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20話【欠落適正】

僕の魔法紙は変色していなかった。


「…え?」


驚いた僕も声を上げる。

信じられずもう一度指に力を込めた。

そんな、そんなことが。

嫌な記憶を思い返してしまう。

僕だけがダメだったあの日のことを、思い出したくもない生前の記憶、異世界に持ち込みたくない今際の際の嘆き。


全霊を込めて力を注ぎ、もう一度魔法紙を見るも……やはり変化はなかった。

やり方が違う?とは思えない。

初めて行う事だけど確かに僕の身体から紙に何かが流れる気配はあった。


「え、えっと……、この紙がおかしいのかも!わたし別のと取り替えてくるねっ」


そんなわけないと言いかけたが先にリリスが行って別の紙を取ってくる。

それを大人しく受け取った僕はもう一度指に力を入れるがやはり反応はない。やっぱり…。


「えぇ……優人の居た世界には魔法が無かったから使えないとか?」

「いや、そうじゃないだろ…実際これまでの異世界人には魔法を使う人がいたんだから、だから多分これは僕が…」

「!…わ、わたしもう一回だけ別の紙もらって──」

「……ストップ。図書館では静かに...」


再び魔法紙を撮りに行こうとしたリリスを少女が静止した。

…いつのまにそこにいたんだ…!?

というかやばい、さっきの異世界がどうって話聞かれてたら…。


「……魔法紙の無駄です。…そこの方はわかってます」

「......え」


幸いどうやら異世界の話は聞いてないのか、それともただ興味がないだけか。

気怠けな表情の少女は、僕を見つめながら話し続けた。


「……魔法紙が変わらないのは欠落適正の証。…適正の欠落。…つまり魔法の才能が、ない...」


欠落適正…。

表情を変えずに少女はそう言い終えると図書館のテーブルに進み昼寝を始めた。

ず、ずいぶんマイペースな子だな…。


「そ、そんな事ない。聞いたことないもん…だって魔法は…っ」


僕の魔法紙を取り上げてリリスがぎゅっと握る。

開いた手の中の魔法紙は赤色に染まっていた。



※※※※



「…ごめん」


図書館から歩き出した僕らの沈黙を破ったのはリリスだった。

人目を避けるように来た道とは少しずれて、曇り空の下路地裏を二人分の足音が鳴っている。


「え?いやいいよ別に、むしろ僕のほうこそ悪かったよ。なんか、ある意味特異体質みたいで…」

「……」


見知らぬ少女に告げられた後リリスはすぐに図書館の本を探し欠落適正について調べてくれた。

曰く、魔法の素質が持てない者。魔法の知識を覚えたとしても体内の魔力が極端に少なく、放出することができない人を示すものらしい。

流れ出る魔力が人より少ないんだから魔法紙が変色しないのも納得がいく。

魔王様は僕を少ないコストで召喚できる弱いって言ってた、それくらいのデメリットがあるのも納得がいく。

問題はこんな僕がこれからリリスを守り切れるかという話だ、できれば僕も魔法を武器に彼女に並んで戦いたかった。

……そして頭痛とまでもいかない頭の確かな違和感に、彼女が落ち込んでいることが、痛いほどに程度にわかった。


「…わたしにとって」


リリスが話し始める。


「わたしにとって魔法は誰にでも使える最高の光だった。スキルを持たない人でも頑張れば習得できる希望の灯」

「……」


スキルを習得する確率は百人に一人。別に持ってないからって壮落ち込むモノじゃないだろう。むしろ持って生まれた人が特別なモノなんだ。

しかし魔王の娘という特異な立場を背負って生まれた彼女にとってそれは確かなコンプレックスだったのだろう。

……そして誰もが確実に使える魔法に魅入られた。


「魔王城の中にもここよりは小さいけど図書館があったの。魔法は魔族が最初に作ったんだよ、だから魔法…。

お母様はそこにある魔法が全部使えて、たくさん組み合わせたりして…本当にカッコよかった。

頑張って勉強しても魔法がまだ三つしか覚えられない私と違って本当にほんとうにすごくて…かっこいいスキルもたくさん持ってて…」


魔王と彼女じゃ生きた時間がまだ全然違う、そう慰めようとしたが違った。

今彼女が落ち込んでるのは彼女自身のことのせいじゃないと気付いたから。


「わ…わたし知らなかった、魔法が使えない人もいるって、百分の九十九以上の不幸の人の事考えたことなかった…」

「…」


今リリスは僕に対して後悔しているんだろう。

僕自身は元々使えなかった力だしそこまで気にしているわけはない。

…でも誰にでも使えると思っていた希望の光が、自分が他人ののコンプレックスを暴いてしまった可能性を考えて、リリスは今後悔している様だった。

魔法は、希望。彼女にとっての光。


「ごめんなさい…」


はっきりと謝罪の言葉が聞こえる。

わずかだがはっきりと頭痛を感じた。

…どういう言葉をかけるべきだろう、「全然気にしてないよ」や「別にいいよ」なんて本心じゃ届かない気がした。

これは、彼女の心の問題なんだ。

自分のコンプレックスたり得るものを無意識に他人に突き刺した贖罪。

やっぱり間違いなくリリスは優しいお姫様だ、そう思ったら掛けるべき言葉が見つかった。


「……なら僕ら、お互いに支え合えるんじゃないかな?」

「……え?」

「いや支え合えるっていうか、どっちかっていうとリリスの負担の方が大きい気がするけどさ」


「───つまり、僕がリリスのスキルになるから、リリスが僕の魔法になってくれれば良い」


僕は小さな魔王の手を握った。

一年間の期限があるけど、それでもその間は──


「僕が全力全霊で、魔法以外の全てを使って君を守る。だから君が魔法で僕を支えてくれれば、僕らは最強だ。」


守るべき立場であるはずの僕の方から、主人へ支えを願う。

情けない奴隷だ。僕を召喚したあの魔王も今の僕を見たらすぐに命を奪うかもしれない。

ていうかペットのくだりで絶対やられる。

こんな情けないお願いをした僕をの言葉を聞いて、また初めて会った時にからかうような天使を想起する笑顔で笑って、



「…もうお兄ちゃんは仕方ないなぁ」


妹はそう言うと僕の手をまたぎゅっと強く握り返してくれた。

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