アーシア
宜しくお願いします。以前書いていた話ですが、前の作者ページにログイン出来なくなってしまったので、推敲しながら再投稿。話が変わった部分もあります。
宜しくお願いします。
「アーシアを学園から護送しました、どう致しましょうか」
「取り調べ室に入れておけ、私が話をする」
ライコネンはそう答えると、先程からひっきりなしに鳴っている携帯に出た。
「アーシアをどうしたっ!」
「ロバート、すまないな、携帯を執務室に置き忘れていたのだ。丁度、着信に気がついて折り返す所だったのだよ」
「そんな事はどうでもいい、何故だ、何故アーシアを連行した」
「盗用疑惑だ。メールしただろう、若い彼女にそんな疑いをかけたくはないが、訴えがあるのを無碍にも出来ないのでな」
「誰が訴えているというのだ、彼女がそんな事をする訳がない。お前もそいつに利用されているのだぞ」
「ご教示ありがとう。しかしな、訴えを起こしたのはクランク教授だ。教授の訴えを貴殿は無視したとも聞いているぞ、いかんな、学生を大切にするあまり、不公平というのは」
「やはりか、クランクはそこにいるのか?」
「クランク教授がどこにいるかは知らん。学長なのにそんな事も知らんのか? 恥の上塗りだな。調査が進めば、貴殿にも色々と話をしてもらう必要がある」
「俺の話が聞きたいなら、直ぐに招聘しろ、でなくてもそちらに行くがな」
「アポイントメントは来週まで埋まっているが・・・、良いだろう、明日、時間を取ろう」
「きっとだぞ」
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腹立たしい、電話が切れると携帯を投げつけた。ハインツとカルラが目に入り、少し冷静になる。
「すまない、明日、ギルドに行ってくる」
「学長、私も連れてってください。私がアーシアが無実だと証明して見せます」
「カルラ、それは是非お願いしたいが・・」
「私も行きます」
「ハインツは残れ、下手をすれば私は帰ってこれないかもしれない。その時、アカデミーのまとめ役がいる」
「学長がですか? 学長にも何かを言ってきたのですか」
「訴えたのはクランクだ、俺はクランクの訴えを無視したとさ」
「そんな訴えがあったんですか?」
「無いな、しかし、無い事も証明は出来まい。カルラよ、そういう訳で同行は危険かも知れん。一緒に行くとしても護衛がいる」
「私は研究の徒です。しかしその前にアカデミーの人間です。危険を恐れて何もしない、それは学長の教えでは無いはずです」
コンコンとドアがノックされた。良くない知らせが続いている。次は助けであって欲しいものだ、ロバートはそう思いながら、入れと声をかけた。
ドアの向こうには、エルザパーティとシロウ達がいた。
「学長、声が大きいな。全部聞こえてたぜ。俺達を護衛にしろよ」
「リョウ、なんて言葉遣いだ。学長、このエルザに恩を返す機会をください」
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「何だ、大所帯で来たなロバート、愛する学生がいれば、恐れるものは無いなどと思ってはいないか?」
「そうかもな、残念ながら俺は身体を張ることしか出来ん。それは今回の件で良くわかったぞ」
「殊勝な事だ。罪を認めたか」
「罪? 何の話だ。俺はこんな場に学生を立たせてしまった事を悔いているだけさ。俺の頭はアーシアを助けてやるには不足している、それだけだ」
「そうだな、盗用研究がなされるくらいだ、頭の良し悪しなど私は知らないが、管理は覚えるべきだな」
「こんな話はたくさんだ、アーシアはどこにいる?」
「丁度、昨日の夜にクランク教授も私に助けを求めて来た所だ。当事者達の話を聞き、判断するとしようか。最も既に話はついたようなものだがな」
「どういう事だ、アーシアがしてもいない盗用を認めたというのか」
「少し違うな、二人は和解した。そして今後はギルドの研究室に入りたいと申し出があった所だ。今回の騒ぎだ、アカデミーにそのままいて、要らない誤解を招きたくないとな」
「騒いだ当事者が言うことかっ」
「騒いでいるのは貴殿だと思うが、まあいい、二人を連れてこい」
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「アーシアっ」
部屋に入ると学長やカルラ、ロイが声をかけてきた。私は盗用なんかしていない。そう叫ぼうにも口が開かないのだ。昨日、ライコネンという人と話してから、何かがおかしい。
「さて、クランク教授、アーシアとの話し合いの結果を披露して貰えるかな」
ライコネンがそう促すと、隣にいるクランク教授が話し出した。
「ロバート学長、お騒がせしました。私は研究に熱くなりすぎましたな、学生が私の研究を盗んだなどと申し立てて誠に申し訳ない。ただ、心血注いだ研究とは我が子の様なものなのです。ご容赦願いたい。また、私とアーシアは昨日から話し合い、重なった部分があったことやお互いの研究が役に立つ事がわかりました。これからは場所をギルドに移して、共に研究を続けることで合意しました」
「アーシア、それは本当か?」
学長の問いかけにアーシアは動けない。確かに昨日はそう言われて、それが良いと思えた。誰にも邪魔されずに研究さえ出来れば良いのだ。アカデミーである必要は無い。攻略者だって直ぐに手配できると請け負ってくれた。違うって叫ぶ自分がいる。それもわかっているが、蓋をされた様に表面には出てこない。
「ライコネン、アーシアに何かしたな!」
「ロバートよ、哀れだな。そんな言いがかりしか言えないのか、私は彼らに道を示しはしたさ、ダンジョンの脅威を取り除く為に、手を取り合ってはどうかとね。彼らの研究はそれだけの価値がある」
「アーシアッ、こっちを向け、この俺の目を見ろ、そして話せ。俺がお前を守ってやる。あの時のシカさんの様に」
ロイの声がする。シカさんが私を助けてくれた。あの時のオークが振りあげた斧を一生忘れる事はないだろう。震えて縮こまる私の前に、ロイが身を投げ出して私を守ろうとした事も、颯爽と現れて私達を助けてくれたシカさんの背中も。
自分の中に何か芯の様なものが通った。俯いた頭を少し持ち上げる。ロイが熱い目でこちらを見ていた。
読んで頂きありがとうございます。
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