18話【100ゴールド】
Eランクの依頼には大きく分けて3つある。
一つが常にある程度の貯蔵が必要になる薬草採取。
何種類かの薬草を印刷された紙を見ながら探す、危険はないがその分報酬も安い採集任務。
二つ目が魔石の収集。
草原や野原にいるか弱い下級魔族を狩って企業に販売するらしい。
多少の危険と労力が必要だが成長にも繋がる肉体労働だ。
三つ目は自分たちより上位ランクのパーティとの同行任務。
基本的にはこれは掲示板よりコネを使ってダンジョンの攻略の際荷物持ちやマッピング作業として手伝うらしい。
ドランはこれをやりまくれば強くなる、とか言って一番推していた。
そんな中僕らペットとそのブリーダーコンビが選んだ最初の任務は…。
※※※※
「こ、腰がいたい………」
「お兄ちゃんさっきから休んでばっかじゃん!ちゃんと薬草探してっ!」
「…そうは言っても……」
僕達は寒空の下せっせと薬草を探していた。
この任務を選んだのはほとんど消去法。三つ目の同行任務はリリスに立場を考えると迂闊に選べないし、二つ目は僕がリリスに同族殺しをあまりさせたくないという理由で却下した。
あと僕というお荷物を背負わせている以上今はまだできるだけ危険と遠ざけたい。
なのでこうして僕らは草を摘む任務をしている。
「……そこら辺の雑草も僕のいた世界と全然違うから見分けがつかない…」
「今日あと1キロ薬草集めるんだからしっかりね!」
「にぃぃぃ…」
思わず鳴き声が漏れる。
こういう地道で辛い作業はインドアな人間には苦手だ…。とはいえさっきから威勢よく叱咤してくれてるリリスの方も薬草なんて探したこともないらしく、さっきから薬草の特徴について書かれた紙と睨めっこする時間が続いている。
…つい先日までお姫様だった彼女にこういう作業はやはり慣れていないのだろう。
「ていうか僕らこんなことしてていいの?異世界人を探すんじゃないっけ…」
「それも大事だけどお金も集めなきゃ!…明日食べるご飯の分のお金もないんだし…」
僕らの所持金は現在0。
昨日買ったパンはドランに借りた物だったし正確にいうとマイナスになるのかも(あいつはあのお金をリリスに貢いだつもりみたいだけど)
リリス本人としてはこれ以上ドランの世話になりたくないようで、薬草採集にまでついて来ようとしていたドランに「本当に大丈夫だから!ほんっとに!」と必死の抵抗を見せていた。
一応今日の依頼が完璧に成功すれば200ゴールドは稼げるが…。
「それにそのことなら一応作戦があるもん」
「作戦?」
あのクソキモいロリコン騎士を暗殺する作戦んだろうか。
「ふふん、異世界人会う作戦」
どうやら違ったらしい。
何だか楽しげに話すリリス、今朝は怒らせたり嫌なものを見たりと落ち着いて話す機会がなかったため、久しぶりに素の彼女を見た気がした。
僕らが異世界人に会う方法は二つ。
Aランクパーティーに同行あるいは加入してAランク地帯へ行き異世界人を探す。
……が、これは任務中うっかりリリスのフードが脱げるだけで魔族バレする可能性を考えるとできない。
もう一つが100万ゴールドを集めて直接依頼の交渉をする、この方法なら確実に会えるが今の僕らには100万も集めるなんて夢見たいな話だ。
リリスには一体どんな作戦があるのだろう。
どうやらまだ内緒らしくその作戦についてはそれ以上何も教えてくれない。
日が落ちてきたため僕らは依頼を切り上げて、結局当初の予定の半分の薬草を背負ってギルドに戻った。
※※※
「だから俺も着いてくかって聞いたんだよ初めての依頼で失敗したらリリちゃん可哀想だろ」
「……うるさいなぁ…」
ギルドに戻ると任務報告窓口にドランが立っていた。
どうやら僕らに達成報告の仕方を教えるために待ってくれていたらしい。
…報酬は満額貰えなかったが幸いにも薬草採集と魔石回収は出来高制のため半分の100ゴールドを懐にしまって僕らは家へと向かった。
「お前が良くてもリリスちゃんが可哀想だろって話だ。薬草なんて今時小さな子供が受ける仕事だぜ!」
あれからまだドランは僕に文句を垂れてくる、こいつ初対面の時もっとつっけんどんしてなかったっけ…。
なんか仲良くなるとこういう距離感を急に縮めてくる奴、どこにでもいるんだなあ…。
「お、お兄ちゃんは結構集めてくれたし………むしろ私のせいで失敗しちゃっただけだし…」
「おい変態!!妹に気を使わせるな!!」
…リリスが僕を気遣い庇って、ではなく実際今回の手柄は僕一人によるものだった。
そういえば初めて会った時魔族は再生能力も人間より高いから回復系とあまり縁がない、なんて話をしてくれた気がする。
あと僕の名前って本当に変態で定着してるんですかね…。
このままじゃステータスオープンした時くらいしか本名思い出せなさそう。
僕をひたすらネチネチ攻めるドランを無視したりしながら僕らは昨日のパン屋へ行きまた100ゴールドで小さいフランスパンみたいなカチカチのパンを今度は何食分か買いに向かう。
「…あぁ、そうだ。お前らが助けた女の人目を覚ましたぞ」
「…助けた女の人?あ、初日にダンジョンで見かけた人か!」
「は?初日…?」
「………!わ、私たちが二人で生活し始めた最初の日って意味でしょ!?お兄ちゃんっ」
「……あああ!そうそう!そういう意味!」
思いっきり失言だった。
僕にとっては異世界転移して最初の日であってもこの世界では初日でも何でもないのだ。
リリスが訂正してくれなければ失言にも気づけなかった…。
き、気をつけよう…。
「…まぁいいか。彼女、お前らに感謝してたぞ。特に止血してくれた時は安心したとか…町医者も褒めてたな、手本の様な応急処置だとか言って…」
「あー……まあ素人知識の応急手当てだからそんな大したことじゃないよ」
「……ただどうもあの女変なことを言ってたんだ」
「?ドランさん変なことって?」
「何でも…身体が自分の意思と反して勝手にダンジョンへ向かったって」
自分の意思と反して勝手に…?
僅かに心あたりがあったがそのスキルと結びつけるにはあまりにも突拍子もない気がする。
しかしリリスも同じことを思っていたのか、ちらりと僕の方を見やったが僕のスキルは魔族だけを対象とするスキル。流石に関係はない。
「まあ俺も流石に虚言だと思ってるさ。彼女Dランク冒険者だからな、あのダンジョンは一応Cランクで登録されているし、自分の所持ランクより上のダンジョンに入ったことへの言い訳だと思うけどな」
「へえ…………え、し、Cランク!?あのダンジョンが!?」
「?ああ、そうだぞ。何だあの迷宮ムカデが強すぎてもっとハイランクだと思ったか?自惚れんなよBランクダンジョンなんてお前らが入ったら一瞬で殺されるぜ」
「………」
パン屋についてしまったためこの話題はここで終わった。
……その通りだった。仮にも魔王の娘、リリスが苦戦したダンジョンだ。てっきりBかAはあるものかと…。
Cランクでようやく互角な僕らの実力とSランクの異世界人とのギャップに驚いている。
…まだまだ遠い目標を思いつつ、しれっとリリスにパンを貢ごうとしていたドランを追い返し僕らは家路についた。




