19話【魔法】
「お兄ちゃん、今日は魔法を覚えに行くよ!」
「……えっ?」
異世界生活四日目。
まだ日が登って数時間と経っていないうちに僕は布団を剥がされて起こされる。
本日の気温は16度ほどだろうか、寒いよぅ…。
「私ももっと力をつけたいしお兄ちゃんにも戦力になって欲しいの」
「なるほど…」
お金がない僕らは、異世界では無料の水をリリスの火炎魔法で加熱し温めたスープをズルズル飲みながら今日の作戦会議をしていた。…これマジで死にますわ。
「でも魔法を覚えに行くって具体的にどうするの?前も言ったけど僕のいた世界そういうのなかったから全くわからないんだけど…お金とかかからない?」
「大丈夫、魔法は貧乏の味方だから!」
誰かの受け売りだろうか。少なくともリリスの口から貧乏の味方なんて単語は初めて聞いた。これも僕が不甲斐ないせいですごめんよぉ…。
…しかし、魔法を覚えるという話は内心わくわくする。
実を言うとリリスが手から炎を出す姿を見るたびに羨ましいと思っていたくらいだ。
年下の女の子に犬の真似させる以外の武器、僕もそろそろほしいです。
「とりあえずご飯を食べたら着替えてすぐ図書館に行こ、……あ、あんまり遅いとまたドランさん来ちゃいそうだし…」
「お、お前………」
僕の目から落ちた涙はお湯をご飯と呼ぶ妹への罪悪感からだろうか。
それとも妹がいい歳をした成人男性にストーカーを受けているのに何もできないことへの罪悪感からだろうか…。どちらにせよ罪悪感なのでどっちでも良いか。
僕は転移した時からずっと着ている所々が汚れ、破れた白い学校指定のワイシャツに袖を通し身支度を済ませた。
…この気温でこの格好、これマジで死にますわ…。
※※※※
トラウマの教会前広場を進みギルドへの道を手前で曲がる。
そこをしばらく進むと大きな建物が見えた。
「……うおぉ…なにこれ、裁判所?」
「違うって。ここがアルゲニブの図書館らしいよ」
威圧的な雰囲気を漂わせ白い石柱を組み込む大きな建物、これが図書館?数百年後には歴史的に意味の残る観光物になりそうな建物だ。
日本の何かに例えようとするがその尊大な振る舞いの姿に合う比喩がよく浮かばない。
講◯社を倍くらいの大きさにした建物が一番近いだろうか。そう考えると講◯社でけえな…。
どうやらリリスはこの場所をギルドの女性冒険者に教わっていたらしく、何だか妹がいつのまにかいろんな人と絆を育んでいることに僕は嬉しくなりました、まる。
……こんな可愛い僕の妹に付きまとう邪悪な騎士がいるってマジ?あいつ許せねえ…。
「お兄ちゃんほら早く〜!」
「ん、ん〜」
リリスの後を進む。
入り口に入るために十数段の階段を登り、およそ6メートルはあるであろう大きな入り口を潜ると中にはまさにぎっしりと本が詰まる壮大な空間があった。
「……うわっ…すごいな…」
「アルゲニブは商人が多く集まる街だからここら辺の国じゃ一番の大図書館なんだってさ!」
「へえー…」
日があまり差し込まずお互いの表情もよく見えない空間だからか、いつもより浅めにフードを被ったリリスが解説をしてくれる。
……しかし魔法を覚えるのになぜここにきたんだろう。
「なぜって、決まってるでしょ。魔法を「勉強」するために」
「………えっ?勉強?」
「魔法っていうのはね、契約詠唱っていうのを暗記してその上で距離や威力の魔法式を頭の中で計算して使うの。だから図書館で魔法の書を読んで勉強して覚えるってわけ!」
………………………これマジ?異世界の魔法夢なさすぎるだろ。
僕は異世界でも結局勉強が必要なのかと胸の校章に目を落としため息をついた。勉強、ニガテ。
…それに、だとしたら多分僕は魔法を習得できないだろう。
確信に近い予感を抱きつつリリスの後ろをゆっくりと静かに着いて歩いた。
「あの、ここも魔法紙ってお金ひつようですか?」
「いえ、当図書館では無料で配布しておりますよ」
「えっとじゃあ、に、2枚もらう…」
何か受付の男性司書さんと少しの会話をして二枚の紙を持ってリリスが歩いてきた。
あの子魔族だからか人見知りが多少あるみたい。
「お兄ちゃん貰ってきたよ!これが魔法紙、魔法の適正を調べるための紙だよ!」
「魔法の適正?」
さっきまで照れながら司書と話していた姿とは打って変わって、付箋程度の本当に小さな白い紙を手渡しながらリリスはいつもより楽しげな声で説明をしてくれた。
…この子さては魔法大好きっ子だな。
「この紙に魔力…えっとちょっと指先に力を込めると紙が変色するの。そのついた色でどの貴方はどんな属性の魔法が向いてるか、って教えてくれる紙なんだよ」
「…あぁ、つまり念能力で言う水見式みたいな感じか」
「いや全く何言ってるかわかんないけど多分そう…?」
いまだに日常会話中に前世の比喩を使ってしまう。
前いた世界ではみんなこれで多分どういうものかわかったんだけどな…。
僕が残念な思考をしているうちにリリスが紙に魔力を込めて見せた。
リトマス紙の様に指と面した部分からすっと紙の色が赤へ変色する。
「赤は熱。だからわたしの適性が熱系の火術にあることを示してるんだよ」
「へえ、こんな綺麗に色が変わるんだ…」
「特別な薬草で紙ができてるからね。…ていうか昨日採った草の中にその素材があってここの事を思い出したの」
「…なるほど」
一応昨日の任務失敗も無駄じゃなかったらしい。
受け取った紙をじっと見つめながら続けてリリスが説明をする。
「青い色が冷気、空気中の水分を水に変えたりもできるから適性は水。緑なら適性は自然、黒なら幻術、黄色なら霊術が適正になるって感じかな」
「……あれ?でも幻術って前リリスが使ってなかった?確かシャドーウォールっていうの…」
「得手不得手を調べるモノだからね、習得に時間がかかったり威力が弱まったりするだけで、別に適正外の魔法も絶対覚えられないわけじゃないんだよ。……まあ自分の適正外の魔法を覚えるには私みたいなスキルを持ってなくても強いくらいの才能がいるけどね」
もしかしてリリスが魔法にこれだけ魔法に好意があるのは生まれ持っての素質でほとんど決まるスキルと違い、後天的に習得できるからなのだろうか。
以前のコンプレックスの事を思い出し自分の中で納得する。
「今余計なこと考えてない?」
「い、いや、べつに…」
大人しく魔法紙に向き直った。
指先にグッと力を入れて魔力を込める。
初めての経験だが紙自体にも何か引っ張る力を感じて、僕の中から何かが流れていくのを感じた。
閉じていた目を開き、恐る恐る自分の適性を確認する…。
「…………えっ?」
リリスが信じられないものを見たように驚いた小さく声を上げる。
…僕の紙は変色しなかった。




