いでもらった後、ボクにそれを全部渡して死んでもらう予定だったのに。…まさかよりにもよって君が助けてるなんてさあ…。」

「っ…………………………!!」

「しかも今度こそ始末をつけに来たところで君らとぶつかるなんて、これはもうある種運命じみたものを感じるよね……きっと神様が今日君を殺せって言ってるんだ」


姿が割れて追い詰められていると言うのに、その青年は悠々と振る舞っている、…まるでこの状況が何でもないかの様だ。


「だから決めたよ。今すぐ君から──魔王の欠片を手に入れてやる」


じゃらじゃらと鎖を鳴らしながら、その青年。異世界人のカズトが僕らの前に立ち塞がった。

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