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33話【怪我】


「………お前図書館にいたんじゃないのか…?」


また今日も馬車に揺られながら、あざだらけの僕を見てドランが聞いてきた。

僕にとって図書館は一種のトレーニングスポットになりつつある。


「…そのアンリって人本当にいい人なの?お兄ちゃん騙されてるんじゃない?」


僕の隣に座るリリスも心配している様で今日はずっとアンリを疑う様な事を言っている。

妹っていうより何だか僕の母親みたいだ。……ま、ママ?


図書館での修行とお勉強タイムを終えた僕らは一度自宅へ帰り、いらない荷物を置いた後でドランと合流した。

この後はアルゲニブの離れた病院へ向かい以前に僕らが助けた女性と会う予定となっている。

ちなみにリリスは帰ってすぐ買ったばかりの服へと着替えて今は赤のカーディガンに黒いショートパンツスタイルとなっていた。


一方僕の方も今朝とは少し変わっていつものボロボロの制服とアンリから「………明日までにこれを割れるくらいなっておいて…」と言って渡された数枚の木の板を抱えた不審者スタイルになってる。


……で、できるだろうか……。できないとまたお腹にあの零魔法を喰らってしまいそうで怖い…。

…魔法のことなら僕よりここにいる二人の方が詳しそうだしコツとかないか聞いてみようか、どうせ病院まで1時間くらいかかるって言ってたし。


「ねえ、二人は魔法を使う時ってどうやって魔力を放出するの?」

「魔力を放出?うーん、あんま意識したことねえな、俺はただ剣に力を込めてぶん回すだけだし…」

「魔力は神経に多く含まれてるから発動する箇所だけに感覚を集中する感じかなぁ」


バカの回答と違ってリリスの答えはめちゃくちゃ参考になった。


「なるほど…感覚を集中…、ね」

「飯をいっぱい食えば自然と魔力も増えるだろ。だからうんこする意識をすりゃ多分できるぞ」

「瞑想とかすると結構良いんだよ、身体に均等に魔力を巡らせる練習になるからね!。必死に何も考えない様にした時どこか痒い…みたいな状態だとそこにだけ魔力が溜まってる証拠だから」


………本当このバカ使えねえな………。

逆にリリスの練習方法は聞いただけでもすごく効果がありそうだ、早速揺られる馬車の中で心を無にする練習をしてみる。むむっ…やっぱり難しいな…。心を無に………。


「…そういえばその入院中の女の人ってわたしたちが行って会えるの?関係者以外とは会わないみたいなこと…」

「まあダメなら騎士として何か適当な面会理由があるってことにするさ。けど多分会ってくれるだろ、なんかそこの変態にすごい会いたがってたしな」


会話する二人の声が聞こえる…。駄目だ、もっと心を無に、無にしないと…。


「ゆ……お兄ちゃんに?な、何で…?」

「こいつが助けてくれた事だけ覚えてるみたいだったからな、どうしても一度お礼を言いたいって言ってたんだ。…あぁでも俺が知り合いだって話したら「あの人付き合ってる人はいますか?」なんて事も言ってたっけ。もしかしてこんな変態に気が合ったりしてなぁ…」


………………助けたあの人どんな顔してたっけ、ちょっと髪の毛にウェーブのかかった可愛い系だった気がする…。………抱えた時背中にむにむにの感触ががあって「いたい痛い痛い痛い!!!」


「………今余計なこと考えてたでしょ?」

「は、はい…。」


僕の煩悩を読み取ったリリスに右腕をつねられた…。大好きな魔法の練習のためだろうか、相当力を込めていた様で見たことないくらい赤くなっている。あ…痣がまた増えた………。


「…ま、俺が「アイツは妹をペットにしてる変態だから近寄らないほうがいいぞ」って伝えてあるしもしかしたらもう会いたくないと思われてるかもな!ハハハっ!」

「何てことしてくれてんじゃてめえはああああ!!!」

「うおおおっ!?」


狭い馬車の中で殴り合う僕ら。

どこか安心した様に、冷めた目でそんな僕達を見るリリスの顔が妙に記憶に残った。



※※※※



出発して約一時間と少し、僕らは目的地である病院の前にいた。

異世界には回復魔法という便利なモノがあるため余程の難病か重傷を負わない限りここにお世話になることはないらしく、そのせいもあってか病院というより診療所って感じのこじんまりとした外観をしている。


「じゃあ俺ちょっと受付に話通してくるわ」と言ってドランが一人中に入って行った。

僕とリリスの二人だけで入り口の扉のすぐ前に立っている。

…空いたこの時間も零魔法の練習に使おうかと考えているとリリスの方から僕に話をかけてきた。


「………お兄ちゃんってさ、年上と年下ならどっちが好き?」

「え?」


どういう意味だろう…、前までは僕にもロリコンの気があったんだけど最近ドランを見てああはなるまいと思っていたところだし。

そもそも僕は母性に溢れる人が一番好きっていうのもある。なので…。


「今は年上かな、結構甘えたいタイプっていうのもあるからお姉さん系の人とかが好みかも」

「………ふーん」


しかしなぜ僕は妹にこんな質問をされているのだろうか…。

もしかして世の男は全てドランみたいなやばい性癖の人ばかりなのかもと恐怖してのことなら少し心外…っていうかやっぱ冷静に考えてもアイツキモすぎるな…。


「……あ、あのさ優人…言っておくけど私は優人の事────」

「?なに???」


何やら少し真面目な話をしようとしている気がする。

向き直って僕も真面目に話を聞こうとしたが背中に何か硬いものが当たる感触に思わず振り返った。

どうやら入り口の前に寄り過ぎてしまっていた様で中から開けられたドアにぶつかってしまっている。


「あ、すっすいません…!」

「ああいや。ボクこそ悪いね………っ!?」


中から出てきた青年が僕らを見るなり一瞬驚いた様な表情をする。

知り合い、ではないはずだけど。こんな黒色に包まれた結構綺麗な身なりをしている貴族的な人とはまだ一度も話したことないはず。

…ならもしかして僕のせいでどこか怪我した箇所を痛めさせてしまったのだろうか。

だとしたら本当に申し訳ない。


「あの…大丈夫ですか?どこか痛む様なら手を貸しますけど……」

「…い、いや、大丈夫だ。………それよりちょっと聞きたいことがあるんだが───」

「おう、お前ら面会の許可取れたぜ、とっとと済ませちまおう」


青年の話を受付から戻ったドランが遮ってしまった。


「…………っ。竜騎士か…」

「ん?」

「……いや、悪いね。ボクの方こそよく見ずにドアを開けてしまって」


そう言って青年はどこかへ歩いて行った。

ドランのことを知っている様だったけど彼も冒険者だろうか?その割にはかなり細身で冒険者達の中でも一番筋肉のない僕は親近感を覚える。


「……あっ、ごめんリリス。さっき何言いかけてたの?」

「………ううん。何でもないよ、…お兄ちゃん」


そこでリリスの話の途中だった事を思い出しもう一度聞き直すがどうやらもう解決した様だったので僕らは病院の中へと踏み入れていった。


中に入ると外観から受けた印象以上に広い施設があった。

木に囲まれていたのもあって、外から見た時は少し小さく感じたのかもしれない。

入院スペースは2階にあると案内を受け僕らは階段を登っている。

……怪我人や病人にいちいち階段を利用させるなんて現代の医療施設ではあまり考えられないな…。っていうか病床も10床も無いみたいだし定義的にはここは診療所だろ、なんて異世界では無意味なツッコミを登りながら考えていた。

それでもこの消毒剤の匂いは異世界でも共通らしく、僕は父の職場を思い出し少し顔をしかめる。


「ルーベンスさんはあの一番奥の部屋にいるってよ」

「…ど、どうしよう。僕のことまだ会いたいと思ってくれてるかな…緊張してきた…」

「ハハハ、変態のことなんかもう忘れてるだろ」


僕とドランが歩きながら他愛もない会話をする。

これは僕も今初めて知った情報だが女性の名前はルーベンスというらしい。………付き合ったとしたらルーちゃんとユウくんだろうかなんてさっきより意味のない妄想をしていると僕の横を歩いていたリリスが足を止めた。

前を歩いていたドランは気付かない様で僕一人が立ち止まって話を聞く。


「?どうしたのリリス、どこか痛い?」

「…ううんっ。大丈夫!えっと……わたし下の椅子で待ってるね」


どうしたんだろう、と思う僕の心中を読んでか重ねて答える。


「…………怪我してる人間、あんまり見たくないから」

「……あ」


最近はすっかり人間の生活に溶け込んで忘れていたがリリスは魔族、人間の敵だ。

…ここにいる患者の何人かは魔族との戦いで負った怪我の所為でいるのかもしれない。

リリスがそう言った人たちから目を背けたいと思うのは、ある種当然の心理だと思った。


「それなら僕も一緒に待とうか?」

「……………っ。い、いや。お兄ちゃんはちゃんと話聞かないとでしょ?…カズトの事何か聞けるかもだし。それに彼女とかできるチャンスなんだからちゃんと行ってきなよ!」


そういう時リリスは来た道を小走りに戻って行った。

…やっぱりちょっと様子がおかしいし様子を見に行こうとしたところで先に進んでいたドランが大きな声で僕を呼ぶ。


「優人!!!早く来いッ!!!」

「…!!」


その異常なまでに緊迫した声にある考えが一気に頭をよぎる。

……まさか、まさかまさかまさか────!。


廊下を走りドランのすぐそばへ立つ。

病室の中を覗くとそこには、首を切って自殺した女性の姿があった。

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