23話【呪い】
バシャバシャと水音だけが部屋に響いていた。
返り血のついた僕の一丁ら、白い高校指定のワイシャツをリリスが流し台で必死に洗う音だ。
血は簡単に落ちないからいいと伝えたはずだけど「大丈夫だから、わたしに任せて」と言って笑う彼女を僕は止められなかった。
あの血は僕のせいだ。
僕が浅はかだったせいでサニーは死んだ。
カズトのチートスキルの事をほんの僅かでも考えていればもっと別な、マシな未来があったかもしれない。
僕のせいで人の命が…。
水音が止まった、今度は水を絞る音が聞こえる。
数年前、父親に「お前に人は救えない」と言われたことがあるのを思い出す。
…全くその通りだった、僕には誰も救えない、救いようがない馬鹿が僕なんだ。
再び吐き気を催すがもう胃液以外何も出なくなっていた。
リリスが窓際にワイシャツを伸ばして干す音が聞こえてくる。
ギルドで自殺が起きた後すぐに建物は封鎖された。
王国騎士も何人か集まって、その中のドランが僕に何か話しかけていた気がするけど何も思い出せない。
あの後…フラフラとよろめき途中何度も吐くリリスが支えながら家に帰った。
ずっと俯いたままの僕を心配してリリスが声をかけてくれる。
「………おに…、優人。大丈夫?」
「…あぁ、うん……」
笑顔を作って答えたがダメだった。首が回らずただ床に向けて表情を作っただけに終わる。
結局辛そうな僕の返事だけがリリスに返った。
「……何があったか教えて、わたしがお兄ちゃんを支えるよ」
「っ…」
その優しい言葉にただ震える。
僕はこの子を守らなきゃいけない。カズトが言っていた「魔王の欠片」、つまり魔王が残した魔王の一部。
あの時はまだ確信は持てなかったが今はわかる。それが魔王の娘、リリスのことだと。
…僕を召喚した魔王が異世界人を殺してリリスを守れと言っていたのに、そんな言葉も忘れて異世界人とも仲良くなれるかもなんて考えていた。
そんな自分に嫌気が、さす。
僕はこの子を連れてどこかへ逃げるべきだろうか、この街から出たら僕以外の人間を犠牲にアイツは僕を攻撃する?
この街に留まり続けるか?正解がわからない。
今は何を選んでも全てが間違いになる気がした。
あの時ダンジョンを僕が見つけたこと。
ギルドで僕のステータスを大衆に晒したこと。
安易に相手を挑発したこと。
…あの日僕が死んだこと。
間違いだらけだ。
だから僕はもうこれ以上何も考えないように「あああーっ!もういいかげん立ち直れっ!!!」頭から真っ逆さまにベッドへ投げ飛ばされた……。
「いっ………」
「いい加減にしてっ!そんなうじうじしてたって何もならないでしょ!」
どうやらリリスに投げ飛ばされたようだ。
「わたしはお兄ちゃんの目の前でおじさんが首を切る所しか見れてない、だから何が起きたかわかってないの!何でそんなことになったか…何でお兄ちゃんが今そんなんになっちゃってるのか!」
「……」
言葉が浮かばずにいた。できることなら知って欲しくない。
そんな僕にまたイラついてか、一直線に全速力で彼女が飛んでくる。
殴られると思って一瞬目を閉じる。
けど実際は
「わたしが支えるから、だから信じて」
「っ……」
───妹に僕は抱きしめられていた。
僕は…僕が、僕の。
「僕のせいなんだ…全部僕の…っ!!」
言うつもりはなかった全部を、僕は次々に吐露し始める。
ぼくのせいで起こった全部を、ただ静かに黙って聴きながら「大丈夫、大丈夫だよ」と、リリスが僕を慰めながら、僕は全ての経緯を説明した。
※※※※
「え、つまり、あの場に異世界人が居たってこと!?」
「う、うん…」
リリスの胸の中で最後のまとめを伝える。
………ていうかもう本当落ち着いて大丈夫だから離してほしい。このままじゃドランをばかにできなくなる。
僕の頭を抱き抱える腕を振り解き無理やり彼女の腕の中から解放される。や、やばかった…。
一瞬不満げな顔をして見せたリリスだったが、僕の表情を見て安心した様に一歩離れた。
「しかも魔族隷奴の人間版、人間を隷属させるチートスキル持ちかあ。………それってこの人間社会の中ではやばいね」
「やばいどころか絶体絶命感あるよ…」
そもそもあの場で、僕がカズトスキルをかけられていたら本当に終わっていたんだ。
たった一言『魔王の欠片を差し出せ』と命じられただけで僕は多分【魔族隷奴】を使用しリリスをあいつの前に連れて行ってしまっていただろう。
そうしなかったのは何か理由があったのだろうか。
下手したらただ泳がされてるだけな気もする。
「ねえ、僕らこの街を出たほうがいいかな…?」
「……あー…ううん、それだけはやめたほうがいいと思う」
きっぱりと僕の案は断られる。
「向こうは何のためかわたしを探してるんだから、今お兄ちゃんが外に逃げるのはカズトってやつにとっては最悪のケースでしょ?向こうだってそれはわかってるはず。それに…」
確かにそうだ。自分だったらこんな状況で敵を逃すなんて真似したくない。
頷きながら話を聞く僕に、続けてリリスが話す。
「それにね、えっと…あんまり落ち込まないで聞いてほしいんだけどさ…ちょっとお兄ちゃんのステータス開いてほしいの…」
「…えっ」
すごく嫌な予感がする。
どういう事かわからないままにいつもの表示言葉を唱えるとその意味がわかった。
【ステータス】
吉田優人 種族:人間
スキル
・【異世界翻訳】
・【魔族隷奴】
魔法
・------
状態異常
・【呪:西ノ街の地縛】
「の、のろい…!?」




