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10話【西ノ街・ アルゲニブ】


僕達は、馬車の中にいた。

思ったより揺れてるのは馬車のせいなのか道が悪いからなのかそれとも隣で震えているリリスが僕にしがみついているからなのだろうか。

多分最後者のやつだな……。


「んだよ…悪かったってお前の兄貴を吹き飛ばしたのは。別に取って食ったりしないから安心してくれ」


幸いにも僕らの警戒すべき対象、人物。ドランという青年はかなり子供には優しいらしくさっきからリリスの機嫌を取ろうとしてくれてる。

ダンジョンを歩いてる時も(吹き飛ばした僕には聞かないくせに)怪我ないか再三確認したりダンジョンを出た後はお菓子を食べるかとポーチからなにか袋を差し出したり馬車に乗る前は「気をつけろよ」といって手を取って乗せていた。

僕が馬車に乗り損ねて落っこちたときは蔑んだ目でみてたくせに…。

それから僕たちのことを兄弟だと勘違いしているらしいけど……せっかくなのでその設定には僕らも乗っかる。


「えっと…ドランごめんね。僕の妹、人見知りが激しくて…」

「ちっ、お前には聞いてねえよ」


な、なんだぁ…?てめえ…。

流石にちょっとムッとしたが拳じゃ絶対に勝てない相手なのでそっと怒りを飲み込んで、僕は向かい合わせにいるドランの足に僕の足を乗せるだけにした。

甲冑を着込んでる奴には気づかない、これが大人のやり方…。


溜飲が下がったことで少し心に余裕ができた。

目の前のドランという青年、年は僕と同じくらいかな?

栗色の髪をしていて髪は僕より短い、ツンツンと跳ねたくせっ毛が見える。

甲冑を表現するとしては不自然な良い回しだけど、かなり動きやすそうな軽装備にを着ている。すねや胸、頭部などの重要な箇所だけを覆うように金属が付けられていて、結構身軽そうな印象を受けた。

顔立ちや髪型、その筋肉質な身体から威圧感を感じるが話が通じない相手ではない、そんな穏やかな気配も感じる。


「………お前ら何であんなダンジョンなんかにいたんだ?」


ドランの方から僕に声をかけてきた。

沈黙に耐えきれなかったのか僕がジロジロ舐め回すように見ていたのを遮るためか、どちらにせよ会話してくれるならありがたいけど。


「この救助した女とパーティってわけじゃないんだって?なのに何で街からそれなりに離れた場所にあるあんなダンジョンにいたんだ?」

「え、えっと…」

「…ま、迷い込んだの。わたしたち、草原に薬草を採りに行ったらあの大きな穴に落ちちゃって!」


言葉を探していた僕にリリスが助け舟を出してくれた様だ。

薬草、そういうのもあるのか…。


「………そうか。

魔族の森も近くにあるからな、次から行くときは気をつけろよ」

「う、うん…」


やっぱりリリスと話す時だけ優しげな声で話すドラン。ロリコンなのかなこいつ…だとすれば同族として良いお酒が飲める気がする、未成年だから決して飲まないけど。


「…お前ら家はどこだ?」

「い、いや、同じロリコンとはいえ流石に家まで詮索されるのはちょっと…」

「はぁ?」


ドランが引いた目で僕を見てくる。

てっきりリリスが好き過ぎてストーキングするつもりなのかと思ったけどどうやら違ったみたいだ。

ドランは関わってはいけないやつを助けてしまったと言いたげに僕を睨んできたので、僕からはウインクをお返しする。

人と目を合わせるのが苦手な僕にはこれが精一杯だ。


「……こ、これからこの馬車は西の街、アルゲニブへ向かう、お前たちの家はそこにあるかって聞いてるんだ…」


引き攣ったドランの声。

なるほど、目的地の街と僕らの家が近いかを確認してくれていた様だ。


「ああ、そういうね…えっと僕らの家は…」

「わたし達に家はないよ」


ちら、とリリスを横目で見るとまたすぐに助け舟を出してくれた。


「最近魔族達の攻撃で村が焼かれて…。両親もいないし私たちはアルゲニブの大きな橋の下のスラム通りでその日暮らしをしてるの」

「最近?……あぁ…ヤード村の住人か…っち魔族どもが最近妙に凶暴だったからな…」


不自然にならないように、僕も適当に話を合わせて何とか誤魔化す。

それにしてもリリスは何度か街へ実際に行ったことがあるのか、随分具体的な地名や店名を出してドランの信頼を得ていた。


「…………そうか、家が…」


そう含みを持たせた様に言って黙り、僅かに俯くドラン。

何かを悩んでいるようだけど……嘘をついている分、僕はなんだか申し訳なくなった。

でも仕方がない。家まで送るなんて言われてしまうと怪しまれるし、これ以上面倒を見れないくらいのエピソードで僕たちはうそをついた。

リリスが魔族であることがバレる訳にはいかないんだ。

悪いけどここはもう見限ってもらって…


「…よし、わかった。お前らの家は俺が手配する」

「「え!?」」


リリスと僕の声が重なった。い、今なんて言った?


「かなりのボロアパートだが安心しろ。俺の住んでいる兵舎とすぐ近くで治安もいい、俺が口を利けばしばらくは泊めてくれるだろうし、数ヶ月分の宿代くらいは俺が出してやる」

「い………、いや、いいよ!」


マジで。


「お前が良くてもリリスちゃんを外で寝かすわけにいかねえだろ!!良いから大人しくいうこと聞いとけ、ここでお前らを放って薄汚い魔族にでも襲われでもしたら俺の寝覚も悪いからな」

「えぇぇ…」


困った、こいつかなり面倒見がいい性格みたいだ。けどそんな兵舎の近くで暮らすなんてどう考えても僕らの危険が危ない。

そもそも今こいつが助けようとしてる僕の横の少女こそ、その魔族なんだけど……やっぱまいったな…。

僕は更に申し訳なくなってドランの足の乗っけていた靴を退け爪先だけで優しく踏むだけにしておく。せめてもの償いだ。


「ね、ねえお兄ちゃん。さすがに申し訳ないし私達ここで降りよっ!まだ薬草も全然取れてないし!」

「ああ、そうだよね!薬草とらなきゃだったもんね!じゃあそういうわけでドラン僕ら…」

「おーい!ドランさん!街に着きましたよぉ!」

「「………」」


馬車の先から御者の声が聞こえた。

どうやら判断が遅かったらしい。


「…まっ。そういう訳だ、お前ら大人しく俺の世話になっておけ」


そういうとドランはニコッと笑って同時に馬車の揺れがかなり大人しくなる。

どうやらさっきまでの振動は道の悪さもあったらしく、その揺れから僕達は街の石畳を走っているのだと理解させられた──…

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