22話【カズト】
異世界人を名乗る目の前の大男、サニーは僕の前の椅子に腰を掛ける。
「…ど、どういう事、何であなたが…」
この人の冒険者ランクはそんなに高かったろうか。
覚えてはいないが…少なくともSなんかではなかったはずだ、噂とは違う光景に僕は戸惑いを隠せずにいた。
第一この大男は少なくともカズトって感じではない。
………だがこの明確な強い殺気は、…………駄目だ。
目の前の男が異世界人である証拠と異世界人でない証拠が並んでしまっている。
今僕に謎を解く手札は揃っていないんだ。
一つ確かなことはこの人物は…。
「ここじゃ使エないだろう?魔王の【魔族隷奴】」
こいつは、僕と魔王の繋がりを知っている。僕のスキルが魔王のチートスキルであることを知っている。
入り口側を取られているせいで逃げられない。
…いや、そもそもリリスがいる以上僕に逃げる選択肢もないんだ。
ここにいない妹を、こいつは人質にしている…。
「あノ少女の事なら安心するとイい。吉田くンが大人しくしている限リ手を出さない事を約束スルよ」
「…?」
「ボク達は魔マ王ノ欠片が欲しいだけなんだ。無関係の少女に手を出すホど残虐じゃナい」
さっきからカズトの言っている魔王の欠片が何かはわからない。
いやきっとこいつもどんなものなのか分かってないんだ。
だから僕を殺せない。
これだけの殺気を見せながら彼は僕に手を出せない。
…力では圧倒的に目の前の男の方が上なんだからもっと暴力的な手段に出ても良いはずだった。
今にして思えば一昨日の生首は僕への宣告だったのかもしれない、僕の正体を知っている。僕が魔王側の異世界人である事を知っているぞという。
それをこの大男は僕に見せつけようとしたのか?
…そしてサニーが僕の正体を知るきっかけがあるとしたらあの時、ギルドに登録した時だろう。
スキル名だけじゃその効果はわからない、僕の知る中で誰よりスキルと魔法に詳しいリリスが言っていた事だ。
少なくともスキル名を知られただけで僕の正体が暴かれたりすることはまずないだろうとも。
…だから油断していた、けどあの場にはいたんだ。
【異世界翻訳】と【魔族隷奴】を持つ人間がどういう存在なのか知る人が。
同じ【異世界翻訳】を持つ人間が。
……そしてまさかその異世界人がこんな敵対的な態度をいきなり取ってくるなんて。
やっぱり僕はどこか平和ボケが抜けないらしい、いつも爪の甘さで追い詰められる。
必死に思考を巡らせて目の前の異世界人、カズトとの情報の差を埋める。
カズトが僕に直接的な攻撃を行わない理由は二つ、魔王の欠片の場所を知るためとその正体をしらないため。
…僕が死んで情報を失うことを恐れているんだ。
だから僕はまだ死なない。まだ殺されない。
それがわかったなら強気に、今は虚勢を張って対等な立場を演じる。
「…粋がらないでよカズト、僕が怖くて手を出せないんだろ?」
不気味に笑っていたカズトの表情がピタっと止まった。
「お前は僕を殺せない、僕に手を出せない。魔王の欠片の情報を持ってるのは僕だけだ、僕が喋らなくなる事だけは、お前は避けたいんだろ?」
「……ハ」
カズトが少し笑った。体躯が倍以上ある大男の笑顔は怖い。
実際のところ今こいつに胸ぐらを掴まれるだけで僕は泣いて謝り倒してしまいそうだ。
「少し頭が回ル様だけどあまり調子ニのるなヨ?僕ノスキルを使えばお前なんテ一瞬で殺せる」
「……」
「ソしてお前を殺さないからっテ、お前ヲ傷つけラれないワケじャない」
「…え?」
どういう意味だ。
嫌な予感が、嫌な予感だけがした。
「ボクは必ズ魔王の欠片を手ニ入れる。この異世界ライフを続けるタめに」
サニー、カズトはそう言うと
腰に備えていた短剣を素早く取り出し、自分自身の喉元にその切先をつけつけてこう言った。
「『───お前のせイで俺ハ死ぬ』」
サニーが自分の腕で、自分の短剣で、自分の喉を切り裂いた。
…目の前で散った命にただ茫然と動けないでいた。
遠くから聞こえたリリスの声にも、周りの冒険者達の叫び声にも意識が向かず。ただ数秒前にどこかから微かに聞こえた一言の意味を理解して後悔する。
僕の浅はかさに。
向こうだって考えなしに近づいてくる訳ないんだ。
…あの時、確かに聞こえた。少し離れたところから少年の声で
「サニー『自害しろ』」って。
……カズトの持つチートスキルは人間を奴隷にするスキルだ。




