11話【宿泊】
馬車から降りると、転移してからの森や草原、ダンジョンなんかと違って活気強い人の声やたくさんの家から大勢の気配を感じて圧倒される。
建物などはイギリスや欧州といった感じのレンガと木をふんだんに使ったいわゆる「エモみ」を強く感じる。
インスタとかにこの景色に投稿したらきっとバズっただろうなあ……インスタやったことねえけど。
「……お、お兄ちゃんどうしよう…」
すっかり僕をお兄ちゃん呼びするのに慣れたリリスが僕の腕に抱きつく。
異世界は少し肌寒いのもあってかリリスの暖かな体温がやけに強く感じられた。
「お前らが助けた冒険者は別の騎士が医者に連れて行く。……もったいねえな、お前らが冒険者の資格でも持ってりゃギルドから報酬が出たのによ」
「ギルド?」
「優人だっけか?…お前本当に何も知らないんだな…この魔族と戦う世界で冒険者を管理している組織だろ」
「……あっ、あー…そうそう、そんなんあったねえ〜…」
知らない何だよギルドって、当たり前のように描写するけど読者はギルドとか現実に存在しない組織を言われても想像できないからね?できればもっとギルドについて教えてくれ…。
しかしあまり怪しまれるわけにもいかないのでそこは適当に話を合わせた。
「薬草だって町商人に売るよりギルドに出したほうが高値で売れるんだから、ちゃんと登録しとけよ。リリスちゃんにひもじい思いさせるなクソ兄貴」
「こいつロリコンキャラが板についてきたなあ…」
「声に出てんだよてめえは…」
「ぐふっ」
うっかり思ったことがそのまま口から漏れたらしい。
ドランは僕の鳩尾を殴ると「…ふんっ」と鼻息を鳴らして歩き始めた。
「お前ら兄妹の宿はこっちだ。さっき管理人と話もつけてしばらく部屋を好きにして良いってよ。しかも角部屋だぜ、俺に感謝しろよな」
得意げにドランが笑って答える。
初めて会った時よりかなり友好的な印象を感じるのは僕が愛されキャラだからだろうか。
「…お兄ちゃんみたいな濁った目をする人そうそういないと思うけど…」
また声に出ていたらしくリリスに突っ込まれ、落ち込む僕を最後尾にしてアパートの階段を登った。
※※※
「じゃあ俺救助したやつのことギルドに報告しに行くから」そう言ってドランは一室を後にした。
なんか口ぶり的にまた様子とか見にきそうなんだけど、本当にリリスのこと好きだなあのロリコン…。絶対近づかせない様にしよう…。
念の為玄関に鍵をかけてつっかえ棒をして重い荷物で塞いだ後ようやく一息ついた。
「はあああああああ…疲れたぁ」
僕より先にリリスがベッドへ倒れ込む。
およそ6畳ほどの小さな部屋に唯一の家具を今僕の妹(仮)が占拠している形だ。
緊張が解けた反動もあってか解ける様に大の字に寝そべる。
「すごいな…、ちゃんと蛇口捻ったら水出るじゃん…異世界のこと舐めてたのかも」
「そりゃあ魔石さえ使えば水くらい使い放題何だからそんくらいで…」
僕はといえば初めての異世界家屋に興奮し室内を探索している。
ヘニャヘニャのリリスが僕の疑問に答えてくれた。
どうやら水道の技術にも魔石とやらが使われてるみたいだが一体どういう仕組みなんだろう…考えてみたいけど頭の悪い僕じゃきっと理解できないからやめた。
「ていうかこれからどうするのリリス、流石にここで一年リリスの正体を隠して隠居なんてできる気がしないんだけど…」
「知らないよぉ、わたしもう疲れた〜。シャワー浴びて寝たいぃ……」
「シャ、シャワーなら一階にあるみたいだけど…」
「じゃあちょっと浴びてくる……」
「…ちょ、ちょっと待ってリリス!フード!フードかぶって!!」
「………あぁ、そっか。んしょ…いってきまぁす〜」
よほど疲れているのだろう、ふらふらとした足取りで入り口を出て行った。
大丈夫かな、階段落ちないと良いけど…。僕たちの部屋は3階建アパートの最上階で一番階段から離れたところにある。
そりゃ入居者もいないし格安で泊まれるわけだ。
自慢げに角部屋と話してたドランの顔を思い出しちょっとムッとしてしまう。まああいつ僕と同い年くらいみたいだし ……ここら辺わかんなくても仕方ないか…ていうかホームレスに家を貸してくれるだけでも十分な善行だ。
部屋には埃が積もっていて歩くたびに足跡がついた、綺麗好きとはいえない僕であってもこれはちょっと心地悪い。この様子だとベッドも酷いだろうなと腰掛けると、疲れが一気に襲いかかりそのまま倒れ込んでしまった。
…そういえば今日一日で、僕の人生全ての出来事を足しても足りないほど色々あったなぁ……
生と死の狭間で出会った魔王のこと。
その娘で僕を奴隷と呼ぶ妹キャラ庇護対象。
ダンジョンモンスターにツンデレロリコン騎士。
最後のやつが一番キャラ濃いじゃねえかと思いつつ、どんどん思考はスローになりやがて薄れていく。
「…しまっ…たな…やっぱり僕も一緒にシャワー浴びれば良かった…」
汚れた身体のまま糸が切れるように僕は眠りについた。




