21話【作戦】
変態ペットブリーダーの昼は早い。
…だから早くねぇって。
図書館から手を繋いだまま、僕らは昨日同様にギルドへ向かった。
勿論目的は明日のご飯のお金を稼ぐため。
今朝から事実上水しか飲んでいないためすでに僕らの空腹は限界に近づいていた。
こ、このままでは魔族とか異世界人とか関係なしに僕らは餓死してしまう…。
「よーし!お兄ちゃんっ今日こそ満額達成しよう!」
「うむ!」
依頼ボードにあった薬草最終の張り紙を見つけ、申請票にその依頼内容を書き込む。
僕の【異世界翻訳】スキルは僕が描いた文字にも対応するため問題なく受理してくれた。
一瞬受付のお姉さんが僕の顔を見るなり「うげっ」という表情をしていたが多分流石に紙の隅に書いた僕の職業とは関係ないことだろう。…流石にね?
そういえばドランが今日は居なかったが、どうやら依頼を受けて外のダンジョンにいるらしい。
その話を聞いたリリスがホッと胸を撫で下ろす姿を僕は見逃さなかった。
そうしてギルドを出て1時間程度で、西ノ街のすぐそば、昨日の草原に辿り着く。
一日分の経験値があってか昨日より早いペースで僕らは薬草を見つけることができた。
「そういえば、異世界人と会う作戦なんだけどね」
薬草を詰めるカゴを既に半分ほど満たしたリリスが話しかけてきた。
「…正直けっこう危険…ていうかお兄ちゃんを巻き込んじゃうから、できればあまり実行したくはない作戦ではあるんだけ「いいよ、やってみよっか」
「ま、まだ全部言ってないんだけど…」
危険は承知、それに僕の危険なら問題はない。
第一安全に越したことはないがそれでも他に方法も思いついてない以上、とりあえず僕の妹の案に賭けて見るのも良いと思った。
…カッコつけたけど普通にやべえ案が出たら走って逃げよう。
「えっと…異世界人ってみんなSランク冒険者って言ってたでしょ?だからSランクの依頼があれば必然的に異世界人に依頼が行くと思うの」
それはそうだ。
ランカー最上位、Sランクを持つ冒険者はそういない。いや、仮にいたとしても他の冒険者より圧倒的に上位のステータスを持つ異世界人に誰もが依頼するだろう。
……しかし問題はそんな依頼があっても僕らはその現場に立ち入れないこと。
またそもそもそんな大きな依頼なんて街の近くではなかなか発生しないことにある。
「だから、私たちが異世界人がスクランブルしなきゃいけないくらいの大事件を起こすの」
「………え?」
異世界人がスクランブルするほどの大事件?
想像もできない…以前ドランにAランク依頼を少し見せてもらったことがあるがドラゴンの首を持ってくるとかドラゴンの尻尾を持ってくるとかドラゴンの鱗を持ってくるとかそんなまだ僕らには想像できない様な依頼ばかりだった。
……いや異世界のドラゴン狩られすぎだろ…、ドランは俺は竜騎士だからこれがメインの仕事なんだとか言ってたけど。
「Sランクの依頼になるほどの事件を起こすって?具体的にどういう…」
僕が疑問を伝えるとリリスが自分の胸をトンと指で叩く。
「例えばそう──魔王の娘が街に来たとか」
※※※※
薬草採集の依頼を終えて換金を済ませる。昨日の倍額、200ゴールドという大金を僕は大事に大事に服に入れた。
い、命に変えてもこの金は守るぞ…。
リリスはというとギルドにつくや否やトイレに入っていった。
…まあうちのボロアパートよりここのトイレの方が綺麗だもんね、うちと違って水洗式だし。
彼女を待ちつつ待機所に椅子に腰をかけて、さっき聞いた作戦を思い出す。
───異世界人を誘き寄せる方法、リリスを餌にする作戦。
目立つ場所で彼女がそのフードを暴きいくつかの建物を攻撃する、僕が後ろからどこかから引っ張ってきた魔族を【魔族隷奴】で操り、それをリリスがやっている様に見せることで彼女が魔王の娘であることを証明する。
魔王の一族が街に現れたとなればこの世界で英雄と持て囃されている異世界人も無視はできない、必ず倒しにやってくるはずだ。
なので僕らはとにかく全力で逃げつつ、異世界人がリリスの前に現れるのを待つと言っていた。
…………企画の細部が全然できてないとかそれさすがにリスクデカ過ぎない?とか僕らの力が甘く見られ過ぎて魔王の一族って認められなかったらどうする??とかこれそもそもワンチャン異世界人の前に一般冒険者に僕ら殺られませんか???
……とか色々言ってみたがリリスは一年後を見据えて今から異世界人の力を図りたい、あわよくば倒しておきたいとのことだ。
う、うーん…。
本来であれば僕も魔法を使って一緒に応戦、勝てないと判断したら二人でまた街を逃げ出して一からやり直すという作戦だったが僕が魔法を使えない以上、今回は裏方だけしてとは言われたけど…。
あれだけ僕を巻き込んじゃうなんて言われた割に力になれる部分が少なくてもどかしい、それに。
………それにやっぱり成功すると思えない、しても恩恵が少ない、この作戦……。
今の僕らが異世界人相手にそんな大立ち回りができるとも思えないし…。
申し訳ないけど、リリスにこの作戦は没にしようって伝えるべきだろう。
そう伝える決心を決めたところで、僕の真後ろから何かの気配を感じた。
何かの、殺気が。
─────振り返ったら、僕は死ぬ。
明確にそうわかるほどの強い意識を放ち、ゆっくりと僕の方へ近づいてくる。
後ろの何かはもう触れるかどうかの距離まで近づき僕の耳元へこう告げた。
「こんにちはァ、吉田優人くん。僕はカズト。君を殺しニきた異世界人だよ」
ゆっくりと僕の後ろから回りこんで正面に腰をかけたその男は、その大男は。
「君が持ッてる魔王の欠片を、僕に寄越せ」
教会前で話したフレンドリーなあのおじさん、サニーだった。




