32話【閃光】
「…か、カズトの被害者?」
僕は声量を一段落として聞き返した。
「あぁ。昨日お前らと別れた後思い出したんだよ。そういえばあの女何か妙なこと言ってたなぁって」
確かに以前彼女が目を覚ましたって話の時そんなこと言ってたっけ。
ええっと…
「……身体が自分の意思に反して勝手にダンジョンへ向かった…?」
「ああ、そうそれだ!お前よく覚えてるなぁ」
覚えていたのは理由がある。
あの時も同じことを思ったはずだが僕の【魔族隷奴】に似た症状だと思ったからだ。
…そう、確かにもしその女の人の言っている事が本当だとすれば、カズトと会っている可能性がある。
「まあ身体の自由を奪うくらい魔法でも不可能じゃないっぽいし…証拠は少ないけどよ」
そう言ってドランは身体拘束魔法と書かれた一冊の本を掲げる。
おお…こ、こいつ、ちゃんとそういう調査まで…。
流石に騎士というだけあって何というか真面目な一面を感じた。
そしてカズトに関連する証拠として僕にも今思えば、と言う心当たりがあった。
初めてダンジョンを見つけた時、足元から感じた妙な気配。
あれはギルドでカズトと会った時のあの気配に似ていた気もする。
つまりあの時僕だけが彼女の位置をわかったのもそれがカズトのスキルの影響を受けていた身体と思うと疑問が一つ消える。
……なぜ僕にそんな力があるのかわからないけど。異世界人は異世界人と惹かれ合うとか?まあいいや。
「うん、わかった、僕らもその人に面会しに行くよ。12時にギルドでいい?」
「おしっじゃあ3時間後に…」
「…………どっかいくの?変態」
「……」
いつの間にか僕の正面にアンリが立っていた。
…いつも足音もなしに突然話しかけられると思っていたがもしかして普段から零魔法を小さく使って移動しているのだろうか…。
「う、うわっなんだぁこの女…!?……あれ?まさかこいつ…」
僕より驚いたドランがアンリの顔を見て何か言いかける。
あれ、知り合いかな?
「せ、閃光の白狼…?」
「…あ、竜騎士……」
閃光の狼?随分かっこいい単語だけど……もしかしてアンリの二つ名とか何だろうか。
しかしそのお互いを二つ名で呼ぶ感じかっこいいなぁ、誰か僕にもつけてくれないかな。
「おい変態!お、お前こんな化け物と知り合いなのか!?」
やめろその二つ名で僕を呼ぶな。
「ばけもの?こんな可愛い女の子にそれは失礼じゃ…」
「………(コクリ)」
こくこくと頷くアンリだがドランは止まらずに話す。
「ばか!こいつソロAランク冒険者なんだぞ!!」
「………えっと、一応ドランも同ランクじゃなかったっけ?」
「いや…俺は騎士の仲間達とパーティを組んでやっとそのランクだ。けどこいつはずっとソロで活動してAに昇ってる、完全変態のバケモンなんだって!」
へえ、アンリも冒険者なんだ…。っていうか僕とリリスがほぼ毎日通っているパン屋の女の子ですら冒険者登録だけはしてるって言ってたし冒険者じゃない人の方が珍しいくらいなのかもしれない。
「しかもこいつがどういう戦闘スタイルなのかも知らない、何人かがこの狼と大型魔族が戦う姿を見ようとした冒険者がいるんだが一瞬でモンスターが倒れて何が起きたかわからないって言ってし…お前こいつとどういう関係なんだ!?」
随分興奮した様子のドラン。
多分表情からかろうじてライバル視してるんだろうけどテンションや妙に詳しい解説のせいでファンにしか見えない。
「ど、どういうかんけいってって言われても…」
「……師匠、わたしが」
ふふん、と鼻を鳴らすアンリ。
確かに師弟関係というのが適切かなぁ。
「し、師匠…お前コレに教わるとか羨ま…いや裏切りもんがぁ!」
今明らかに羨ましいって言いかけただろ。
やっぱりファンのようだ。
「……くっそ…わかった!なら俺もお前の師匠になる!!」
「何で!?」
「俺も同じ立場に…いや俺の方が優れた指導ができるって事を教えてやんだよ!!そうと決まりゃお前のトレーニングメニューが必要だな!ちょっと考えてくるわ!」
「い、いやちょっと待…」
引き留め虚しく「待…」のあたりでドランの背中は見えなくなっていた。
あーもうめちゃくちゃだよこいつ…。
「…………図書館では静かに」
アンリさんはムッとした様子。
自分のファンへの評価は高くないらしい。
※※※※
「……今日はこれ渡しにきた」
僕らはまた昨日と同じ、図書館側の路地裏にいた。どうやら今日も僕の修行に付き合ってくれるらしい。
念の為リリスにもしばらく離れることと、何かあったら大きな声出して呼んでね、と伝えておいてある。
「?なにこれ?」
アンリから手渡された包みを開くと白い革質のグローブがその姿を表した。
「……それ、昔私が零式魔法を練習する時に使ってたのと、同じやつ…。……変態の練習の役に立つかもと思って…」
「そ、それ僕サイズ的につけれるかな…?」
「………あ」
そこまで考えていなかったらしい。
とはいえ、金具である程度口の大きさを変えられるらしく、一番最大サイズに合わせると僕の手でも何とか入った。
「……あれ?何この穴」
手のひらに直径三センチほどの小さな穴が空いていた。
明らかに手縫いで後から加工された形跡がある、誰かがわざとこんな穴を開けた様だ。
「…そこから魔力を放出。………一点に集中するための印になるから…」
「なるほど」
要するにこの穴をガイドに掌に魔力を込めるためのものらしい。
圧縮して放つ、その練習だ。
「……壁を飛んで登るみたいな基礎も大事だけど、…魔力を操作するのも同じくらいだいじだから」
そう言いながら今度は鞄から一枚の木の板を取り出した。
何だろうコツとかそこに書いて教えてくれるのかな…。
魔力の操作なんてやったことない分野だし、そういう意識的な物を教えてくれるだけでも助かるんだけど…。
とか考えていたらアンリはその板に手をそっと乗せて触れるや否や、木の板は破裂音と共に木端となった。
「…今のが、最低ライン」
「………」
…いやいやいやいや!!!最低ラインが高過ぎない!?
しかも昨日の時点で薄々気づいてたけどこの子とんでもない感覚派だ!!
「え、えっと何かコツとかないの…?」
「……やりまくる。…やってやってやりまくる…」
………ほとんど根性論だ…。
鞄からもう一枚、木板を僕に差し出しながら続けて言い放つ。
「…大丈夫、十回失敗するごとに私が変態の身体にこれを放って体で覚えさせてあげるから……」
「に、にぃぃ……」
思わず口から鳴声が溢れでる。
結局…木の板に衝撃を与えることすらできず、また僕は全身あざだらけで図書館を後にした…。




