13話【ギルド2】
アルゲニブの街を歩きギルドへ着く。
途中かなりの人がいて驚いた。
「アルゲニブはそれなりに発展した中央都市だからな、人口だって数十万人がいるんだ」とドランが教えてくれた。
…どうでも良いけどアルゲニブって名前言いにくいし噛みそうになる。
ギルドはその大層な名前にぴったりの、大きくて年季の入った建物で僕とリリスは圧倒され震える。
……いや、リリスの方はそれどころじゃない理由で震えてるのかもしれないけど。
「ほら、早く入れよ。とっとと済ませようぜ」
ドランが手を招く。
…僕はともかくリリスはここで登録するわけにはいかないんだ。そして僕もそれリリスの正体がバレることを阻止しなければこの徐々に強まっている頭痛でどうにかなる。入り口で立ち竦む僕らだが、こんな人の多いところでは走って逃げるわけにもいかないだろう。
覚悟を決めるしかないんだ。
震えていたリリスの手を取ってゆっくり歩き出す。
「…だ、大丈夫だよ、僕が何とかするから…」
「…お兄ちゃん」
何の考えもなくただ安心させるために出た言葉だけど頭痛が少し収まった。効果ゼロってわけじゃなかったらしい。
ギルドの中は蝋燭の暖色と大勢の冒険者のむさ苦しい熱気で溢れていた。受付場所に依頼掲示板、角に見える待機場なんて書かれたいくつかのテーブル席では大男達が昼間から笑いながら酒を飲む姿も見える。
…ドランと同じ様な装備の騎士たちも数人見えてちょっと緊張してしまう。
「何だよ、ビビってんのか?」
「はいッッッッ!」
「……お兄ちゃん?」
からかうようなドランの煽りに対して僕が素直にそう答えると頭の痛みがいっそう酷くなった。
横を見るとリリスが不安げに睨んでいる。
ついでに繋いでいた手にも力が入ってきてそろそろ指の骨が折れそうです。
「…ははは!じょ、冗談だよ!冒険者登録くらいなんでもないって〜!」
虚勢を張って笑いながら答えると痛みが少し落ち着いた。
………いやでも本当どうしよう…、ここにきてリリスだけ登録させないっていうのもすごく不自然だし…。
「冒険者登録ですか?」
「は、はい…」
受付のカウンターの向こうからニコニコと笑うお姉さんが僕に話しかける。
「ではこちらの書類のいくつかの項目に記入を、それからステータスの表示をお願いいたします」
書類を受け取って、ゆっくり内容を読むふりをしながら必死に考える。
考えて考えて考えているとある項目が目についた。
病歴/住所/冒険者としての職業/緊急連絡先
「……冒険者としての職業?」
「いや嘘だろお前…」
ドランがまた信じられないものを見る様な目で僕を見てくる。
…なんかこの異世界なら常識だろ何で知らないの?みたいなのもだんだん腹立ってきたな…異世界ハラスメントだろこれ。
「冒険者としての職業っつーのは魔法使いや剣士、盾兵、弓師…いや正直ここ最近は踊り子だのペットブリーダーだの何名乗っても欄になってきてるけど…。まあ依頼人が特定の業種の冒険者に依頼を出す時、何ができる人間なのか判りやすい方がいいだろ?」
「ふむふむなるほどね…納得」
「ちなみに俺は騎士で登録してある」
「まんまじゃねえかばか」
ていうか冒険者って兼業とかできるのか…?それとも王国騎士なんてしながら登録してるこいつがおかしいのかどっちなんだろう。
ギルド内にも騎士がいるところを見るにこの世界では兼業が普通な気がしてきた。
………………いや、けどこの冒険者としての職業…上手く使えたら。
僕の作戦を成功させるためにも受付の方に気になる事を聞いてみる。
「……あの、冒険者として登録するのは冒険する人だけなんですよね?例えば……人形遣いなんかはいちいち人形を登録する必要ないですよね」
「え?…えぇ、そうですね。大事な人形さんや使い魔も登録してくれ、なんて方もいらっしゃいますがギルドの原則では前に立つ方、持ち主の方だけになっていますね」
「…………そうですか」
───それを聞いて安心した。
僕の元いた世界では職業差別なんて言葉もあったくらいだけど少なくともこの冒険者ギルドではどんな多様的な職業でも受け入れてくれるらしいから。
「ステータスオープン!」
ブオン、と機械的な音と共に僕のステータスが表示された。
それを見て受付のお姉さんはゆっくりとそこに記された文字を丁寧に書き写し始める。
ドランは僕のステータスを覗いてなにか「スキルの二つ持ち…?……っ何だこのスキル、いやまさか……」とかぶつぶつ呟いてるけど今はいい、今僕のことはどうでも良い。
隣の少女を救うためただこの作戦に全力を注ぐだけだ。
……全ての項目を書き記して書類を提出した。
「はいっ、確かにお預かりいたしました。では次は、そちらの妹さんも…」
「ああ、いえ、この子はいいんです。」
「えっ?」
「ん?」
お姉さんとドランが不思議そうに僕を見た。
「いいって?どうせだったら登録しておけよ。リリスちゃんも活動できた方が色々好都合だろ」
「いや、登録したくてもできないんだって。僕の職業言ってなかったっけ?」
「はあ???」
ドランが怪訝な顔をして僕の書いた書類を見た。
リリスも不思議そうに僕を見上げる。
フード越しでよく見えないがその表情に疑問の念を抱いている事がわかった。
………イチかバチかだ。今を乗り越えるにはこれしかない、これが今僕に、僕らにできる最善の答えだ。
そう自分に言い聞かせるように僕は自分の職業をはっきりと読み上げた。
「だから僕の職業はペットブリーダー、……ここにいる妹が僕のペットなんです」
あっけらかんと平然に、その言葉を聞いて固まる3人を他所に、奴隷である僕は主人をペットとして公言してみせた。




